Alaska-1
2022\10\23
08:10
「デリンジャー3、ただいま出頭しました!」
酷い風雨の中、強襲揚陸艦の甲板上の上官に、部下に先立って敬礼する。
「了解した。 遅れナシだ」
大佐が僅かに称えるような声で言い、答礼した後に背後のヘリパッドにある、UH-60ブラックホークのパイロットに合図をした。
「諸君にはこのブラックホークに乗り、クソ寒いアラスカでのフライトを楽しんでもらう」
ヘリの鋼鉄に包まれた心臓が唸りを上げ、ローターがのろのろと回り出す。
「目標はアラスカフリッツクリーク近辺の山中、東部空軍基地だ」
「そこでなにか?」
嵐に揺れる西の水平線の向こう、ワスプ級から三機のブラックホークが飛び立ち、視界外の空に消え去る。
大佐はやや表情を強張らせて、それに興味がある風に視線をズラす。
「非常に恐ろしい事件だ」
一ヶ月ほど前、海軍のNAVY SEALsのスリーパーと呼ばれる部隊の四名が東部空軍基地に入った。
寒帯での作戦に備え、アラスカの山で訓練を行うというのが、その理由だ。
その後、海軍の陸上戦隊も同様の理由で基地入りしたが、大して珍しいことじゃなかったらしい。
今まで何度も中に迎えた奴らで、怪しくもなんともなかったと推測される。
だが、数日前、スリーパーが雪山からの帰りがてら、山の麓の村で民間人を虐殺した… およそ三十人の無防備な村人が殺害された。
基地司令室はこの状況を知り、スリーパーに出頭を命じ、海軍陸上戦隊に武装を指示してスリーパーを連行させた。
が、陸上戦隊は自らもスリーパーである、と名乗り、スリーパー1を解放して、旗頭と仰いだ。
それからは酷いもんだ… 五十人の部隊と狂ったNAVY SEALsは基地を蹂躙、基地司令室はたったの数分でホワイトハウスとの連絡が切れ、推測では数十分で司令室は陥落したと見られる。
アラスカ東部空軍基地は、反逆者によって占拠されたのだ。
「アラスカ東部空軍基地といえば…」
ぼんやりしたうろ覚えの記憶を辿り、荒れ模様の海面を見つめて呟く。
「八年前のウクライナ問題を契機として発生した、新冷戦構造の中、重要視されたアラスカの防衛を目的とし、二年前建設された」
顎に生えた硬い髭を撫で、写真にあったその基地の様子を思い出す。
「東部空軍基地ではF-35のSTOVLモデルを五機、F-15E型が三機配備されている。 反乱兵達に航空機の操縦技術はないはずだが、気をつけろ」
ブラックホークの観音開きドアが開き、ローターの回転数は一気に早くなった。
「詳細は無線連絡で話す。 君たちは反逆者の抹殺、基地の奪還作戦の後詰となる。 幸運を祈る!」
大佐に改めて敬礼を送り、四人の部下を引き連れてブラックホークに乗り込む。
「頼んだぞ、ジョンソン」