第1話 魔獣の姉弟
静かな住宅街を1台の馬車が走っていた
(はぁ今日も疲れた…あの老害共,さっさと斃ってくれないらしらこれじゃいつまでたってもあの子が…
お父様とお母様が永眠されてから幾年,必死になって家を守って来たけれど,あの頭の硬い老害共のせいで私よりも弟の方が肩身の狭い思いをさせてしまっているわ)
(姉失格ね…情けないわ)
ふと空を見あげれば,いつも見える月がない
(そっか…今夜は新月,こういう日に限って何か起きる気がする…と言うのは私の気にし過ぎかしら…)
馬車はかけて行く少女と疑念を乗せたまま
「お帰りなさいませエミリア様」
「ただいまルナ,留守の間何が変わった事は?」
「それが…」
ルナがそう口を開いた時,屋敷の奥からバタバタと駆けてくる音がした
「姉さん!お帰りなさいませ!待ってたよ!」
ドアを蹴破る勢いで部屋に入ってきたのは少女ーエミリアの弟クルルだった
「姉さん!ありがとう!僕すっごい嬉しいよ!」
「ただいまクルル,まずは落ち着きなさい何をそんなに嬉しがっているの?」
「だって姉さんでしょ!僕にあの子くれたの!」
「あの子?クルル私全く身に覚えが何のだけど」
「え?姉さんじゃないの?僕てっきり姉さんが僕にお土産持ってきたと思ったのに。」
「あぁエミリア様,実は先程の話に繋がるのですが,クルル坊ちゃんの言うあの子と言うのが馬車に…」
「うそ!馬車に乗っていたと言うの?人の気配なんで無かったわ!」
「えぇ気配封じの服を着せられておりましたから,お気づきにならなかったのも無理はありません」
「そう。クルル貴方には悪いけどその子は元いた所に戻すわ」
「えぇー!そんな!友達に……分かったよ姉さんが言うなら」
「あぁぁ…エミリア様それが少々問題が」
「問題?どういう事?ただの迷子じゃないの?」
「……その……人間でして」
「人間ですって?!まさか!有り得ないわ!3000年前のあの出来事で人間界との道が閉ざされた事くらい子供でも知ってるわ!」
「えぇですから我々も困っているのです」
「えぇ?!あの子人間だったの?!」
「…気づいてなかったの?」
「うん…姉さんと何にも変わらないから僕てっきり魔法使いかなって」
「見た目だけよ,魔法使いと違って魔力も何も持たないわ
それにしてもまさか人間だなんて…」
(何が起きそうとは思っていたけどこんな事って…)
「じゃ屋敷に置いても良いよね!危険じゃないんでしょ!
僕友達になりたい!いいでしょ姉さん!」
「クルル坊ちゃんそのような事は」
「いいえクルルの言う通りそれが良いかも知れないわ」
「エミリア様!」
「その辺にほっぽっておけば獣に食われるのが関の山よ
それに最近王都の方で似たような話を聞くようになった事を思い出したわ」
「王都でも人間が」
「いいえその逆,王都では消えるそうよ人が」
「人が消えるだなんて,そんな事が」
「もしかしたら何か関係があるかも知れないわ,フランドール家の名のもとに調べる必要が有りそうね…いいクルルちゃんとお世話するのよ」
「わかった!ありがとう姉さん!大好き!」
「ルナ,ソルにも言って手伝ってあげてちょうだい」
「かしこまりました」
「まずはその子の状態を確認しなきゃ,クルルその子どこにいるの?」
「あの子なら僕の部屋にいるよ!」
「そう,なら会いに行きましょ」
…………………………
………………
……
ガチャ
「入るよ〜!」
「! !!」
「大丈夫だよ〜僕だよ僕〜」
(フルフル)
「大丈夫だよ出ておいで〜」
「怖がらないでいいわ,ここにはあなたを危険に晒す人は居ないわよ」
(ブルブル)
「完全に怯えちゃった…」
「エリミア様もしや言葉が…」
「有り得るわね…クルル」
「はい姉さん!」
「あなたの人形を使って誘き出してちょうだい」
「なるほど!流石姉さん!……ほぉーらクマだよ〜こっちこいで〜」
(ピク…ぁ)
「出てきましたね 流石エミリア様」
「あなた名前は?」
しかしエミリアが近寄るとまた布団を被って隠れてしまった
「……平気よ安心して私は貴方に何もしないわ」
(…)
「私たちはあなたの味方よ」
(チラ)
「ふふ出てきてくれてありがとう…あら結構可愛い顔してるのねあなたお名前は?」
「……」
「姉さんやっぱり言葉が通じないんじゃ」
「…リ」
「え?」
「…ぉり」
「しゃべった!」
「クルル静かにして」
「ごめんなさい」
「もう一度聞いていい?」
「ぁおリ」
「あおり?」
「かおりじゃないかしら?あなたかおりって言うの?」
「あ…おり…カオリ!」
「そう可愛い名前ね」
「そっか〜カオリか〜カオリって言うだ〜僕クルルって言うだ!ク・ル・ル」
(???)
「ク・ル・ル!言ってみて!」
「…う…うりゅりゅ?」
「クルルだよ〜はははこっちが僕の姉さんエミリアだよ!後ろにいるのが執事のルナ!」
「初めましてカオリ様ルナと申します」
「あなた達がっつき過ぎ…ほらまた隠れちゃったじゃないの」
「あれ〜名前呼んで欲しかったのに〜」
「これから一緒に住むんだから機会なんて沢山あるでしょ」
「それもそっか〜」
「さぁそろそろ休ませてあげましょ知らないところに急に来たんだから疲れているはずよ」
「じゃまたね〜カオリ〜僕の部屋好きに使っていいからね〜」
「ルナ」
「はいエミリア様」
「思っていたよりも言葉が通じなさそうだわ,ソルにはクルルと一緒に勉強を教えてあげて欲しいからその事も伝えておいてちょうだい」
「かしこまりました」
「貴方ももう休みなさい,明日から大変よ」
「ありがとうございます,おやすみなさいませ」
「姉さん!一緒寝ていい!僕の部屋カオリが使ってるし!」
「良いわよ」
「やった〜!!やっぱり姉さん大好き!」
そうして夜は更けていった
これが落ち人ーカオリとの出会いだったわ