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よるの帳  作者: 翠
3/4

始まりは斜陽


そこでがくりと頭が揺れて、はっと覚醒した。

どうやら頬杖をついて居眠りをしていたようだ。


「え…?」


目に飛び込んできたのは、見たこともない紺のローブを着ているおれの上半身。

大きな黒板に前に立つ初老の男。黒板のメモ。沢山の机。まるで学校の教室のような風景。

おかしい。さっきまでおれはどこかを漂っていたはずだったのに。


一体ここはどこだ。周りには沢山人が座っていて、その人たちはみんなおれのことを一斉に見つめていた。


「へっ!?」と間抜けな声を出して、思わず立ち上がって椅子を倒した。

すると黒板の前に立っていた初老の男が呆れたような顔をし、ぽりぽりと髪の薄い頭を掻いた。


「なんだぁ、話聞いてなかったのか?お前らしくねえな。

_隣のペリドット、代わりに答えろ」


隣に座っていた女性__金髪翠眼の、日本人離れした顔立ちの__がこちらをちらりと一瞥し、立ち上がって前にいる男性にすらすらと答弁する。


「はい。使い魔の召喚には、本人の性質や魔力、といった潜在能力が多く反映されます。使い魔の能力は召喚主に比例し、また魔道士に似た性格の者や、逆に魔道士と正反対の性格で魔道士の精神的不足を補う者など、使い魔の性格は大きくこの二つに分かれます。それから…」


彼女が答えている間もおれはキョロキョロと周りを見渡す。大きな窓から黄色がかった斜陽が差し込んでいて、教室は明るい。大学のような半円の机に、50人ほどだろうか、様々な生徒が席についている。

しかしその様相は髪や瞳が緑、赤、金銀…と明らかに外人だ。日本人のような顔立ちの人もちらほらいるが、その人たちは耳が妖精のように三角に尖っていた。彼女の答弁を羊皮紙のような紙にインクと羽ペンでとっているものもいれば、興味なさげに窓を見ているものもいる。その中の生徒で、おれと目があってにやにやするやつや、肩をすくめて見せる者もいた。


彼女の答弁が終わり、教師らしき初老の男が拍手をする。


「うむ、完璧だぞペリドット。よく勉強しているな。

それに引き換え、ディゴライトは寝不足か?授業中に寝るなんて、今がどんなに大事な時期か分かるだろう。全くお前さんらしくない」


席につけ、と言われよろよろ席につく。


ディゴライトってなんだよ。おれのことか?一体、なにがどうなってんだ?


隣からの視線をビシビシ感じてゆっくり振り向くと、さっきの彼女がおれをめちゃくちゃ睨みつけていた。わけが分からずぽかんとしていると、彼女がおれになにか言おうと、口を開く。


その時、大きな鐘の音が鳴り響いた。静かだった教室に音が戻り、周りの生徒が筆記用具を一斉に片付けている。どうやら授業らしきこれが終了したようだ。


「次の試験でいよいよ召喚だぞー、魔法陣をしっかり復習しておけよー、どんなんが出ても知らんぞー自己責任だからなぁ」


と、言いながら先生は出て行った。ぎょっとしたのは、足を動かしていなかった。床を滑るように、飛んで出て行ったのだ。後ろ姿に見えたのは、薄くなって来たくせ毛の茶色い髪に、ヤギのような角だった。


「ちょっと!」


鋭い声が聞こえ振り返ると、さっき睨んでいた彼女だ。


「こんな大事な時期に居眠りなんて、そこまで余裕っていうのを見せつけたいわけ。

言っておくけど、試験で手を抜いたら許さないから!!!」


パシンと頬を張られた。首が殴られた方向にぐきっと曲がるくらいにはわりと本気のビンタ。彼女は走り去って行った。


訳が分からない。


隣に「災難だな」と言って笑いかけてくる男がいる。前にいた生徒が「それにしても今日はどうしたんだ?お前らしくないな」と話しかけてくる。


ここはどこだ。


きみたちは誰だ。


おれはなんだ。


意味不明な状況で、彼女に叩かれた頬をだけが、これが夢で無いことを語っていた。



目眩がして、おれは意識を手放した。


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