洗礼を受けました!
や…やってしまったぁ——————!
やばいやばいやばい…
今ので確実に私の印象悪くなったよね…
どうしよう…今でさえお父様から私への気持ちはどす黒いのに、これ以上好感度下げちゃったらあっという間に死刑送りだよ!
…よし、次からはあまり口答えしないで「素直な娘」を植え付けないと…
そう心に誓う、レオナ・ローレンであった。
それにしても…
さっきまでの葛藤は一度おいて、レオナは部屋にある大きな鏡に自分を映してみた。
レオナって可愛すぎない?
くるくるっとカールした金色の髪。
目は長いまつ毛にふちどられていて、アクアマリンのように澄んだ水色。
ほっぺも唇も、ほんのり色づいた薄い桜色。
将来とってもきれいな女性になりそうだなぁ…
レオナの成長過程も楽しみにしながら生きていかないと!
私は握りこぶしを固め、部屋で一人気合を入れなおしたのだった。
翌朝。今日もマリーさんが起こしに来てくれた。
「旦那様は今日も出かけておられます。朝食は一人でおとりになってください。」
そう言われたのだけど。私は一人でご飯を食べることに慣れていない。前世ではいつも家族三人で一緒に食べていたから。だから、
「あの…だれか一緒に食べてくれませんか…?」
そう言ったら、使用人たちが全員驚いた顔をしていた。
あとで知ったけれど、普通貴族は一人でご飯を食べるらしい。この時はマリーさんが一緒にご飯を食べてくれた。やっぱりここでの常識と前世での常識は全然違うんだな…
「教会に行こうと思っています。」
部屋に戻った後、私はマリーさんに告げた。
マリーさんは特別驚いた様子もなく承知してくれた。ただしお忍びで。私は実際には生まれていないことになっている。お父様が私の存在を恥じて、お母様は、はやり病で亡くなったということにしているらしい。
数十分後、私はマリーと数人の護衛と共に市街へ出た。
てっきり、マリーだけがついてくるものだと思っていたけれど、いらない存在とはいえやはり伯爵家の娘に護衛はつけるものなのね。
なんてことを思いながら。
協会につくと、神父様が出迎えてくれた。
「初めまして。この教会の神父、ミヤルフ・ルイスと申します。
「神父様、初めまして。今日は洗礼を受けに来たのですけど、今大丈夫でしょうか?」
「おぉ、洗礼を受けに来てくださったのですね。今時、洗礼を受けるのはご老人ばかり。仕方ないとは思いつつも、若い人がいらっしゃらないのを少し寂しく感じていたのです。いま、準備をしましょう。」
「汝はこれより、神の教えを守り、神の教えを民に広めてゆくことを誓うか?」
「はい。誓います。」
「それでは汝はこれより神の使いだ。これよりは何事も神の教えに従い、生きていくように。」
「ありがとうございます。」
「それではこれを…」
そう言って神父様は首にかけるネックレスを下さった。吊り下げられている部分には、女神さまのような人が描かれている。…これってルーナじゃない?
これは洗礼を受けたものの証だそうだ。これからは毎週土曜日に貧しい者たちに食事を配ったりするのを手伝うことになるらしい。
家に帰ってくると、どっと眠気が押し寄せてきた。なんだかんだ疲れてしまったのだ。お父様に洗礼を受けたことを言うかは考えていないが、なんとかなるだろう…
…「レオナルド様、本日レオナ様は協会に行き、神父様から洗礼の儀式をしていただきました。これからは、定期的に貧民街に行くことになるかと。」
「…そうか、分かった。もう下がってよいぞ。」
その後、ひとりになったレオナルド伯爵はつぶやいた。
「いったい何をしようとしているのだ…」




