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第十九話 MR. MERCEDES-BENZ

 六つ子とお父さんの七人家族の家には二つの車がある。

 一つは家族みんなで乗れる八人乗りの大きい車。もう一つは父くろきが父にもらった四人乗りの外車。


 もちろん子供は全員高校生なので運転するのはくろきのみである。


 今日はしゅうの要望でくろきと二人だけでドライブすることになった。家族みんなの時以外は外車に乗る。今日も二人だけなので外車。


「話って?」


 車庫から出て三回目の曲がり角でくろきがしゅうに聞いた。しゅうは車とつなげたくろきのスマホで音楽を選んでいる。


「ねえ、話って?」


 しゅうはくろきを無視する。


「んー。ミスタータクシー♪タクシー♪タクシー♪はどうです?」

「曲の事じゃないんだけど?」

「僕は曲のことを聞いています。タクシー♪でいいですか?」

「いーよ。どうでも」


 くろきは青信号になり、運転に集中する。しゅうは曲をかけ、歌を口ずさみ始めた。


「ときよ~♪」


 ……こいつ話す気あるか?

 くろきは呆れたようにため息を吐いた。しゅうはまだ歌っている。


「追いつけないスピードで~♪」


 くろきはしゅうを無視してどこに行こうか迷う。


「奪って欲しいの~、ゆーてくみーいますぐ~♪」


 うるせえなこいつ。くろきは駐車場に着いた。曲が終わったのかしゅうが静かになった。しゅうは二曲目を選び始める。くろきはバックで車を止める。


「あれ? どこですか、ここ」


 くろきはしゅうの質問には答えず、車のエンジンを切った。しゅうは強制的に曲選びを終わらせられた。


「どこだと思う?」


 くろきはしゅうの手からスマホを取り、シートベルトを外して車から出る。


「え……どこだろー」


 しゅうもシートベルトを外して車から出る。


「おっきいビル? お父さん、ここに何の用が?」


 くろきはバックを後部座席から取って、すたすたと歩き始めた。


「ちょっと! 待ってくださいよ」


 しゅうもくろきの後を追う。



 ビルの前に社員証が必要なゲートがある。


「お父さん、ここに用なんかないでしょう? ほら、受付のおねーさんも僕たちを見てびっくりしてますから!」

「〝僕たち〟にびっくりしてるんじゃないよ。君だけにびっくりしてるんだよ」


 しゅうは固まる。

 くろきがバックから社員証を出してきた。


「お父さん? そのカードで僕も入れますか?」

「入れる訳ないでしょ」


ピッ


 くろきがカードをかざす。そのままエスカレーターに乗った。


「お父さんのいじわる」


 しゅうは受付のおねーさんと話しながらくろきを待つことにした。


「三神さん、ご結婚していらしたんですね。意外です。会社の方とあまり関わりを持とうとしませんし、ご年齢も……」

「いや、お父さんは結婚してませんよ。ただ子供がいるってだけで」

「え?」


 おねーさんは「地雷踏んだか?」という顔になる。


「あ、僕たちは実の子供じゃないんですよ」

「僕……たち?」


 おねーさんは「この子、見えてはいけないものが見えてるわ!」という顔になる。


「あ、僕、六つ子で。三男なんです」

「あっ、そうなんですか。それで、他のご兄弟さんたちは……」

「来たのは僕だけです」

「なるほど。それにしても、おひとりで六人も育てるのは大変ですね」


 たしかに。


「あー、でも、三年前までお父さんのお姉さんがいたんですよ」

「くろみさんですね」

「知ってるんですか?」

「えぇ、お父様と同じ職場で働いていましたよね?」

「へー、そうなんですか。今もここで?」

「いえ、ご結婚されてお仕事はやめたと聞いております」


 そーなんだー。


「そういえば、先日、三神さんがエスカレーターから落っこちていました。何か悩み事でもあるのでしょうか?」

「普通に頭悪いんでしょう。お父さん、ああ見えて高卒ですから」


 しゅうはエスカレーターを見る。

 そこにはくろきがいた。下がってきている。用は済んだのだろうか。


「え? 三神さんが高卒? 浪人したとは聞きましたが、大学は行っているはずですよ」

「んなわけ。ちなみにどこの大学ですか?」


 しゅうは高学歴が好きだ。


「えーっと、確か海外の……」

「『海外の』!!」


 しゅうは興奮のあまり、本来付いていないはずのしっぽを振る。


「何のお話でしょう?」

「うわああっ!」


 くろきが来た。

 しゅうは驚きのあまり尻もちをつく。


「何のお話ですか?」


 くろきはもう一度おねーさんに聞く。


「え、ええと」


 おねーさんはしゅうを見る。


「お父さんの、話です」


 しゅうは隠そうともせず正直に言った。

 おねーさんと話していたことを。


「ふーん」


 くろきは時間が経ったからか興味をなくしてきた。


「もういいよ。帰ろう」

「は、はい。おねーさんさようなら」

「さようなら」


 二人は車に乗り込む。


「しゅうくん」


 くろきはシートベルトをしようとしているしゅうの胸ぐらを掴んだ。

 そして自分の方に引き寄せる。


 しゅうはびっくりして目を見開く。


「んっ」


 くろきはしゅうの下唇を噛んだ。

次回 20までにとうるさくて

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