第1話 復讐者
目も前に立っている40歳前半の男に俺は自分の刀を突きつけた。
「貴様ッ!?一体どうやって!!?」
「それの疑問はどうやって屋敷に侵入したのかってことか?それともどうして俺がお前の立っているのかということか?」
「どちらもだ!どうして貴様がここにいるのだ!?」
「おいおい...まさかほんとにわからないのか?そんわけないよな?」
「貴様は確かにあの時に死んだはずだろッ!!」
「ああ、記録上は死んでいる。だから貴様の目の前にいる俺は本物だ。」
「”記録上は”だと...?」
男は言葉の意味を理解しかねているようだった。
だから説明してやった。
「あの日、俺の遺体は見つからなかっただろ?」
男の疑問に笑みを浮かべながら答えてやると
「そういうことか!貴様はあの日生き延びたのだな!」
どうやら理解してもらえたようだ。
「まあそういうことだ。」
「しかし、どういやってあの火の中を!?」
「おっと、今のは失言じゃないか?あの日、あなたは四国の別邸に居られたのであろう?」
俺の言葉に男は顔面蒼白になる。
「そ..そうだ。私はあの日の事件には関与していない!!」
しかし、認めるわけにはいかないのだろうか男は必死に言い逃れる。
「まあ今更そんなことはどうでもいいんだよ。」
そう俺はこんな無駄話をするためにここに来た訳ではない。
ささっと目的を果たすことにしよう。
「なら一体何のようだ!この私を襲撃するなど極刑に値するぞ!」
「俺がお前に会いにいや...殺しに来た理由が本当に分からないのか?」
俺は刀を構えていつでも切りかかれるように体勢を整えた。
それを見た男はフッと笑みを浮かべて
「ふふっ。ふはははは!この俺に、いや護法六家である星宗の家にたてついてタダで済むと思っているのか、貴様は?」
そんな挑発に今度は俺が笑みを浮かべて宣言してやる。
「そんなことは百も承知。7年前の真実を知った日から覚悟はできてるさ。護法六家すべて、とくに星宗の血を根絶やしする覚悟がな!」
「そんな覚悟、へし折ってくれる。すぐに貴様の顔が絶望でぐちゃぐちゃになるであろうよ、7年前のようにな。」
男はひくひく笑いながらも殺気を纏わせた。
その殺気に俺も笑みを消してジッと見据えた。
すると、男の体が突如発火した。
「さぁ、圧倒的な力の前に絶望するがいい!!」
その言葉に呼応するように影康から出た火が波のように俺に向かってくる。
星宗流炎法術・”炎津波”。それがこの術の名前。
法術とは退魔師が妖魔に対抗するために編み出した呪術のことである。
星宗家は炎の法術の一族。
それを使ってくること自体は俺の想定の範囲内だった。
焦る必要も無い。
俺は向かってくる炎の壁にただ自分の刀を水平に構えただけ。
「怖気づいたか!」
男は自分が勝ったと言わんばかりに笑みを浮かべる。
すぐにその笑みが恐怖に塗りつぶされるとも知らずに。
「喰らえ...」
その一言がトリガー。
俺の禁断の力を解放する鍵。
「さぁ我が星宗の炎の前に燃え散るがいい!!」
男の言葉通りに焼き尽くそうと炎の壁は俺を飲み込もうとする。
しかし、そこで男にとって想定外の事が起きた。
なんと俺に向かってきたはずの炎が一瞬にして刀に飲み込まれた。
そうまるで炎が刀に食われたか(・・・・・)のように
「一体なにが..起きている」
男はあまりの出来事に信じられないと放心状態になっていた。
俺は男との距離を一瞬して縮めると左胸にむけて刀を突きつけた。
「終わりだ。」
最後の宣告と共に男の顔から血の気が引いていく。
「ままってくれ!!7年前の事件に私は関わっておらんッ!あれはすべて兄上が!!」
「そんなことはもうどうでもいいんだよ。事件に関わっていようとなかろうと星宗の血筋はこの俺が根絶やしにする!その第一号がお前だ!!」
俺の覚悟に気おされたのか男の顔に苦渋の色が浮かぶ。
そひてそれとは反対に俺の顔には笑みが浮かんでいた。
「だが、確かにお前は兄に従っただけなんだろう。だから...」
「何を言っ...ゴフッ...」
男の胸を俺が突き出した刀が突き刺さっていた。
「どう..し.て」
「だからせめて一刺しで楽に殺してやる。」
心臓を一突き。痛みもなかっただろう。
なんともあっけない結果に俺は可笑しさのあまり笑みをこぼす。
実に滑稽だ。何が滑稽かって?
