悪役令嬢レオナ・ローレン
「これから話すのは、あなたが住んでいた日本とは違う話の世界…異世界の話です。それを理解して聞いてくださいね。」
そう言ってルーナが話し出したのは、とても不思議な話だった。
あるところの、ローレン伯爵家というところに、新たにお姫様が生まれました。お姫様の名はレオナ・ローレン。淡い白金色の髪にアクアマリンのようにきれいな水色の瞳をもつ、とてもかわいいお姫様でした。ですが、そんなおめでたいことがあったのに、ローレン家は暗い雰囲気に包まれていました。レオナ姫のお母様である、マリア・ローレンが死んでしまったのです。マリアを深く愛していた父、レオナルド・ローレン、それに三人の兄たちも、屋敷の使用人までもがみな、悲しみ、嘆きました。
そして、レオナ姫のことを、「不吉な子」として忌み嫌いましたー。
レオナ姫は成長するにつれてとてもきれいな女性になりました。
ですが、心のなかはいつも寂しいままでした。みんな、最低限の世話はしてくれるものの、おしゃべりしたり、お菓子を食べたり、一緒に過ごそうとしてくれないのです。レオナ姫も母のことは知っていました。でも、だれもかまってくれないのが寂しくて、徐々に悪事に手をそめるようになってしまったのです。
「こうすれば、皆が私に注目してくれるかもしれない」と。
人を誘拐したり、泥棒に王家の情報を流したり…
レオナ姫が悪事に加担していることは、徐々に王国中に知れ渡っていきました。
そしてレオナ姫は「悪役令嬢」と呼ばれるようになってしまったのです。
それを知った父や兄たちは激怒しました。
「どうしてこんなことをしたんだ。我が家の名に泥をぬるような真似をして!どう責任を取るつもりだ!」
父たちはそうしてレオナ姫を家から追放しました。誰も知らない辺境の地へと追いやったのです。
「どうしてこんなことに…」
レオナ姫は嘆きました。
「これ以外、どうすればよかったの…」
後悔しても、全て意味がない。もう私は、ひとり…ぼっち…
レオナ姫は絶望の中、自ら死を選んでしまったのでした…
話を聞き終えた桜は驚きました。
「レオナ姫は、それで死んでしまったの?一人で?」
ルーナはうつむいて悲しそうに言った。
「えぇ。あなたから見ればどうしてそんなことをしたの?と不思議に思うかもしれません。ですが、レオナにはそれ以外思いつかなかったのです。あの子にはかわいそうなことになってしまいました…」
「…それで、私にどうして欲しいんですか?私はまだ6歳です。私にできることなどあるのでしょうか?」
ルーナは顔をあげてハッキリと言った。
「えぇ。あなたにはレオナの人生を変えて欲しいのです。」
………え?
どーゆーことー⁉
「ちょ、ちょっと待ってください。私はただの6歳児です。人生を変えるなんてできません!」
「いえ、あなたには他の誰にもない心の輝きがあります。あなたならば、レオナには思いつかなかった、別の道が歩めるでしょう。」
えぇぇぇ…
「…ちなみに、私が引き受けなかったらレオナ姫はどうなるんですか?」
「…そうですね。レオナの悲しい魂は、永遠に世界をさまようことになるでしょう。自分がどうすればよかったのか。その答えを探すために…」
うっ…
そういわれると…引き受けないといけないような気持ちになってきちゃう…
やめてルーナさま!そんな悲しそうな顔をしないデー!
「…わかりました。わたし、やります!」
いろいろ不安なことはあるけど、とりあえずやってみようと思う。
「ありがとう!ですが、何も知識がないままではあなたも不安でしょうし、少し情報を伝えておきますね。この後、あなたにはすぐレオナとして転生してもらいます。目を覚ましたらそこはレオナの部屋になっています。部屋にはレオナ姫が毎日欠かさず書いていた日記帳があります。それにはレオナ姫が字を書けるようになった5歳のころから死を選んでしまった日までのことが書いてあります。まずはそれを見てこれからどうするか考えてください。」
「はい!あ、そういえば…わたしが感染症にかかって死んでしまったのは、運命だったんですか?」
「えぇ。あなた…百瀬桜は運悪く命を落としてしまいました。でも、決して私があなたの命を奪うようにしたわけではありません。そこは分かってくれますか?」
ルーナはそんなことしないだろうから、最初から疑ってなどいなかった。
「はい!大丈夫です。…あのーちょっと質問なんですけど…『ハクシャクケ』では礼儀作法とかは大丈夫なんですか?」
私が住んでいた世界と向こうの世界では常識とかもいろいろ違うだろう。
「そこは心配しなくて大丈夫です。困らないように転生前に魔法をかけておきます。礼儀作法や勉強などには、困らないようにしておきましょう。」
「ありがとうございます!」
良かった。わたしはあまりマナーを覚えるのが得意ではない。その点が大丈夫なら何とかなる!
「それではあなたを、転生させます。準備はいいですか?」
「はい!」
いよいよ私の新生活が始まる。どんなことが待っているのだろう?




