この世界とは
5歳になった。
最近、僕は4日を基本サイクルとして武術や魔術、剣術を学んでいる。
1日目に武術、2日目に魔術、3日目に剣術、4日目は休憩日だ。
体が大きくなるにつれて筋肉も付いてきたから、最近は短剣や木剣を持てるようになったのだ。
前世は素振りの何が辛いのだろう、とか思っていたけど、今になってわかる。これは辛い。
皮は剥けしまうし、たまに血も滲んでくる。
皮は固くなってきたほうだが、やはりまだ痛い。
剣術を習い始めてから日が浅いからまだ体が慣れていないのだ。
4歳の頃父さんに聞いたことがある。
「父さん、魔術師はどのように怪物と戦うのですか?」
ダンジョンでは怪物が出る。
僕が知ってる魔術は母さんが料理や洗濯をするときなどに使う火魔法と水魔法だけだった。
あまり戦闘に向いているものだとは思わなかった。
「フィアは魔術の階級を知ってるか?」
父さんはそう聞いてきた。
首を横に振る。
「魔術には7つの階級があるんだ。
初級、中級、上級、仙級、聖級、帝級、覇級の7つだ。
フィアがよく見るのは母さんの使う初級魔術だけだから戦闘向きには見えなかったかもしれないが、中級以上には戦闘向きのものが多い。」
僕はいつも初級魔術しか使っていなかったのか。
初級魔術はほとんどの人が使える分汎用性の高いものになったということだろう。
「それに加えて魔術には基礎魔術と独自魔術があるんだ。」
「独自魔術?」
「基礎魔術は火、水、土、風、治癒の五代基礎魔法のことだな。これには7つの階級がある。だがな、独自魔術に階級はない。使用者のステータスに依存するんだ。」
「加えて独自魔術は魔力の消費効率が圧倒的に良い。」
父さんは人差し指を真上に指しながらそう言った。
「誰でも使えるものなんですか?」
疑問に感じたことを聞いてみる。
「いいや、そんなに簡単なものじゃないさ。
全魔術師の5%弱しか使えないものなんだ。冒険者になれるのが五人に一人、冒険者の魔術師割合が3割程度なのを鑑みるとかなり希少だって分かるだろ?」
目を見開く。かなり少ない。
この世界の人口は前世と比べると少ない。
大体10億人くらいだ。
つまり30万人くらいしか使えない魔術だ。
この街の人口の約2倍。それくらいの数しかいないのだ。
魔術師として冒険者をやっている者が600万人もいるのに。
「制御も難しい。まともに使えるのはそのうちの4割ってとこだな。」
「この街の人口くらいですか?」
「ははっ、よく知ってるなぁ。そうだ。このちっぽけな街にいる分の魔術師しか、独自魔術は使えないんだ。でもな、使えたら強いぞ。」
当たり前だ。魔力が枯れる心配がさらになくなって自分が強くなればなるほど魔術も一緒に強くなるんだもの。
「魔術だけじゃなくて武術や剣術にも階級はある。」
なんとなくそれはわかる。
「武術は対人戦でしか使わないのでは?」
剣術は分かる。でも武術に階級があるのは少し不思議だった。
この世界で戦争はほとんどない。
対人戦がほとんど行われないのにどうして武術にも階級があるのだろうか。
「武術はいわゆる賭博で使われるからな。似てる階級の奴らが戦うのが面白いのだから、階級は廃れなかったんだ。」
苦々しい顔をしてそう言った。
「戦うのは奴隷同士。あまり強くなっても困るから仙級以上の力をつけれないよう呪いをかけられているがな。」
奴隷が強くなりすぎると管理が難しくなるから、というわけか。仙級以上は形式として残っただけのようだ。
「それだけが理由では無いぞ」
違ったみたいだ。
「武術の階級が上がれば上がるほど剣術は扱いやすくなる。元々剣術は武術を剣の扱いに合わせて改良したものだからな。」
似ているものは吸収しやすい。なるほどな
「絶対に迷宮で魔術を使わないとは限らないしな。深い階層や、『テアルーク』なんかでは武術と剣術を掛け合わせて攻撃を繰り出す冒険者は多い。」
『テアルーク』というのは大陸の中央にあるどこの国にも属さない場所のことだ。
どこの国なのか定めようとしたことはあったらしいが、200年に1度、厄災を生み出す中央の大迷宮、『フェアルック迷宮』の攻略は各国家で協力していこう、という話にまとまったのだ。
「『テアルーク』には独自魔術を扱う者もおおい。フィアがもし『テアルーク』に入れるくらい強くなったら行ってみるのもいいかもな。」
『テアルーク』には各地方迷宮の最下層の怪物を倒したものしか入れない。
『フェアルック迷宮』は最上層でもそれだけの力を秘めた怪物がゴロゴロいるのだろうだ。
「はい!行ってみたいです!」
いつになるかは分からないが、僕の親友2人を助けるために力はつけておきたい。
そう思ったのを覚えている。
5歳の今は武術と魔術を中級、剣術を初級まで扱えるようになった。
「バランスよく会得できる奴は少ないからな。お前はすごい。」
そう言いながら父さんは僕の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「僕は冒険者になれるでしょうか?」
父さんが力強く撫でてくる中そう聞いた。
「どうだろうな。それは6歳になってからのお楽しみだ。」
顎に手を当てながら父はそう答えた。
冒険者になれるのは満6歳からだ。
5歳の僕はまだなれない。だから冒険者になれるかどうかを調べることは出来ない。
少し不満だが、自分を過信して亡くなってしまう冒険者だってたくさんいるのだ。6歳でもまだ早い方なんだろうな。
「今はひたすら修行に励むだけだ。そう焦るな。
ああは言ったが、父さんはお前が冒険者になれると信じてるからな。」
父さんはかなり冒険者としては強い部類の人間だ。
その父が言ってくれるなら力強い。
「さて、明日は休日だろ。そろそろ1人で街を探検してみてもいいんじゃないか?友達の1人や2人見せてくれないとそろそろ父さんも母さんも心配だ。」
この世界に来てからは友達を作ろうとしてこなかった。強くなるのに躍起になって休日というのは形だけでいつもこっそり魔術の練習をしていたのだ。
剣術は武術はすぐに父さんや母さんにバレてしまうから。
でもそうか。息子がずっと1人なのは心配だろうな。
中身はほとんど大人の僕に同年代の友達が作れるかは分からないがいろいろ見て回ってみたい。
ただ1つ心配なことがあった。
「わかりました!でも、僕に友達を作れるでしょうか?」
精神年齢のことからの心配じゃない。見た目のことだ。
半分エルフで半分獣人。奇妙な存在のはずだ。
「うーん、そうだな。もし、いじめられてもやり返してやれ。そのために武術を習ったようなもんだろ。まぁたしかに、獣人族の子どもは闘争本能が強いし、弱肉強食こそ全てだと思ってはいるが、お前ならきっと勝てるさ。強いやつとは仲良くしたいヤツらだ。友達ができるさ。」
父さんは快活に笑ってそう答えた。
うん、慢心するつもりはないが、僕だって弱くない。
ちょっかいかけてくる奴らがいたらやり返してやる。
実力本意の世界では成り上がりたいならやっぱり強くなきゃ行けない。
よし、明日は出かけよう。友達も作ろう。
僕はそう思った。