第二話 あなたとぼくの禁断の恋 君と私の大人な恋
~三年前~
「ねー、三神―」
「んー? どした」
私を呼ぶ声が聞こえ、台所に行くと料理中の姉がいた。
「くろみ姉さん、私たちは同じ苗字だよ。名前で呼んでくれ」
姉の作っていた天ぷらを一つ取って食べる。
「塩が合う」
姉は私の感想を無視し、天ぷらを揚げ続ける。私はお皿を出し、菜の花の天ぷらを置く。そこに塩をかける。箸を出し、食べようとしたところで姉の体が反るのが見えた。
「あっつぅ!」
どうやら手を火傷したようだ。私は気にせず天ぷらを揚げ続ける。すると急にお皿を取り上げられた。
「なにするんだっ!」
「心配ぐらいしなさいよ! バカくろき!」
「はぁ? くろみ姉さ……いたぁっ!」
取り上げられた皿を私の頭に叩きつけるくろみは塩の付いた弟の髪を見て少し申し訳なくなる。
「塩だらけだよ」
「そうね」
髪を触るや否やバスルームへと向かう弟にくろみは叫ぶ。
「あんた! なんか言うことないの!?」
振り返ったくろきは分からなそうな顔をした後、納得した。
「結婚した?」
「遅いわよ! 二週間前からずーっと、指輪してた!」
「……そ」
反応が鈍い弟にくろみは話始める。
「実は三年ぐらい前に、大学の先輩だった人から告られてたの。そろそろ結婚しようかって話になって、もうすぐ結婚式。一応あんた呼ぶけど来る?」
「行けたら行く」
くろみは「来ないやつじゃん」と突っ込みながらも話を進める。
「明日、この家、出ていくから。あの子たち、あんた一人で育てられる? 無理そうだったらお母さんたち呼ぶけど」
それを聞いたくろきは眉を動かす。くろみはそれを見逃さなかった。
「どうしたのよ、くろき」
くろきは一度唇を噛んで、姉の目を見た。
「六人を私一人で? ご飯はどうする? くろみ姉さんがしてた家事はだれがするんだ」
くろみは瞬きをし、弟のこめかみをぐりぐりする。
「あんたはわたしが居なくても大丈夫でしょ。なんかあったらニューヨーク行きな。お母さんたち、ご飯は作ってくれるから。じゃ、頭、綺麗にしておいで」
「はいはい。あいたたたたた」
くろみが手を離すと、くろきは睨みながらバスルームに歩く。
「ほんと。大丈夫かしら」
くろみはリビングの写真が飾ってある机に目を向かせた。そこには大学生のくろみと高校生のくろきと、六人の赤ちゃんがいた。
~現在~
「えーっと……。長男だれだっけ?」
「もー、先生ったらー! 俺ですよー」
しんは笑いながら名札を見せる。
「あー、『しん』か。六人全員おぼえなきゃなんて、先生大変だなー!」
オニヅカ先生は「がっはっは」と笑いながら教室の中の一つの席を指差す。
「あそこからお前らの席だ! 長男から順番に並べよー!」
その声で六つ子は席に着く。席は横五列、縦五列の二十五席。
「あと十九人も来るの!? 俺覚えられないかも」
「僕もむりそー」
しんとしやが隣同士の席で弱音を吐いている。その光景に呆れるしゅうとはどこか寂しそうだ。きっと話し相手がうるさいしゅうやしかいないせいだろう。僕の前の席にいるしんやが後ろを向いているのだから。
「俺なら一発で覚えられるぜ」
「うるさい。しんや兄さん」
今のところ、僕たちの他に女子が三人、男子が四人来ている。クラスのみんなはそれぞれ話している。僕たちをチラチラ見ながら。
「六つ子って珍しいからね」
しんやは視線に気付いたのか眉を下げる。
「せっかくなら話しかけてほしいね」
しゅうは兄の言葉に頷く。しんやはしゅうの後ろを見た。しゅう振り返ると、そこには女の子がいた。僕たちをずっとチラチラ見ていた女子のグループ。
「みんな同じ顔なの?」
感じの悪そうなリーダーらしき人が六人を指差していった。しゅうはしんの方を見る。しんは驚いた顔をしながら席を立った。
「あー、うん。俺たちみんな同じ顔の六つ子」
笑顔で言うしん。その言葉にクラス中が目を見開いたのを六人全員感じた。
「六つ……子? ふーん。おもしろい。わたしは山上かなめ。この学校には中等部のころからいるわ。よろしく」
少しも笑わず、よろしくされた。しゅうは握手をしようか迷っていると、しゅうやが彼女の手を取った。
「よろしく! 僕は五男のしゅうや! さっき話したのは……」
「長男のしん。よろしく」
「俺は次男のしんや」
「僕は三男のしゅうです」
「俺は四男のしゅうと」
「僕は末っ子のしやでーす」
みんなが挨拶をするとかなめは少し、笑った。
「多いね。よろしく」
一時間目の学活が終わると鐘がなった。
「じゃあ、今日はこれで終わり! 帰っていいぞー!」
