第三章:恋の魔法は禁じ手
学園生活は平穏に進んでいく。
私は図書館にこもり、魔法の理論を学び、実技は誰にも見られないように夜の庭でこっそり練習した。
ヒロインのミシェルとも、丁寧な距離を保って挨拶を交わすだけ。
だが、セシルはなぜか、私の前に現れた。
食堂で隣に座る。
授業でペア実習を申し出る。
雨の日に傘を差し出す。
「どうして……?」
ある日、庭で魔法の練習をしていると、セシルが現れた。
「君は、自分を隠そうとしてる。でも、その力、誰かを助けるために使えるはずだよ」
「助けなんて、求めてません。私は……ただ、静かに過ごしたいだけ」
「静かに? でも、君の目は、寂しそうだ」
その言葉に、私は思わず涙を堪える。
「……あなたには、わからない。私は、運命に踊らされる人形だった。恋をすれば、破滅する。優しくされれば、心が溶ける。だから──」
「だから、恋に落ちたくない、と?」
セシルは静かに笑った。
「でも、恋は、避けられるものじゃない。気づかないうちに、誰かの隣にいたいと思うようになる。その人の笑顔を探してしまう。そんなものだ」
私は踵を返して、セシルに顔を背ける。
「……私には関わらないでください」
「無理だよ。だって、もう君のことが、気になってしょうがないんだ」
その瞬間、私の心に、小さなひびが入った気がした。