第四章:運命の選択
学園祭の夜。
私は、誰にも見つからないように屋上で夜空を見上げていた。
星が綺麗だった。
「ここにいたのか」
誰にもバレないと思っていたのに、私の目の前にセシルが現れる。
手には、小さな花のブーケ。
「……それは?」
「夜光草。暗闇でも光る花。君みたいだ。静かに、でも確かに、輝いてる」
闇の中で仄かに光る小さな花の美しさに、私は思わず言葉を失った。
「ヴェルディア。君が過去に何を背負ってるか、全部は知らない。でも、今の君は、悪役でも、敵でもない。ただの、一人の女の子だ」
「……私は、誰も傷つけたくない。でもゲームの世界であなたは……」
「ゲーム? 何それ?」
思わず口を滑らせたことに気づき、私は口元を手で押さえて慌てて黙り込む。
「君は一体……」
「……ただの、夢の話です。忘れてください」
身体ごとそっぽを向くと、セシルが私の手をそっと握った。
「未来がどうなるかなんて、誰にもわからない。でも、今、君の隣にいたい。それだけは、確かなことだ」
「……どうして?」
私の手を握るセシルの手に力が籠る。
「僕は、ヴェルディアが、好きだからだ」
次の瞬間、セシルの唇が私の唇に重なった。
頑なだった私の心の壁が、一瞬で崩れ落ちる。
ゆっくりと唇が離れると、私は潤む視界でセシルの目を真っ直ぐに見詰めた。
「私も……好き、です。セシル……あなたが、好きなんです」
零れた涙が頬を伝い落ちる。
「でも、だからこそ……離れないでください」