オニヅカ先生は黒板を消した。
「起立、礼、着席」
出席番号一番の男子生徒の声にみんな合わせる。先生が教室から出ていくのを見計らっていたのか、急に六つ子の周りには生徒でいっぱいになっていた。
「ねえ、ねえ、テレパシー、してよ!」
「この後暇っしょ? おれらとゲーセン行かね?」
「どうやって見分けてるのー?」
「みんな、考えてること一緒なんでしょ!」
「もっと顔見せてよ!」
「顔だけが一緒なのか!?」
急な質問に六人固まる。
1「いやー、テレパシーはちょっと」
2「一番かっこいいのが、お・れ」
3「顔も体格も一緒なんです」
4「うっざ」
5「ごめん! もう帰らないと!」
6「僕、こういう人たち苦手―」
しゅうやが走って帰るのを見て、五人も変える準備をし始める。
「すみません。もう帰りますね」
しゅうの言葉にクラスメイトはおどろく。
「もう帰るのー?」
「せっかくの午前中授業だったんだから、どっか行こうぜー」
「六人もいるんだし、一人ぐらいよくね?」
「家、どこなのー? お金持ちなんでしょ!」
「一緒に帰ろ……」
「「「「「すみません! 帰ります!」」」」」
五人は走って校門まで着いた。そこには眉を下げたしゅうやがいた。
「みんな! 僕、ごめんね! 見捨てたつもりじゃ……」
しんがしゅうやの隣に行き、手を取って歩き始める。みんなもそれにならい、帰宅した。
P.M 11:30
六人の寝室。
「……という感じで、学校初日はうまくいったのです!」
「そうか」
しゅうやの報告にお父さんは頷くだけだった。
「あの……質問とかって?」
しんやが尋ねるとお父さんはみんなに布団をかけた。
「もう寝なさい。おやすみ」
「「「「「「おやすみなさぁい」」」」」」
そのままお父さんは部屋を出て行った。みんなもう寝ようかと迷っていたところでしんやが口を開いた。
「なんかさ、最近のお父さん、変……じゃない?」
しんやが意味深に言うと、しんが「わかんない」と空気を粉々にした。しゅうは安心したが、しゅうとは何か考えていそうな顔をしてる。しゅうやのいびきが聞こえる中、次はしやが口を開いた。
「僕も最近思い始めてた。やっぱりぃ……『あれ』かなぁ」
しゅうは「『あれ』ってなに!?」と聞きたかったが変に思われてしまいそうなので口を閉ざす。
「あー、『あれ』ね」
しんやは分かり切った口調で話す。しゅうは気になってしかたない。
「カノジョ……できたのかも」
しやは天井を見つめながら確信したように言う。
しゅうは耐えられなくなり、ベッドから起き上がる。
「しゅう兄さん、やめてよぉ」
隣で寝ていたしゅうやが起きた。
「どこ行くの?」
しんやとしんに尋ねられ、しゅうは笑った顔を見せた。
「ちょっとおなかすいたから。冷蔵庫、あさってくる」
兄弟たちは特に何も言わず、寝返りを打った。
お父さんの執務室
「起きていますか?」
しゅうが部屋に入るとくろきは焦った。が、振り返り、しゅうだと確認したらため息を吐いて。ソファーを指差してくれた。
「座って」
「ありがとうございます」
しゅうは冷蔵庫から取ったアイスを開けて食べ始める。くろきは顔をしかめてソファーに近寄り、しゅうの隣に座った。しゅうがアイスを差し出すとお父さんは拒否する。
「この時間は糖分を控えているんだ」
しゅうは目を見開いたあと納得した。
「もう三十ですもんね」
くろきは現実を見させられたような気になり、横の机から充電中だったアイパッドを取る。何件かメールを読んだ後また執務机に戻った。
しゅうは目を泳がせる。
……お父さん、恋人が出来たのですか? お父さん、僕は他の兄弟たちと同じ扱いですか? お父さん、本当に僕のことを愛していますか?
普通のカップルならこんなことを聞かなくても愛し合っていると分かるものだろうか。
しゅうは自分が恋愛経験がないことに特に何も思っていなかった。だが、今だけは、恋人との接し方について分かる人として生きたほうが楽だと思う。
このままなにもしないまま終わりますか?
一度のキスで終わらせますか?
昨日のことはなかったことにしますか?
しゅうはアイスを食べる手を止める。
くろきはキーボードを打つ手を止める。
しゅうはアイスを机に置く。
くろきは椅子から立ち、しゅうの前まで行く。
「お父さん? あの……」
しゅうが尋ねる前に口がふさがれた。
しゅうは聞きたいことを聞く気になったが、それは彼の態度で分かった。
もう聞かなくても分かる。
しゅうはくろきを。
くろきはしゅうを。
「「愛してる」」
次回 シークレット・デート♡




