おまけ 六つ子を見分けろ! ~顔編~
「ただいまー。ん? 誰もいないのか? おーい……」
「だれがどーれだ」
オレンジメッシュを先頭に帰ってきた父くろきを出迎える。くろきは一瞬嫌な顔をしたがすぐにいつもの顔に戻し、微笑んだ。
「そんな時間あるのかな?」
六人はみんなして目を逸らした。その中でも異常なほど目が泳いでいるものがいた。オレンジメッシュだ。オレンジはしゅうだが、中身はしゅうではないだろう。爪が長く、テカテカしている。しゅうは昨日の夜爪を切っていたし、爪を塗ったりしない。
「しんやくん。夕食を作るのを手伝ってくれないかい?」
くろきが青メッシュ向かって言うと、しゅうやが青を叩いた。青はハッと気づいてくろきの方へ寄ってくる。なんとも可愛い光景だ。
「お父さん、ご飯のお手伝いですね。がんばりますっ!」
くろきは今すぐにでも青をなでなでしたい欲求を抑え、手を洗いに洗面所に行った。
父が去った後の六つ子は……?
「なんであそこで返事しないのかなー? 長引かせるんだよ! このアホ!」
「えー!? 難しいよー! だってぼくしゅうだよ? しんやって呼ばれて急に返事できるわけないじゃん」
しゅうやに変装したしんやと、しんやに変装したしゅうが揉める。そこにオレンジメッシュがきた。しゅうの変装をしたしやだ。
「もー、二人とも喧嘩しない。バレるよー?」
「やば、クソ親父帰ってきた」
しんに変装したしゅうとが汚物でも見るかのような顔でドアを見る。
……聞こえてっるつーの。
くろきはそう思いながらドアを開けて台所まで行く。案の定しんやに化けたしゅうは何もしてなかった。
「しんやくん、野菜を洗って切ってくれるかい?」
「は、はーい」
しゅうは緊張を隠すように笑って人参を袋から出す。くろきはしゅう以外の兄弟が全員ソファーに座って内緒話をしているのを確認し、しゅうのほっぺに口づけをした。
「えっ、お父さん?」
しゅうは他兄弟を見た後ため息を吐いた。
「気づいてるんですか? それともしんやにもこのようなことを?」
しゅうの嫉妬した顔が可愛いのでくろきは思わず笑ってしまう。
「気づいてるよ。しんはしゅうと、しゅうはしや。しゅうとはしんで、しゅうやがしんや。しやはしゅうやで、しんやはしゅうくん。君たちややこしいね。今後は控えてほしいよ」
しゅうは驚きで人参を落としてしまった。くろきはそれを拾い、洗う。
「しゅうくんはお料理が苦手だからね。適当な理由付けてしんやを呼んできてもいいよ」
「いいえ、手伝います」
しゅうが頑張ってお料理をしているころ、他の兄弟五人は会議をしていた。
「どうすんの? これで気が紛れるわけなくなくなくない?」
意味不明な言葉を発したのはしゅうの恰好をしたしやだ。それにしゅうとの恰好をしたしんがツッコむ。
「それどっち? 紛れるの? 紛れないの?」
「紛れてるでしょ。現にクソ親父は中身しゅうのしんやと楽しくおしゃべり中」
しんの恰好に合わない言葉遣いをするのはしゅうとだ。
「たしかに! ばんごはんなんだろ」
「やばーい、おなかすいてきたー!」
しんとしゅうやがしゅうととしやの恰好をしながら出来てもない、ただの食材の匂いを嗅ぎに会議を離脱した。
「これだから能無しは」
「それは言い過ぎ、しゅうと兄さん」
しゅうとはしやにツッコミを入れられながら、ため息を吐いた。
「やっぱり言った方がいいんじゃない? 俺としゅうは関係ないし」
「こ・れ・だ・か・ら! しゅうと兄さんはー!」
しやの突然の叫びにテレビを付けようとしていたしんやも、人参をつまみ食いしているしんとしゅうやも、料理中のくろきとしゅうも、隣にいたしゅうとも、咄嗟に耳を塞いだ。
「え? え? 分からないのぉ!? 頭悪い組が宿題終わってないから、可哀そうで仕方がなくて変装手伝ってあげるって言ったの誰だよ!? お前じゃん! しゅうと兄さん!? なんでこう裏切るかなぁー!?」
しやは「アアアアァァァァァ! 終わる―!?」と奇声を上げてブリッジをしだした。
「宿題? 終わってないのか?」
くろきは包丁を置く。やけに優しい笑顔で。
「宿題終わってないからって勉強時間を増やしたりしないよ。なんなら減るかもね」
頭悪い組、しん、しんや、しゅうや、しやはくろきを神のように崇めている。
勉強そこそこ出来る組、しゅう、しゅうとは兄弟四人を汚物でも見るかのような顔になっている。
「勉強時間減らしてくれるとか、お父さん優しすぎぃっ!」
「さいこーまる!」
「よっしゃっしゃー!」
「フゥゥゥゥ!」
「あはは、減るか増えるかは君たち次第だよー」
父の言葉に四人は固まる。しやは苦笑いで口を開く。
「僕たち次第? それって……」
「いつもなら問題集を進めるけど、今日はやってない宿題をしようか」
四人は固まり、石になり、そして崩れ、灰になった。
灰は喋る。
「絶対朝までかかるじゃん……。宿題やっとけばよかった」
しゅうととしゅうはハイタッチをした。
「頭悪い組になんなくてよかったね」
「ね。あんなとこに入ってたらお先真っ暗。いやー日頃勉強しててよかったー!」
「よかったー」
しゅうととしゅうは灰と喋っているくろきを横目に、青と緑のカツラを取って、もう一度ハイタッチをした。
しんくん、しゅうとくんの真似は眼鏡の度はどうしたの?
しんやくん、アホなしゅうやくんの真似できるとか尊敬するよ。
しゅうくんはなにしてもかわいいよ。
長男の真似はどうでしたか? しゅうとくん。
普通の人の真似は出来ましたか? しゅうやくん。
マニキュア塗ってるとかかわいいねしやくん。
本編に入らなかった父くろきのセリフ。