少年将軍の野心
1少年将軍の野心
火の国はもともと民主主義体制をとっていたのだが150年程前ストームプリンガーと名乗った一人の商人が採掘業の独占で莫大な財を築き政界に進出し見事な外交手腕で経済を一気に加速させ民衆の支持を一挙に集めた。
その後様々な大臣を兼任し次々と改革を進め経済は飛躍的に成長し民衆の間では彼に任せれば火の国はこれからも安心だ。彼ならなんでも出来る。彼の言うことに間違いは無い。と言う風潮になり最終的に議会も不要彼に全て委ねようとまで言われだしたのをきっかけにストームプリンガー帝国の初代皇帝と自ら名乗るようになり実質の権限の全てを握っていた彼は名実ともに専制国家の皇帝となった。
「いつ聴いても不愉快極まりない話だな!そうは思わないか?」
国家の成り立ちを聞いて不機嫌な顔をしているのはホークという火の国の軍人で17歳と言う若さで武勲を重ね続け少将にまで登りつめた黒く長い髪と冷徹な表情に燃えるような真紅の瞳が印象的な非常に美しい少年である。
「そうでしょうか?その後の衰退はともかく彼が行った政治自体は決して避難されるようなものではないように思いますが?」
そう答えたのはホークの腹心ローランドで彼の指揮する部隊では切込隊長として先陣を任されているホークが最も信頼している部下である。背丈は180センチとやや大柄という程度だが戦場で振り回す剣は刃渡り2メートル厚み10センチの鉄の塊である。戦場では彼の通った跡は竜巻が通ったと言われ風神と称されている。
「当時採掘権を独占さえしていれば子供にだって経済を軌道に乗せる程度のことは出来たのだ!それをまるで天才が奇跡を起こしているかのように錯覚した民衆も目先の事しか見ていない・・・愚かなものだ!」
吐き捨てるように言葉を発し拳を握り怒りをあらわにする。当時行われた独裁は今もなお続き今では才能の欠片もない男が皇帝として国を自由にしているのだ。
「しかし当時の民衆も初代の皇帝も今の情勢を予知することは難しかったのではないでしょうか?それを責めるのは少々酷というものです。」
常に物事を好意的に解釈するローランドの気質は貴重で彼がいなければホークは上官とのトラブルで確実に今の立場は無かっただろう。
「確かに急激な経済発展でまともな思考が出来なかった民衆を責めるのは酷なのかもしれん、しかし少し冷静になれば専制政治に身を委ねることの危険性は分かるはずなのだ!今までの歴史上で世襲制は緩やかな衰退しか生まない事は明らかだったではないか?だからこそ迂遠で非効率的でも民主主義政治が採用され続けたのではないか!!」
別に民主主義政治を好ましく思う訳では無いホークであったが彼にとって無能な貴族が血筋だけで出世する今の社会体制には憎悪すらしていた。
「まぁ今の軍隊に優秀な人材がいないからこそ一介の傭兵集団でしか無かった我々が軍隊の中で武勲を上げ続けることが出来るのですから、今の情勢を上手く利用する事を考えましょう。」
彼らの直属部隊は皆一般市民で危険な海の近辺で塩の採取を主に行っている家系だったのだが、10年前水質汚染により地上に上がってきた怪物に両親を殺されてしまったのである。
初めは少ない人数だったが塩の採取を行う市民の護衛を生業として代金として金銭ではなく採取した塩の一割を受け取る形をとっていた、その近辺の価格で考えれば極めて安い値段で警察や軍人より戦いに慣れた彼らを雇うことで安全性はぐっと向上したので依頼は絶えることはなかった。
確かに安価で引き受けていたが、道中で盗賊に襲われても返り討ちにできる彼らは容易に帝都まで報酬の塩を運ぶことが出来た。
海から離れるほどに塩の価格は高騰するので中央からやや北東に位置する帝都に卸すことで十分な収入を得ることが出来たのである。
しかしそこに目をつけた大貴族が国家的な事業として取り入れたのである、ただそれは市民の安全には配慮されず怪物が現れたとしても決して前線に出る兵士はおらず遠くから当たらない矢を無意味に撃つだけでホークが取り仕切っていた時には市民の犠牲はなかったのだが今は兵士の犠牲は無くなった代わりに市民は毎年数百人の犠牲を出してしまっている。
その上代金は採取を見込める量の5割・・・たとえ今年の採取量が去年の7割に満たなかったとしても採取目安量の5割である、通常なら誰も依頼しないのだが特権を活かし帝国指定の護衛団による護衛を義務化したのだ、事実上の増税である。
その際邪魔だったホークの傭兵団を帝国軍の最前線に送り込まれた際に破竹の活躍を見せることとなり正規の軍人として登用されることになったのだった。
「そろそろ私に師団の一つでも指揮させてくれれば要塞の一つも落としてみせるのだが・・・」
ホークの帝国からの指揮官としての評価は少将という肩書き程高くない、というのも極めて優秀な働きをするのだがローランドが比喩ではなく騎馬1000人分の働きをするのでローランドという優秀な部下のおかげで出世しているだけの若造というのが彼の風聞であった。
「ホーク様なら焦らずともすぐに機会が巡ってきますよ。」
最もホークの采配を良く理解し信頼しているのもローランドだろう。
自分がたとえ一騎当千と言われてもそれで埋められる戦力差は1000人までである、それに対しホークは時に数千の差をひっくり返したことも何度かあるのだ。
「分かってはいてもそのすぐを待つことすら歯がゆいものだな・・・」
あまりに若い少将の野心はとどまるところがなかった。