第五話 策略の天才 ずる賢い生き方講座
次の日の夜
「頭悪い子達―、パパと勉強するよー」
「「「「はーい」」」」
しゅうととしゅう以外の兄弟、しん、しんや、しゅうや、しやが、父くろきと一緒に二階へ上がる。
「またお父さんの部屋で勉強かな?」
「……だろうね」
しゅうとはしゅうのことをチラリと見た後、視線をテレビに戻す。しゅうはくろきが二階にいったのを確認し、しゅうとの隣に座る。
「ソファーはもっと空いてる。密着すんなよ、きもちわるい」
しゅうとはテレビを消して一人用ソファーに座った。しゅうはムッとしながらしゅうとの上に座る。
「おもい。やめろばか」
しゅうの髪を掴むしゅうと。しゅうはガチめに怒っていることに気づき、椅子から立つ。
「そんな怒んないでよー。ごめんごめん」
しゅうは忘れてた。
……あ、しゅうとって僕のことめちゃくちゃ嫌ってたんだった。小さい頃に何度もお菓子を奪われたってだけで。
「ねえ、しゅうと、ちゃんと距離取るから話聞いてくれない?」
「……うん」
しゅうはしゅうとのソファーの横にあるハンモックに乗る。ハンモックの揺れがおさまったところでしゅうは口を開いた。
「お父さんは、恋人がいるの。で、その人が……」
「しゅうでしょ? 知ってるよ」
しゅうとは呆れた声でしゅうを見る。
「俺見たもん。しゅうが学校であいつにメッセージ送ってたの」
しゅうは訳が分からなくなった。
……あれ? メール? 朝の? しゅうとはそれを見ただけで、僕たちのキスシーンを見てなかったの?
しゅうとは嘘を吐いているようには見えないし、ってことは、キスを見たのは別の兄弟?
「あ、あの、しゅうと、それはいたずらメールで、お父さんの彼女になりすまして送ったの。ほら、小さい頃よくお父さんいじめてたじゃん? それ」
「……なーんだ。そういうことだったのか。ま、だよねー」
「うんうん。恋人のはずがない……」
ピンポーン
家のチャイムが鳴った。
「ん、宅急便かな?」
しゅうはインターホンを押した。
「あれ? だれだろ」
そこにはしゅうたちがかかわったことのないクラスメイトが二人立っていた。
「お邪魔しまーす。うわー! モデルルームみたい!」
しゅうは二人を家に入れた。しゅうとは目を見開いているけど、しゅうにとっては好都合だ。しゅうとと話さなくてもよくなる。
しゅうは彼らの名前を思い出す。
……たしか、この二人、従兄弟だったっけ?
可愛い顔をしている方がゆうた君で、大人っぽくて怖い顔をしているのがゆうひ君だったはずだ。二人共背が170を超えていて覚えていた。
しゅうは自分の記憶力に感心すると同時に少し背伸びをしてみた。ぐらついて危険なのでかかとを降ろす。
「六人全員ここで生活してんだ。ふーん」
ゆうひは何の躊躇いもなく長いソファーに座る。
「ちょっと待ってて。お茶出すから」
「あ、いい、いい、そんなに長居するつもりないから!」
ゆうたは手を振ってしゅうの行く手を阻む。
「僕たちはこれをみんなに渡しに来ただけだから」
しゅうはゆうたがバックの中から出した物を見る。
「名札と……学生証?」
「うん。君たち六人は入学式の次の日に転入してきたじゃん? だから、みんなが入学式でもらった名札と学生証を君たち六人はもらってなかったんだよね。先生から君たちの中の誰かに今日の放課後職員室来いって言ったらしいけど、誰も来ないから、僕たちに任せられたって訳。誰にも言わずに帰った誰かを探すようなことはしないよ」
しゅうは首を傾げながら名札と学生証をもらう。自分の名前を見つけ、その他を机に置く。
