おまけ 自分で稼ぐもん ~月:ゼロから始まるユーチューバー生活~
――これはまじでやばい。
ひんやりとした床の感触が昨日切った前髪越しに伝わり、彼は自分が無意識に四つん這いになったのだと気付いた。
全身に力が入らず、指先の感覚はなくなった。
ただ、手に持っているものをびりびりにしたくなるほど頭に血がのぼっている。
――最悪だ。さいっっあくだ。
日:7月1日*曜日
人:ミカミクロキ
金額:10,000
残高:10,000
しやは毎月一日恒例でATMに行き、今月分のお小遣いを確認した。
なんということだろう。
ひと月に一万円ぽっち?
しやは分かりやすく落胆する。
当然だろう。父からもらった金額と残高が同額なのだから。
しやは毎月一日の前日に無一文になるまで伊勢丹にいるのだ。
どうせ明日には金額が戻るから、と。
しかし。
今月は一万円だけだ。
いつもはこの三十倍は貰えるのに!
仕方なく床から離れ、ATMを後にし、家に戻る。
玄関を開けると肌の調子がいい他の兄弟たちがいた。
「兄さんたちは何円もらったの?」
しやは五人の兄を押しのけてソファーに横たわる。
兄たちは気にしていない様子でいつも通りしやの足元に座る。
長男「俺いつもより五万低かった。ま、それでも全然高い」
次男「いつもとおんなじ、〇〇万円」
三男「僕結構マイナスされてたー」
四男「俺もいつもと同じ額」
五男「おんなじおんなじ」
しやは兄らをぶん殴りたくなる気持ちを抑えてため息を吐く。
「そっか。僕は一万」
はっ?
兄弟たちは皆して言葉を漏らす。
しかし当のしやは何かを決断したように目をを鋭くしていた。
「僕、ユーチューバーになる!」
兄弟達は唖然とする。
「なんで、ユーチューバーに?」
三男しゅうが聞く。
「ほら、ユーチューバーってみんなお金持ちじゃん? 乗るしかないでしょ、この……」
「馬鹿か!」
しやの頭にゲンコツを喰らわしたのは長男しんだった。
「おまえは知らないだろうけど、ユーチューブでウハウハしてるのは一部の人だけだぞ? お前みたいな取り柄のない高校生がユーチューブ始めたからって稼げるわけないだろ!」
しんはかっこよく決めた。
しやは急に真顔になった。
「やってみないとわからないよ」
しんは言葉に詰まる。
たしかに、と思ってしまった。
「やってみれば?」
「おっ、お父さんっ!?」
しゅうの背後に帰ってきた父がいた。
しやは元凶を見つけて精一杯睨む。
「パパ睨んでてもお金は増えないよー」
父は台所に行って静かにコーヒーマシーンを動かす。
「なるもん! 稼ぐもん! パピーの年収超えてやる! ユーチューブで!」
しやはジャンプの主人公のように目を輝かせた。
――どーもー、今日からユーチューブ始めましたー! しやでーす。今日はー、僕の家のルームツアーしたいと思いまーす! 僕の家はー、都内の一軒家。ホントは僕、隣のタワーマンションに住みたかったんだよねー。
動画内のしやは画面を切り替えて家の中を見せる。
――まず玄関―。家族分の靴を入れれるために玄関は大きく作ってまーす。あ、僕は六つ子の末っ子。親はお父さん一人でーす。
しやは少し歩いて台所に着いた。
――ここは台所ー。白くてきれいでしょー。ま、きれいなのは滅多に使わないからなんだけどねー。
その後もしやはリビング、トイレ、和室を紹介し、二階の部屋も父の部屋意外すべて晒した。
――ルームツアー終わり―。どうでしたかー? 少しでも動画が面白いなって思ったらチャンネル登録と高評価、コメントお願いしまーす。じゃ、さよならー。
「なんこれ」
三男のしゅうが子供部屋でみんなと見ていたしやのユーチューブに低評価を付ける。
「はあ? やめてよ!」
しやは立ち上がったしゅうに叫ぶ。
「いやー、期待したんだけどなー。むりだったか」
長男のしんはがっかりしたように言って席を立つ。
「しん兄さん? ちょっと、待ってよ!」
しやの目には焦りが見えていた。
「うん。がんばって」
感情のこもっていない四男しゅうとも出て行った。
「がんばってね、しや! 月一万生活」
五男しゅうやも出ていく。
「あー、俺たちが期待したのが悪かった」
次男しんやは同調するようにしやの肩を撫でて出て行った。
「くそおおおおお! なんでだよおおおおおおおお!!!」
しやは膝から崩れ落ちる。
子供部屋に誰かが入る音がした。
しやが顔をあげてドアを見てみると――
「大丈夫かい? しやくん」
事の元凶、父くろきがいた。
「あなたのせいで僕の人生終わりですよ。ってかなんで僕のお小遣い少ないんですか!!」
くろきは一つの椅子に座って足を組む。
「あー、それはね。先週、しやくんのほしいものリストの物、全部買ったでしょ? それがお財布に響いたんだよねー。だから。でも一万でも結構生活できるでしょ。ってかいつも何に使って……」
「こんにゃろおおおおおお! このクソ親父―!」
なんでなんで?
くろきは意味が分からずしやに押し倒されていた。
「嘘だ! 一つも買ってないだろ!」
「買ったよ、まだ届いてないだけ」
え?
しやはくろきを離して問いただす。
「どういうこと? 買ったの??」
「もちろん。買ったよ全部。でも届くのは今日なんだ」
しやの目に光が戻った。
翌日。
届いた大量の箱を開けているしやがリビングにいる。
美容器で肌を整えるしやがソファにいる。
一人ファッションショーをしているしやが廊下にいる。
クローゼットを見ては幸せのため息を吐いているしやが自分の部屋にいる。
高いコテで髪を巻いているしやが洗面所にいる。
VR卓球をしているしやが台所にいる。
「お父さん、あのしや、一発殴っていいっすか?」
めずらしく五男のしゅうやが殺意を露わにした。
「いいでしょ」
いまにも殴りそうな声で三男のしゅうがカルピスソーダを作る。
「だめだよ。みんなにも買ってあげるから仲良くして」
父くろきはしゅうやとしゅうのおでこにキスをしてしやを通り過ぎ、ソファに座る。
「やだね。お父さん」
しんやが不満を漏らす。
しゅうはなんで? と聞く。
「だって、なんでもお金で解決しようとしてる」
しゅうはたしかに、と呟いた。
次回 舐めるなP.T,A,




