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七話 Watch your step !

 木曜日の三神家の朝。

 木曜日は父くろきの会議がないためぎりぎりまで寝て、子供たちを送迎した後、家に帰り支度をしてから出社する。

 兄弟たちはいつも通り学校に行く支度をしていた。


「ねー、しん兄さん、ぼくが昨日買ってもらった朝ごはん勝手に食べたでしょ!」

「はあ? たべてねえよ。今から朝ごはんですー。……なんで長男が一番に疑われるんだよ」

「えー? しん兄さんじゃないってことは、しゅう兄さん?」


 しゅうは急に名前を呼ばれ嫌な顔をした。

二番目に疑われるのは自分なのか。普通しんや兄さんでしょ。と、思いながら。


「ぼくじゃないよ。しんや兄さんじゃないの?」


 しゅうの言葉に食卓にいた全員がソファーでスマホをいじっているしんやを見る。しんやは視線に気が付いて眉をひそめる。


「ちがうよ?」


 しやは疑問形の言葉に首を傾げた。怪しいとでも思っているのだろう。しゅうはこれ以上この問題に関わりたくないため、起きたばかりのしゅうとの元へ逃げる。


「しゅうとくん、しゅうとくん」

「なに? しゅう兄さん」


 しゅうとは洗面所に行き、眼鏡を外して顔を洗う。しゅうは置かれた眼鏡を付けてみる。結構強い度にびっくりしながら眼鏡を探しているしゅうとの手に戻した。


「用があるなら早く言ってくんない? 俺今から着替える」

「着替えてていいよ」


 しゅうとはしゅうを一瞥してパジャマを脱ぐ。シャツをハンガーから取って腕を通す。その上から私服のパーカーを着て、学校のズボンを履く。靴下は学校指定のものじゃないものをしゅうやの棚から取った。なんと斬新な奴だ。

 しゅうはしゅうとに感心していたら洗面所に一人の男が入ってきた。ザ・寝起きの顔のしゅうやだ。このままいけば遅刻するかもしれないということを自覚していない。しゅうもだが。


「おはよー、しゅう兄さんしゅうと兄さん」

「おやようしゅうや」


 しゅうとはしゅうやに挨拶もせず足早に洗面所を出て行った。


「ねー、しゅう兄さん、朝ねー……」

「ごめん、しゅうや! ぼく、しゅうとに話が!」


 しゅうはそのまましゅうとの後を追って洗面所を出て行った。残されたしゅうやは状況を理解できないまま顔を洗った。



「違うって! 俺じゃない!」

「はあ? しんや兄さんしかいないんだけど?」

「そうだそうだ!」


 台所とリビングではしんやとしやがまだ戦っていた。しんはしやを応援している。


「もーやめなよ、いい年して朝ごはん戦争なんて」


 しゅうとは兄弟を一喝してテレビの番組を変え、フルーツ冷蔵庫から何個かフルーツを取る。優雅な野郎だ。


「しゅうとー、ぼくの話まだだったよー」


 しゅうがしゅうとの前の席に座る。しゅうとは少し嫌な顔をしたものの、しゅうを言葉に耳を傾ける。しゅうは机に身を乗り出してできるだけ小声で言った。


「昨日の夜、お父さんの部屋行った?」


 しゅうとは顔色一つ変えず答えた。


「行ってない」




1「行ってきまーす」

2「じゃ」

3「帰りは塾に八時で」

4「……」

5「行ってきます」

6「んじゃー」


 くろきは六つ子を車で送迎し終わり、家に帰る。家にくろきしかいないのは木曜日の朝だけだろう。

 仕事に行く準備が出来たら鍵をかけて家を出る。

 車に乗り、エンジンをかける。車庫の扉が開くと眩しい光が差し込んできた。


 仕事場に着き、部屋に入ると昨日の夜の出来事が蘇ってきた。思い出したくもないのに。



「‘しんや’くん。いつからピアス、開けてたの?」


 くろきは背中に体温を感じながら聞く。しんやはやっとくろきを離した。


「むー、なんで……。完ぺきだったのに」


 拗ねているしんやにくろきは笑った。


「しんやくんは剣道をしているだろう? しゅうくんの手と全然違うよ。しんやくんは全体的にも筋肉が付いているからね」


 しんやは独特の観察に少し引く。くろきはパソコンに向き直った。


「そんなに僕たちを見ていたんだ。知らなかった。……じゃあ、しゅうとのキスは? 僕の勘違い?」


くろきは背中に刺さる視線が鋭いことに気付く。きっと今しんやはとてつもなく怖い顔をしているに違いない。


「勘違いだね。親子としてほっぺにキスをしていたんだ。みんなにもするだろう?」

「そうだったんだ。なーんだ。よかったー」


 ……しんやがさっきの発言を忘れるアホで助かったよ。


 昨日の夜はしんやの見間違えということにして疑いは晴れたが、くろきには悩みが増えた。

 それはしんやがしゅうに化けた時に発言したことだ。


『僕達って付き合ってるんですか?』


 くろきは人づきあいが苦手だ。意味もないことに共感し、時に反論しあう。なんと無意味な時間だ。そういうことでしか得られない栄養があるのよとか母親に教わったが、くろきはいまだに分からなかった。

 小中は海外。高校は日本の学校に行ったが、人間関係で馴染めず友達が出来なかった。恋人なんてもってのほか。大学こそは、と受験に取り組もうとした途端六つ子を拾った。


 六つ子はくろきにとって本当の子供のようだった。でもそのうちしゅうと……。

 このまましゅうとだらだら関係を続けたくない。

うん、そうだ、しゅうに意見を聞いてみよう。


 しゅうが続けたいというならば付き合う。

 しゅうがやめたいと言ったら親子に戻る。


 しゅうに聞いてから……。




「いたっ!」


 しんやは学校の校門前で盛大にこけた。


「誰か噂でもしてるんじゃなーい?」


 しやの言葉にしんやは少し考える。


「それ、あくびじゃないか?」


 しゅうはバカたちの会話にため息を吐いた。


「お父さんが新しい靴で慣れてないかもだから、足元に気を付けろって言ってたじゃん」

次回 車で遠出、だれがどの席? 助手席を奪い合え! 三神家のバトルロワイアル

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