おまけ ゆうたくんとゆうひさん
僕の名前はしゅう。六つ子の三男。
そんな僕に、お弁当を一緒に食べる人が出来た。
「へー、じゃあゆうたくんは北枕じゃないと眠れないんだー」
「ま、そういうことになるよね」
「こいつ変わってるだろ?」
しゅうはお弁当の唐揚げを小さくしながらゆうたをいじる。それにゆうたも乗っかり、ゆうたの従兄弟であるゆうひも乗っかった。
「しゅうくんたちはどうやって寝てるの? 北枕?」
ゆうたはお弁当箱を開けながらしゅうを見る。
「えー、北かなぁ……? わかんないや」
しゅうは家の構図と東西南北を思い出す。
「そこまで真剣に考えなくてもいい話題だから。さらっと受け流せばいいから」
ゆうひが集中していたしゅうの肩を軽く叩く。
「そう? 僕たちは北枕かは分からないけど、一緒に寝てるよ。みんな」
「「みんな?」」
「そう、みんな」
ゆうたとゆうひは首を傾げた。しゅうはその様子を見て細かく説明する。
「小さいころからダブルベッド三つで六人寝てるの。順番は、しんや、しん、しや、しゅうと、僕、しゅうや。前までは兄弟順に寝てたんだけど、しんやが……」
「いや、順番の話どうでもいいから! そこ掘り下げなくていいから!」
しゅうの長話にゆうたが潔いツッコミを入れる。
「え、俺聞きたかった」
「え、うそ。ゆうひお兄ちゃん、何が目的?」
「あっ、しんやが……」
「続けなくていいから!」
ゆうたはゆうひとしゅうの背中を叩いた。しゅうはその行動に笑う。
「んっふ、ゆうたくん突っ込んでくれるのうれしい。いつも僕がやってるから」
それをこっそり聞いていた他の兄弟たち、しん、しんや、しゅうと、しゅうや、しやは恐怖を覚える。
「「「「「こっわ! あいつ、こっわ」」」」」
長男しんは聞き耳を立てるのをやめ、兄弟たちに向き直る。
「あいつ、友達とかできるやつだったの!?」
それに次男しんやは深くうなずく。
「あいつは分からない行動ばかりとる」
四男しゅうと、唐揚げを食べながらしゅうを見る。
「しょうがない。やっちゃう?」
五男しゅうやも深くうなずいた。
「やっちゃおう!」
末っ子しやは急いでしゅうの変装をする。
「どう? 完ぺき?」
「「「「完ぺき」」」」
みんなは頷きあって、しんやが声を張った。
「しゅうー! 大変だー!」
しんやの声に気付いたしゅうは二人に断りを入れることもなく、走って声のする方へと行く。
「なんかあった……」
「つーかまーえた」
しんやはしゅうの口を防ぎ、どこかへ連れて行った。それを見たしやは深呼吸をしてゆうた達のほうへ向かった。
「なんでもなかったみたい。お弁当食べよっか」
しやは平然としゅうのいたところに座り、お弁当を食べ始めた。
「なんかあったんじゃないの?」
「行ってもいいぞ」
「いーのいーの」
しやは平然とした顔を続けて、ゆうた達のお弁当のおかずを食べていく。
「ちょっ! しゅうくん! 僕たちのお弁当だよ!」
「やめろよ」
「あははー。ごめーん! でも、良くない? 僕たち“友達”なんだからさー」
しやは食べるのをやめない。ゆうたとゆうひは驚いた顔になった。
「え? しゅうくんが僕たちに泣きながらお願いしたんじゃん。『友達がいないから、一緒にお弁当食べてほしい。もう兄弟たちとは一緒にいたくないんだ』って」
「あとこれも言ってたよな『周囲からは友達に見られるようにしてほしい』って」
しやは面喰ってしまった。頼りになる兄がそんなことをしていたなんて。それも、僕たちのことを嫌っていたなんて。
「ちょっと! 言わないでよ! それはしやだよ。しゅうは僕!」
しんやから逃れたしゅうはしやを押しのけて座った。ゆうたとゆうひはめんどくさそうな顔になり、ため息を吐いた。
「勝手にご飯食べるわ、変装してたわ。もうしゅうくんとはご飯食べなーい」
「え? だから、それはしやで……」
「悪いのがしやだとしても、顔が似ているお前にも責任がある。友達なんかじゃないから」
ゆうたとゆうひに罵られるしゅうは瞬きが多くなった。しやは他の兄弟たちのいる場所に向かって指を立てた。
「もー! うそでしょーー!?」
しゅうは去っていったゆうたくんとゆうひさんを見て、叫んだ。
その様子を他兄弟たちは笑いながら見る。
「「「「「兄弟たちを裏切るからこうなるんだ!」」」」」
「うそでしょー!? 僕なんか悪いことした―!?」
しゅうは泣き叫んだ。教室に響き渡る声で。