「ありがとう。ゆうたくん」
「ううん。全然いいよ。っていうか、僕たち部活あったからこんな夜に訪ねてごめんね」
「いや、こっちは平気。それより、ゆうたくんたち、帰るの遅くなったら怒られない? もう六時半だよ?」
「小学生じゃあるまいし、九時ぐらいまでなら許されるよ」
「えー! 僕たちの門限六時!」
「ええー!? 過保護だね」
しゅうはそんな話をしながらお茶を入れる。
「はいどーぞ。ジャスミンティー」
「え、ティーカップ? あ、ありがとう! ほら、ゆうひお兄ちゃんも」
ゆうたは従兄弟のことを兄と呼んでいるようだ。
「うん。美味い」
ゆうたもゆうひもお茶が気に入ったようだ。よかった。
すると、階段を下りてくる音が聞こえた。
「何が届いた?」
「あっ、お父さん! クラスメイトが届け物に来てくれました」
しゅうは名札と学生証を見せる。ゆうたはソファーから立ち上がり、くろきの前に来た。
「お邪魔してます。しゅうくんのお父様」
「しゃーす」
ゆうたは綺麗にお辞儀をし、ゆうひは少し目を合わせた。くろきは苦笑いを浮かべながらゆうたと握手をした。そしてすぐにしゅうの方に来た。
「お茶は入れたかい?」
「はい、ばっちり」
くろきは「よかった」と呟いてしゅうの頭を撫でる。その様子をゆうたとゆうひはソファーに座りながら見ていた。
「親子仲がいいんですね。うちもです。お父さんたちが兄弟で。家も近いんでよく泊まりに行ったり、ご飯食べに行ったりしてます」
「へー、たしかに顔が似てると思ったよ」
くろきの言葉に、ゆうたは心の中で「六つ子ほどじゃないけど」と思った。
「君たち六つ子はお母さん似?」
ゆうたの疑問にしゅうは固まった。くろきは笑顔を作り、口を開く。
「いや、血は繋がってないんだ。この子達は拾っただけだよ」
ゆうたが納得すると同時に、階段から何人かの足音が聞こえてきた。二階に行っていたしん、しんや、しゅうや、しやが降りてきた。
「あ! ゆうたくんとゆうひさんだ!」
「なんで俺だけさん付け……」
「あはは、ゆうひお兄ちゃんは怖いからね」
しゅうやは誰とも打ち解ける性格で、ゆうたとも友達だったようだ。それと同じでしんもゆうた達と話している。
しんやはしやと話していた。よくよく聞くと、昨日の学校でしゅうとが無視したクラスメイトがゆうたくんらしい。新発見だ。
「一卵性のむつ子?」
「さあ、拾われたからわかんなーい」
しんはウォーターサーバーから水を注ぐ。
「みんな仲良いの?」
「まあまあ。一緒にお風呂入るぐらい」
「えぇ!? 仲いいね!」
ゆうたは目を見開いてしんとしゅうやを見たあと、ティーポットでお茶を作っているくろきに向き直った。
「お父さん、大変ですねえ」
「ああ」
ゆうたとゆうひは「だろうな」と思い、くろきの顔をまじまじと見る。皺が少しもない。けど、目にクマが出来ている。ゆうたはお茶を入れるのを手伝う。
「お父さん何歳なんですか?」
「30」
「えっ! ぼくのお父さんより十五歳若い! 何歳のときに拾われたんですかー?」
「十六だ。高校二年」
「えー!! 受験はどうされたんですか!?」
「したよ」
「えーーー!!! どこ大学ですかー!?」
「……途中で中退しちゃったよ。六人もいたら大変だからねー」
「あ、すみません。でも、六人も養えて、こんなとこに家に建てて……。なんのお仕事を?」
「それは……」
「お父さーん! ご飯はー?」
ゆうたの気になる答えはしんやの叫びに搔き消された。
次回 夕食はパーティータイム/三神家の食卓