月夜
月が明るい。
どこかで犬が遠吠えをしている。
身の丈ほどの枯草だらけの原っぱは、こんもりと雪がかぶっている。
どこだろう、笛の音が聞こえている。太鼓の音も。
遠くはない。
酔っているからだろうか? 方向は、よくわからない。
けれども、目の前に一筋の道がある。
雪にうずまりながらけものみちを進んで行く。
と、ようやく祭りばやしの出どころにたどり着いた。
ゆらゆらと音もなく燃える大きな焚火の前で、老若男女が踊っている。
みんな影絵のようだ。
影絵はゆがみ、ちぎれ、紙のようにゆらめいては人の姿に再び戻る。
あの祭りの小さな広場。どうしてあそこだけは一本の草も生えていないのか。
なんとなくわかる。声をかけてはいけない。見るだけ、見るだけ。
しかし熱を入れすぎた。
ゆらめく影を見極めようと身を乗り出したその時、一番手前の一人がゆっくりこちらを振り返った。
すべてが消えた。
あとには、ただの雪の広場が残るだけ。
そこだけ、草一本も生えていないまっさらな雪の広場を月が煌々と照らしている。
足跡も、焚き火の跡もない。誰も最初から居はしない。
ゆっくり広場の中心に向かって歩いてみる。
何もない。
と、足元の氷が割れた。
とぷんと音をたてて体が沈み、池の水面に月が映った。