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よるの帳  作者: 翠
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彼のお話

夢の中でおれはある少年の人生を見つめていた。

産まれたその瞬間からその1日1日を、細かく細かく。


彼の名はエリオ・ディゴライト。

茶褐色の髪にグレーがかった青い目の美しい男の子は、代々優秀な魔導師を輩出する家庭に産まれ、それはそれは大切に育てられた。


優秀な遺伝子と惜しまない努力から、常に他よりも抜きん出て良い成績をとっていた。

高等な家柄により謙るものもそれにあやかろうとするものも多い中で、彼はすくすくと傲慢になっていった。



ところで、彼には兄がいた。

兄には、魔道士になるどころか、魔法の素養が一切無かった。


しかし彼は、兄が大好きだった。働き者で親切で友達が多く、自分の素晴らしいところを鼻にかけたりしない。大きくて優しくて、悪いことをしたら怒って、頑張ったら褒めてくれる。当たり前のことだ。でも彼の周りにはその当たり前な愛情が存在しなかったので、彼はそれをとても大切にしていた。


しかし、その傲慢さゆえか、天性の鈍感さか、彼は気づかなかったのだ。兄が、どんな目をしていたかなんて。



そして、彼が14歳の時。


彼は敵対している家に誘拐された。魔力を封じる魔法陣を敷かれ、抵抗出来ずに酷い暴力を受けた。縛られてめちゃくちゃに殴られる中、近づいてくる影。彼と同じ茶褐色。




その誘拐の手引きをしたのは、兄だった。



そして、兄にも暴力をふるわれた。痛かった。他の誰に殴られるよりも。どうして。なんでこんな。涙が止まらなかった。

最後に兄は彼に跨って胸ぐらを掴んだ。そして、吐き出した。呪詛の言葉を。



ずっとお前が疎ましかった


妬ましかった


お前のせいでおれは惨めだった


父様も母様も認めてくださらなかった


おまえなんか




産まれて来なければよかったのに。




そしてナイフが突き立てられそうになる。でもなっただけ。

兄が胸に突きつけたナイフは、震えていてなかなか降りて来なかった。兄の目もまた、揺れていた。彼はやはり優しい兄に、殺してくれとさえ思った。


結論、彼は助かった。すぐに家の者が彼の場所を突き止め救出に来たのだ。兄はその場で殺された。彼の目の前で。


その時、彼は明らかに心を殺されてしまったのだ。


それからの彼は、はっきりいってクソ人間だ。技術をみせびらかし、人を見下し、好意を無下にし、生活水準の低いものをばかにした。それまでは鈍感ながらもあった優しさや気遣いが、一切なくなってしまった。彼は、人の優しさも、自分の優しさも、何一信じられなくなってしまった。純粋な悪意の方が、嫌らしい優しさよりもよっぽど親切だと。

高等魔道の名門学園に入園したあとも、彼はそのように振舞った。こんなに最低な行動をしても彼の周りから人は居なくならない。彼は絶望していた。こいつらみんな、友達なんかじゃない。


唯一のことは、彼はクラスメイトの金髪翠眼の少女、ミーナ・ペリドットという優秀な生徒を少し気に入っていた。入園してしばらく経った頃、彼女が勉強していた羊皮紙に思い切りインクをぶちまけたことがあった。すると、彼女は当然ながら烈火のごとく怒った。彼女の家庭は貧乏で、彼女は奨学金を使いながら一生懸命に勉強していることは知っていた。だからやった。大抵のやつは、おれに歯向かわない。おれに魔法で敵わないし、おれの両親からの社会的制裁も有名だ。だから大抵のやつは、泣きながらどこかへ行ったり、悔しそうに俯くのだ。だから、おれはその当たり前の反応が嬉しかった。彼女はすこし兄に似ている。



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