貧民街への訪問
しばらくぶりですみません…!
今日は土曜日。洗礼を受けてから初めての貧民街への訪問の日だ。
まだ何をすればいいのかはよくわかっていないけど、神父様からは午前9時に協会に集まるように言われている。
教会には、ルーナのペンダントを首から下げた(すなわち洗礼を受けた)人たちがたくさん集まっていた。
だいたいは普通の人のようだが、中にはスーツをかっこよく着こなした人や、おしゃれなドレスを着こなした人もいる。服に家紋が描かれていて、それを見ればどこの家の人かわかるのだろうけど、あいにく私はそういうの勉強してないんだよなー。
というか家紋って変な形だな…丸の形に猫の耳みたいなのがついてて…なんだあれ
…というときは!ルーナから伝授してもらった魔法を使うべし‼
あれから私はどうやったら魔法を使えるのかいろいろ考えて実践してみた。
どうやら私が「使いたいなー」とか「わからないなー」と思った時に自動で使われるようだ。
まずはドレスを着ている茶色の髪の女の子に目を向けてみる。
…この人はユーナル伯爵家のご令嬢みたいだね。慈善活動に関心がある人でよく参加しているらしい。
髪の毛がくるくると縦ロールされていて、みるからに「お嬢様!」って感じ。
いかにもお高そうなスーツを身に着けている男の子は…
ミモット公爵家のご子息様らしい。いや~女性なら誰でも恋に落ちそうな顔だね…
人の観察を楽しんでいると、神父様が話し出した。
「それでは皆さん、本日も貧しい方たちにお食事と衣類を届けに参りましょう!」
「「はーい!しんぷさまー」」
…ほえっ?
もっとしっかりとした挨拶をするのかと思ったけど、なんか新一年生みたいなほわほわした返事だな…かわいいけど。
というか私結局何するのかわかってないし、さっきのご令嬢に話しかけてみようかな?
「あの…」
くるくるとした巻き髪のお嬢様が振り向く。
「あら?あなた見かけないお顔ね。新しい人かしら?
「あ、はいそうです。名前は…(さすがに本当の名前を言ったらアウトだろうし、偽名を使っておくか…)レナです。」
「そう。レナね。私はミレイユ・ユーナルよ。よろしくね。」
「よろしくお願いします。」
「…あなたもしかしてわが家を知らないの?」
「え?ミレイユ様の家…ですか?」
「えぇ。私はれっきとした伯爵家の娘よ。普通名乗った時点で大体の人はユーナルの名前に反応して恐れおののくのに…」
「も、申し訳ありません…貴族の方々のことに関しては疎いものでして…」
「…ふーん。あなた面白いわね!気に入ったわ!」
「そ、そうですか。ありがとうございます。」
「それで?何か質問かしら?」
「私新人なので、お食事とかを配る時に何をすればいいのかわからないんですよね…」
「それは事前に神父様に聞いておかなくちゃ。今日は私が教えてあげるけど、今度からは聞かれても教えてあげないからね!」
「だいぶ厳しいんですね…」
「そうよ。この活動は神に仕える私たちの仕事。その内容を分かっていないのは神に対する無礼になるのよ!」
「な、なるほど。今度からは気を付けます」
そっか。そんなに考えてなかったけど、神様に対して適当な気持ちで活動するのはダメだよね。
「今から私たちはグループに分かれるの。三人一組になって、神父様から毛布と食べ物と衣類をもらったら、貧民街へ行くのよ。どこへ行くのかは特に決まっていないけど、配り忘れの人が出ないように最後に周辺を確認してから帰るわ。オッケー?」
「わかりました。ありがとうございます!」
一人じゃないなら良かった。でも三人一組かぁ…誰と組めばいいんだろうな…
「あぁ、そうそう。グループはたぶん私とレナとカイトになると思うわよ」
「え?なぜですか。グループは自分たちで決めるのでしょう?」
「そうなのだけど、貴族が洗礼を受けることはあまりないでしょう?だから貴族同士はだいたい同じグループになるのよ。この前までは私とカイトの二人だったけれど、あなたが入ってきたからようやく三人になるわね。」
ふーんそうなんだ………ん?
「え?ま、待ってください何を言ってるんですかミレイユ様。私はただの庶民です。貴族じゃありませんよー」
「何を言っているの、あなたは貴族でしょう。ふるまいで分かるわよ。」
……なんでバレたのー!
実は私、教会へ来るさいは庶民の格好をしていたの。あんまりきれいなドレスとか着ていたら変に思われちゃうかなって…まぁ実際貴族の方はいたわけだけど…
「あとそのレナとかいう名前も偽名でしょ。本当の名前はなんていうの?」
「うっ…レオナ・ローレンです…」
「あぁ。レオナルド様がおさめていらっしゃる…ローレン伯爵家の子だったのね。」
バレた…終わった…お父様が呼ばれて今度こそ牢屋にぶち込まれちゃうよ…
「じゃあ改めてよろしくね。レオナ。」
「わ、私のことをお父様に言わないのですか…?」
「どうしてそんなことをする必要があるのよ?別にいいわ。」
どうして。…私のことは貴族社会では有名な話。私が抜けだしたりしないようお父様が作った社会。お父様のおさめている地域で私を見つけたものには、賞金が与えられる。
…私はお父様にとことん嫌われている。だから仕方がない…この子も、私をウキウキとお父様に連れて行くんだと思っていたのに…
「ありがとうございます…ミレイユ様…」
「あっ!じゃあレオナルド様に知らせない代わりに何か約束してもらおっかなー。」
やっぱりそうなんだ。私に味方なんていないんだ…
「何をすればいいんですか」
「簡単なことよ。私と友達になりましょ?」




