第二十九話 すれ違いの恋の行方
「おはようございまーす」
8時35分
教室のドアが開く。ドアから出てきたのは六つ子の三男しゅうだった。
「お前、五分遅刻だぞ」
オニヅカ先生は出席簿でしゅうの頭を軽く叩く。
「すいません、電車が遅延してしまって」
軽く挨拶をして自分の席につくしゅう。しかしオニヅカは怪訝な顔をしてしゅうを睨む。
「電車って、お前の兄弟たちは時間通りに来たぞ? 一緒に登校してるんじゃないのか?」
現にしゅうの兄弟たち五人はすでに登校しており席に着いている。
「僕寝坊したんですよ」
笑いながら鞄を机の横に掛けるしゅう。
「でもお前らの家は徒歩で来れる距離だろ」
オニヅカは引き下がらずしゅうを問い詰め続ける。しゅうはムッとした顔でオニヅカ先生に紙を渡す。
「遅延証明書です」
オニヅカは紙をよく読んでからしゅうに視線を向ける。
「……わかった」
「ねーなんで、しゅうくんだけ電車で来たのー?」
お昼休み、しゅうがクラスメイトのゆうたとゆうひとお弁当を食べていた時、ゆうたがしゅうに質問する。
「僕は前日にそろばんの大会があって、隣町のホテルにいたんだ」
しゅうがだし巻き卵を食べながら答える。
「そろばん大会! どうだった?」
ゆうたがウキウキで聞くとしゅうは眉を下げた。
「予選敗退」
沈黙が流れる。
「意外だな、しゅうは文系かと思った」
ゆうひが重い空気を察して話題を変えてくれた。
「まあ文系寄りだけどそろばんは小さい頃から習ってたんだ、今回の大会もお父さんに言われて無理やり出場させられたよ。実力不足だったみたいだけど」
ゆうたとゆうひは一瞬顔が強張る。
“お父さん”
この前しゅう達六つ子の家に泊まった時、偶然聞いてしまったのだ。
お父さんと呼ばれてる義父の三神くろきとしゅうくんの怪しい会話を。
家族の域を超えた怪しい愛。
「どうしたの? ゆうたくん、ゆうひさん」
なにも知らないしゅうは箸が止まった二人の顔を覗き込む。
「なっ、なんでもないよ!」
「ああ、なんでもない」
ゆうたは焦りが顔に思いっきり出てしまっているが、ゆうひの無表情を見てしゅうは深く聞かず食事を再開した。
しかし、しゅうは何か悩んでるようで唇の前まで運んだレンコンを口に入れずに止めた。
「二人はさ……絶対無理とわかってる恋をしたらどうする?」
「「ッ!?」」
ゆうたとゆうひは驚く。
まさか、本当に……。
ゆうたは急いで口を開く。
「僕はねっ、諦めるよ、絶対無理な恋しても自分が傷付くだけだから!」
明らかにしゅうの顔がしょんぼりした。
「あっ、でも恋するのは自由だと思う! 好きになるのは止められないから!」
ゆうたはフォローするがしゅうの顔色は戻らない。見かねたゆうひがしゅうの肩を叩く。
「俺もいいと思うよ。恋は自由だと思う」
「ゆうひさん……」
しゅうは目を潤ませてゆうひの手を握る。
いつもは辛口のゆうひが肯定をしてくれた事でしゅうの心は少し軽くなった。
「む、僕もいい事言ったのに」
ゆうたは少し拗ねる。
「ゆうたくんもありがとう! じゃあちょっと伝えてくる!
……伝える、?
「まって! しゅうくん、好きな人に今気持ちを伝えるの?」
ゆうたが呼び止める。
「いや違うよ、恋愛相談に乗ってたから! 相談してくれた人に伝えようと思って」
……相談?
ゆうたは呆気に取られ固まってしまった。
「じゃあ絶対無理な恋というのはお前の話ではなく、その相談者の話ということか?」
ゆうひは冷静に質問する。
「うん、そうだよ」
しゅうは眉を顰めながら答えた。
ゆうたとゆうひは自分達だけが勝手に思い込み舞い上がってしまい、そして焦ってしまっていた。
「あっ、そうなんだね! 言ってきな!」
ゆうたは笑顔で戸惑うしゅうを送り出した。
「もー……びっくりしたよ」
「そうだな」
ゆうたとゆうひはやっと気を抜いて昼食に戻る。
「それにしても、しゅうくんに相談する人って誰なんだろうね」
「……なんか嫌な予感がするな」
「にじちゃん、ちょっといいかな」
「んー? なにー?」
しゅうが話しかけたのは学校1の美少女、空上にじ。
二人は廊下に出る。
「あの相談の件なんだけど……」
「聞いてくれたの!? ありがとうしゅうくん♡」
にじは笑顔でお礼を言う。しゅうは少し顔が赤くなりながら話を続ける。
「ゆうひさんは恋愛に対してそんな悪い印象は無いみたいだったよ、恋するのは自由って言ってた」
にじはしゅうの言葉に目を輝かせる。
「ほんと! じゃあ可能性はゼロじゃない訳ね」
なにかを真剣に考えてるにじ。しゅうは見惚れそうになりながらも彼女から一歩離れた。
「じゃあ僕はもう行くね、頑張ってね!」
「うん! ありがとう、しゅうくん♡」
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