Massacre
2022\10\21
11:02
「こちら…… 令部…… リー…… 答せよ…」
「その無線を黙らせろ」
壊れかけの断末魔を吐く無線を踏み潰し、地面に転がったデザートイーグルを拾い上げる。
弾倉の中は問題なし、スライドを引いて薬室に弾丸を送り込む。
「ま、待て… 貴様… ら…」
「おやおやこれは司令官閣下…」
こちらもまた断末魔と胃の内容物をぶちまけている、元は綺麗だったのであろう空軍の軍服に身を包んだ男が、部屋の地面を這いずり寄ってきた。
「な、何故… 貴様らこんな…」
「それではわかりませんな」
ミラーが出来の悪い子に言い聞かせるように、柔らかな口調で司令官を窘める。
「な… なぜ…… 何故こんな事を…」
司令官は千切れた足と手で、硬く滑らかな地面を必死に掻いて、屈み込んでいるミラーの軍用ブーツに前進していた。
「何故… か」
ミラーは薄気味悪いまでの笑顔を掻き消し、立ち上がって死にかけの男に背を向ける。
ミラーが何を見ているかに興味はないが、その顔の先には、数十分前まで同僚だった者達の無惨な死体、あるいは、死にかけでまだ死に切れず苦しむ死体が転がっている。
「ジョセフ答えてやってくれ。 俺は連絡してくる。 ヤコブとジェーンはついて来てくれ」
二人の仲間を連れて隊長は司令室の奥に消え、自分と元上官だけが残った。
「ジョセフ… ジョセフ…… 何故… 何故裏切った!」
司令室のモニターに映る基地内のカメラは、どれも元同僚の死体、そして五十人余りの部下達による残党の制圧の様子を撮っている。
「… どうせあんたは死ぬしな」
元上官の生還への一縷の望みを砕き、一応の理由を語った。
「そんな… そんな… そんな馬鹿な… そんな馬鹿な事は… あ、あり得ん!」
「事実はそうなってる。 そして、今、ここで、あんたはこれを知った。 だから死ね」
司令官が落ちていたタクティカルナイフを掴んだのを認め、そして左腕にその刀身が刺さる。
司令官は一瞬笑んだ。
デザートイーグルの銃口が、なんの躊躇いもぐらつきもなく、自分の眉間に向けられるまで。
「ミラー隊長、こちらスリーパー5-5。 基地内の制圧完了、繰り返す、基地内の制圧完了」
力を失った司令官の死体が、司令室の血の海に沈んだ。