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出会い4

「望むところです」


 そういった俺にマテリアさんは意外そうな顔をした。まあ、でかい口を叩いた自覚はある。


「親類だけあって、君はジンヤに似ているね。魔王と第二の魔王軍の前に挫けそうな僕たちへ、ジンヤはそんなふうに言ってたよ」

「俺はあの人の足元にも及びませんよ」


 なんのチートにも頼らずに異世界を救った人と俺じゃあ雲泥の差だ。


「そんな謙遜する事ないと思うけどね。ああ、それと、もし迷宮でなにか見つけたら買い取るよ」

「分かりました、それじゃあまた」

「ああ、次に会うのを楽しみにしているよ」


 マテリアの店を出たあと、俺は今晩の宿を探した。

 だがこの日はどこの宿屋も満室で、ようやく見つけた空き部屋は二人部屋だった。

 一人なのに二人分の宿賃を払うのは痛いが仕方ない。

 宿の食堂で夕食を済ませたあと、明日の迷宮挑戦に備えて寝ようかと部屋に戻った時、なんとアカシックが待ち構えていた。


「ハーイ」

「なんの用だ?」

「もちろん、この間言ってたヒロインの件よ」

「俺は一人で冒険したいんだよ」

「だめよそれじゃ。男の子一人の冒険なんてつまらないじゃない。やっぱり華が無くちゃ」

「だからって俺がそいつを守りきれるとは限らないぞ」


 今の俺はだいぶ強くなったが、それでも他人の命の安全を確約なんてできない。


「大丈夫よ。あなたと同じかそれ以上に強い子を連れてきたから」


 アカシックが指を鳴らすと、俺を異世界転移させた次元に穴が開く。


「一名様ごあんなーい」


 すると次元の穴から眼鏡をかけた少女が高速水平射出されて俺にぶつかる


「キャー!」

「グエーッ!」


 少女が肘が鳩尾に突き刺さったせいで、潰れたカエルみたいな声を出してしまった。


「何をするんですかアカシック!」


 ずれた眼鏡を直しながら抗議する少女は、俺と同じ異世界転移者だろうか。


「この子はトラベラーと言ってね、もう一つの異世界から連れてきたの」

「アカシック! 私はまだ協力するなんて言ってません」


 おいおい同意を取ってないのに連れてきたのかよ。

 それにしても、もう一つの異世界から連れてきただと? もしかして異世界は複数あるのか?


