エピローグ
「なんだ? 人の子よ」
「どうして今日まで我々に黙っていた。それにクリスが犠牲になる必要はあったのか?」
確かにドラゴンが前もって私やアデル様マークライト家に告げていれば、クリス様が亡くなることもなかったはず。
「お前達の──ラジエルの血が薄まったが故に話しかけるのが難しくなった。今回はお前がここに来たおかけでこうして話すことが出来たのだ」
「クリスに俺がここに来るように伝えることも出来たはずだ。そしたら──」
「駄目だ」
ドラゴンがアデル様の言葉を否定する。
「お前1人がここに来たところでは駄目だ。必要なのは2人」
そしてドラゴンは私を見る。
「なら私も──」
私も呼べばと言おうとしたが、私は気づいて口を止めた。
「そう。お前の力も必要であった。お前は妾腹の子ゆえ、自由がなかった」
完全に自由がないわけではない。ある程度、城下町へ変装して外出もできる。
けど、ここまで遠くに来ることは出来ないだろう。
「ゆえに策を講じた」
それは私を呼ぶためにクリス様と婚姻させること。
「お前がジオルド王国に来てくれたおかけで、夢で会うことが出来た。あの時、初めてゆえにあのような形だった。怖い思いをしただろう。すまなかった」
「いえ」
「だが、その策で!」
アデル様はドラゴンに怒りをぶつけた。
「致し方ないこと。時間がなかったのだ。それにこの策はクリスが考えたこと」
「なっ!?」
「我も他の策も考えるべきと言ったのだが、あやつもかなり強情でな。1番最良の策だと言っていた」
そう言われてアデル様は目を瞑り、拳を強く握った。
私はアデル様の拳を手で包みます。
「ティアナ」
「帰りましょう」
今はそれしか言えなかった。
怒ろうが嘆き悲しもうが、クリス様が天へ召されたことは変えられない。
巻き戻すことは出来ないのだ。
◯
目が覚めると私はベッドにいた。
あれは夢?
いいえ。あれは夢なんかではありません。
確かに私とアデル様はこの手で封印を補強したのです。
そこへドアがノックされました。
「はい。どうぞ」
ドアが開き、アデル様が入ってきました。
「その、なんだ、さっきのは」
「はい。現実とはいきませんが事実です。心象世界のことです」
「だよな。周りの者も同じことを言っていた」
そういえばあの世界には腹違いのお兄様や両国の兵もいました。
「なら、本当なんだな」
「ええ。私達は魔神バランの封印を補強したのです」
◯
その後、私の引き渡しはなしとなりました。
なぜかというとアデル様が勇者ラジエルのことを口外しないことを条件にしたらしいのです。
確かにこの件が公になればコルデア王国は勇者キリシュタリアの子孫でなく、賢者ラニエルの子孫ということになります。
今までは勇者キリシュタリアの子孫のため各国や宗教国からも色々と大目に見てもらっていたことがなくなってしまいます。
それはコルデア王国にとって大きな痛手。
ですので、私1人の身でこれまで通りならば問題ないとコルデア王国は決断したようです。
◯
「まあまあ、そのような冒険譚があったのですね!」
第4王女アリーゼ様がメイガス村跡地で起こったことを、面白いことのように言う。
「そんな大層な話ではありませんよ」
「そうかしら。心象世界でドラゴンに会い、お兄様と共に封印の補強。実に素晴らしい話ですわ」
あの日から私はこのお屋敷に戻り、前のように日々を過ごしています。
時折、マークライト家の者が訪れてきます。
そして今日も──。
「あら、誰か来ましたわ」
ドアがノックされ、私は席を立ちます。
「きっとお兄様よ」
私はドアを開けると、そこには──。
「遊びにきたよ」
訪問者はエルザ様でした。そしてその後ろには──。
「すまない。うちのエルザにせがまれてな」
「あら、本当は用があってのことでは?」
と、アリーゼ様が言います。
「なんだ、お前もいたのか?」
「あら? 私がいて不都合でも?」
「別に」
「さ、中へどうぞ」
私はエルザ様とアデル様を屋敷へと誘う。
「焼き菓子持ってきたよー」
エルザ様がバスケットを掲げます。
「ありがとうございます」