そんなの決まっている。
私利私欲に溺れる支配者だったこいつの死に様もそしてなにより、そんな奴らへの復讐のためにこの手を血で染めた俺も。
でももう後戻りなんてできない。
一人目を殺してしまったのだから....。
「あーあ。もう殺しちゃってるし...」
その声で俺は瞑想の中から現実の世界へと引っ張り返される。
「ねぇ、明人?ちゃんと尋問して情報を引き出してから殺す手筈だったわよね?」
まったくもってそのとおりで...
「いや...つい、すまん舞花。」
俺は後ろに現れたパートナー、いやむしろ共犯者の緑川舞花に素直に謝った。
「まあ、最初からこうなるような気はしてたんだけど。」
舞花は盛大にため息をつきながらにらんでくる。
「ほんとにすまん...。やっぱり我慢できなかった。」
「はぁー...まあいいわ。直接あの事件にこいつは関わりが無かったみたいだし、尋問してもたいして情報は得られなったでしょうね。」
ああ。確かにこいつは
”あれはすべて兄上が”といっていた。
つまり...
「すべての元凶はあいつね?」
俺の考えを見透かしたように舞花が答える。
「そのとおりだ、舞花。あいつをこの手で殺した時がこの物語の幕引きだ。」
どうしても笑みを浮かべてしまう。
目的の最終地点がようやく見えてきたのだ。
普通に考えたら目標のゴールが見えてきたことはうれしくないはずが無いだろう。
それでも俺がやっていることは自分の手を血に染めること。
復讐という名の人殺しなのだ。
他人からみたら俺はもはや異常者といっても過言ではないのだろうな。
「明人...」
そんな俺を見て舞花は俯く。
「すまん...不快だろうなお前は。でも俺はうれしくてしかたない。」
やっていることはただの人殺しなのに、犯罪なのに俺は笑っている。
俺の心は遠の昔に壊れているのだから。
でも...舞花はまだ。
「それよりも舞花、本当に...良かったのか?別にお前まで...」
「もう遅いわ、明人。私は今ここにいる、それが答えよ。」
舞花は俺に微笑みかけながら力強く言ってくれる。
「そうか。」
「それにこれを刻んだ時点でもう後には引けないわ。」
舞花は自分の右手の甲を俺に向ける。
そこには筆で書いたような筆跡で円とその円の真ん中を突っ切るようにかかれた横の一線。
いわゆる”二経文”(にきょうもん)が描かれていた。
俺の右手の甲にも同じものがある。
「確かに...そのとおりだな。」
俺は納得する。
「で、次は?」
「この娘よ。」
すかさず、舞花が1枚の写真を手渡してくる。
写真には学生服姿の女の子が写っていた。
腰まで伸びた長い黒髪、整った顔、豊満で成長豊かな肉体。
美少女とはこういう娘をいうのだろうなと思う。
それでもこんな美少女でも舞花がこの写真を手渡してきた=俺が手を掛けなればならない標的。
殺さなければならない相手。
じゃないと俺は救われないから。
「白鷺学園二年の星宗咲夜、それが次の標的。星宗家の次期当主であり、あいつの一人娘。学園では”白鷺の姫巫女”と呼ばれているそうよ。」
舞花が標的の説明をしてくれた。
星宗..咲夜...
なぜだか分からないがその名前を聞くと心の奥が震える。
でも今はどうでもいい。
俺はその疑問を心の奥へと押し込む。
「準備は?」
「万端よ、白鷺学園への編入手続きは済んでるわ。」
俺はまた笑みを浮かべて...
「なら行こうか、第2部の舞台へ」
さぁ始めよう。
そしてなんとしても最後までやり遂げよう。
俺の...小宮明人の復讐の物語を。