「トラベラー、もし私のお願いを聞いてくれたなら、私もそちら側のお願いを聞いてあげる。一度だけね」

「!」


 その言葉にトラベラーは妙に驚いた。


「本当ですか?」

「もちろん。私の良心に誓って」


 そう言った瞬間のアカシックは、いつものおちゃらけた雰囲気はなく、ある種の誠実さすら感じた。


「……分かりました。ですが、まずは私の上司に連絡させてください」

「ああ大丈夫よ。並行世界調査機関には話を通してあるから」


 トラベラーはスマートフォンのような機械で何かを確認する。


「本当のようですね。正式に司令書が届いてます」

「それじゃ考知郎君と仲良くしてね」


 その時のトラベラーは物凄い顔でアカシックを睨みつけるが、当人は痛くもかゆくもない様子で部屋から出ていく。


「……納得できないところは多々ありますが、任務である以上はあなたの冒険に協力いたします」


 すまんな、本当にすまん。


「そういえばアンタもアカシックからC.H.E.A.T能力もらってるのか?」

「いいえ。私には自分の世界で受けた訓練と、支給された装備があります。得体の知れない力に嬉々として手を出すほど愚かではありません」


 さようですか。


「あなたの能力についてはアカシックから説明されてます。ひとまず自分の宿を取りに行くので失礼します」

「ないぞ」

「え?」

「どこも満員で、この部屋以外だと野宿になる」

「……ッ!」


 トラベラーは断腸の思いといった様子で俺が取った部屋に留まる事にしたようだ。


「いいですか! 私には結婚を約束した人がいるんです。もし寝ている時に指一本でも触れたら、不死である事を後悔させますからね!」

「あっはい」


 そんなに敵意を剥き出さなくてもいいじゃないか。俺のせいじゃないんだしさ。ツンデレですらここまでどぎついツンは出さないぞ。

 俺はなんだか悲しくなってベッドに潜り込む。幸いにもベッドは余ってる。

 そして女の子と同じ部屋にいるせいか、緊張でなかなか寝付けなかった。

 俺にとって長い夜が明けた後、トラベラーの冒険者登録にためにヤルリンゴの冒険者ギルドを訪れた。


 そういえば、トラベラーはこの世界での読み書きはどうするんだろう。見たところ、俺が使ってるような翻訳の道具は持ってなさそうだが。

 だが俺の心配は無用だった。スラスラと書類に書いている。

 それから俺のときのように〈神の瞳〉でスキルの検査を行う。


「そんな、スキル無しなんて!」


 トラベラーもこの世界の人間じゃないから当然スキルはなく、職員はそれに驚く。


「ガーッハッッハー! スキル無しじゃすぐ死んじまうぞ。夜の相手をしてくれるなら仲間にして守ってやるぜ」

「アッテ・ウマーさん! セクハラですよ!」


 まるで定められた運命のように、品性欠落中年冒険者が現れた。

 これは、もしや……

 視界の隅で期待に満ち溢れた目をするアカシックの姿が見えるが、見なかったことにする。


「失礼、先を急いでいます」


 トラベラーはつかつかとアッテの横を通り過ぎようとする。


「遠慮すんなよ。なあにしっかり可愛がってぐわっー!」


 アッテがトラベラーに触れた直後、突然投げ飛ばされた。


「アッテがやられたぞ」

「スキル無しがどうやったんだ!?」

「投げた瞬間が見えなかったぞ! あの少女何者だ」


 トラベラーがアッテを投げた動きは素人じゃまず捉えれなかった。冒険者として成長した俺ですらようやく見えたくらいだ。

 なるほど、俺と同じかそれ以上に強いのは確かなようだ。これなら安心かも知れない。

 アカシックはこれで分かったでしょうと言った顔を浮かべて姿を消す。

 テンドンのような最弱イベントのあと、俺とトラベラーはいよいよ迷宮に挑戦する。


「言っておきますが、私はさっさとアカシックが満足する結果を出して帰還するつもりです」


 好きでもない男のヒロイン役をやらされてるトラベラーの声は氷のように冷たい。


「まず、1週間でここの迷宮を攻略します」

「大きく出たな」

「私の装備とあなたの能力を踏まえた結果です」


 トラベラーの手が一瞬光ったかと思うと弓が握られていた。


「マテリアさんと同じスキルでも持っているのか?」

「厳密には違います。これ以上は規則によりお話できません」


 まあこことは違う異世界の出身らしいし、そこで使われている技術なりスキルなりで、どこかに装備をしまっているのだろう。

 いろいろと聞きたいところだが、今は早く迷宮探索したい気持ちでいっぱいだ。


「最初はお互いの息を合わせるのを優先して、慣れてきたら本格的に攻略しましょう」

「分かった」


 俺たちは迷宮に足を踏み入れた。


●Tips

マテリア・マテル

 剣仁也と共に戦ったドワーフの青年。

 レアスキル〈空間拡張〉によって大量の物品を持ち歩ける。

 〈鑑定〉スキルを使わずとも鑑定ができるほどの知識を持ち、それが仁也の魔剣を作るのに役立った。


異世界の挨拶

 ネモッド以外の人種は初対面の相手に対する挨拶で独特のマナーがある

 エルフは出生地、ドワーフは誕生石、キャトは親の名前を自分の名前とともに伝える。

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