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宇宙から来た黄色いウサギ

作者: osagi

――――――――――


 それは3日前のことだった。


――――――――――


 その日、高校から自転車で下校する途中の俺は通学路の農道できれいな石を拾った。その石は直径5cmほどのハチミツ色をした半透明の球体で左右を田んぼに挟まれた農道の真ん中に落ちていたのだ。


 どうしてこんなものがここに落ちているのかは分からないが、石が好きで地学部に所属している俺としてはこの琥珀のようなきれいな石を見なかったことにすることなどできるはずもなく俺はその石を家へと持ち帰り新しいコレクションとしたのである。






――――――――――


 そして2日前・・・。


――――――――――


 またもや下校中だった俺は前日にきれいな石を拾った農道で不思議な生物と出会った。


 そいつはまっすぐに伸びる農道の横道、大人が一人通るのもやっとな田んぼと田んぼの間にある細い道からいつも通り自転車で帰る俺の目の前に飛び出してきたのだ。


 「たん たーん たあーん」


 そう言ってリズムを取りながら三段跳びで俺の目の前へと飛び跳ねてきた黄色いウサギ。・・・いや、ウサギというよりは少し大きなテディベアのウサギ版とでもいうような姿をした二足歩行のぬいぐるみのようなやつが俺の目の前に立っている。


 「ぽ!」

 「ぽ?」


 すると俺の膝上ぐらいの身長しかないウサギはこちらを見上げてそう鳴いた。


 「ぽぽ!」

 「ぽぽ・・・」


 俺も家でウサギ飼っているが、こんな鳴き声は聞いたこともない。何か訴えたいことがあるのか、自転車を降りた俺はそいつの前にしゃがみ込んでその鳴き声を返してみた。


 「ぽぽぽぽぽ!」『ぽぽぽぽぽぽ』


 意味もなく張り合ってみた鳴き声は俺の『ぽ』が1個多かった。だが次に俺の目の前で起こった出来事に比べればそれは大した問題ではない。


 「ぽぽちゃんです!」

 「うわっ!しゃべったぁ!」


 俺は驚きのあまり後ろに転がって自転車を倒した。だが自転車の倒れる大きな音にも動じず、そいつは俺の倒れた自転車の前カゴを指してこう言った。


 「そこにある葉っぱを1枚でもいいから貰えませんか」


 この日、俺の自転車の前カゴには家で飼うウサギの為に無人販売所で買ったキャベツが入っている。なんでもこの目の前のウサギは宇宙人であり地球に不時着してからはそこら辺の雑草しか食べていないというのだ。


 そういうことなら仕方ないと俺はその宇宙人のウサギにキャベツの葉を1枚剥いで渡すが、俺はこのどことなく可愛さがあるその宇宙人をキャベツの葉を1枚だけ渡して放っておくこともできなかった。


 それもそのはず俺が渡したキャベツの葉は渡したそばからまるで飲み物のようにそいつの口の中へ消えてしまい、たかだか1枚キャベツを渡したからといって目の前にいる宇宙人の助けになるとは到底思わなかったからだ。


 そしてこの後、俺は2枚目3枚目とキャベツの葉を与え最終的に俺はこの宇宙人のウサギを家へと連れ帰ったのである。






――――――――――


 こうして1日前の昨日、俺とぽぽちゃんとの生活が始まって・・・終わった。


――――――――――


 動かなければ黄色いウサギのぬいぐるみで通じそうなぽぽちゃん。


 そんなぽぽちゃんが地球にやってきたのは宇宙船の操作を誤って小惑星と衝突したことが全ての始まりだという。衝突で損傷した宇宙船は操縦不能となり宇宙船は地球の重力に引っ張られて最終的に俺がぽぽちゃんと出会ったあの付近に墜落をしたのだそうだ。


 「そういえば宇宙船はどうしたんだ?」

 「ここに入っているですよ」


 そして墜落をしたという宇宙船であるが、ぽぽちゃんはこの数日で道端の美味しくない雑草を食べながら何とか修理をして今はぽぽちゃんが持つ小さな箱の中にあるという。


 いったいどんな原理なのかと聞いてみるが買った時からそういうものでぽぽちゃんの惑星ではそれが普通だから分からないとのことだ。まあ、俺も家にある身近なものだからと言って冷蔵庫やエアコンの原理を説明することは出来ないのでそれと同じである。


 ちなみに見せてもらったその宇宙船とやらは明るい黄色で小さいが、その形は円盤の中央に球のある土星のような形であった。


 「それでまだ修理するところがあるのか?」

 「最後の重要な部品が無いのですよ。墜落の衝撃でどこかに行ってしまったみたいなのです。あれは宇宙船の位置情報が分かる重要な部品であれがないと現在地が分からないから帰ることも出来ないのです」


 どうやら地球でいえばGPSのようなものが見つからないということであり、俺とぽぽちゃんが出会ったあの辺にそれが落ちている可能性が高いのだそうだ。


 幸いにして今日は土曜日だ。これからそれを探しに行くというぽぽちゃんと一緒に俺はその部品を探しに行くことにし、俺の協力にぽぽちゃんは喜んでその部品の特徴を伝えてくる。


 「ぽぽちゃんが探している部品はこれぐらいの大きさで丸くて透明な黄色をしているのです」


 ぽぽちゃんが手で示した大きさ、そして色。ぽぽちゃんの探しているというその部品に俺は思い当たる節があった。今まさにそれは俺の引き出しに入っているのだ。


 「そういえばこの前こんなものを拾ったな」

 「あー!それなのです!」


 この前拾った琥珀のような石、ぽぽちゃんはそれを見るなり目一杯に手を伸ばし俺がその石をぽぽちゃんに渡すとぽぽちゃんはすぐに宇宙船を箱から取り出して修理を始める。


 小さな宇宙船の中で何やらカチャカチャと音を立てその様子を見ながら待つこと30秒、宇宙船から出てきたぽぽちゃんはこう言った。


 「直ったのです!動作も完璧なのです」


 こうしてぽぽちゃんの問題は解決したのであった。






――――――――――


 今日は青空の広がる晴天である。


――――――――――


 家の2階、俺の部屋の中で宙に浮く小さなぽぽちゃんの宇宙船。

 これからぽぽちゃんは宇宙へと飛び立つ。これから元の通り再び宇宙を旅する生活が始まるのだ。


 「そろそろ行くのです」

 「そうか」


 今日を含めたった3日という短い期間ではあったが、これから一生忘れようがない3日間である。


 そして宇宙船のてっぺんにあるハッチから上半身を出したまま宇宙船に乗ったぽぽちゃんは窓へと出ていく。


 「それじゃあ、さようならなのです」

 「ああ、元気でな」

 「キャベツも2つありがとうなのです」


 俺が選別として渡したキャベツ、そのお礼を言うとぽぽちゃんの宇宙船は上へ上へと昇っていく。


 「さようならー!さようならー!」


 それから手を振りながら俺の方へとそう叫ぶぽぽちゃん。その声は次第に小さくなっていき、やがて黄色い宇宙船は青い大空のなかへ消えていった。






――――――――――


 こうして明日から普通の毎日が始まっていくのである。


――――――――――




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