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魔法講座

「詠唱もなしにどうやったんだ?」

「魔方陣よ。ミズの座ってるところに小さく書いてるの見えるでしょ?」

 シンプルな六芒星があった。あれで魔法が発動できるのか……。

「ナシンさんは魔法をお使いになられたことないんですか?」

「あー、えっとね。ナシンは――」

 と言ってサキは俺の方を見た。隠してもどうしようもないことだろう。俺は頷いた。

「まだ使ったことないんだ」

「魔法には縁がなくてね」

「そうなんですか。そうですね、魔法嫌いな家系などもありますからねー」

「まぁ、俺自体は魔法嫌いではないんだけど……」

「そうなんですか!?」

 俺の右手をミズは両手で握り締めて、目を輝かせてこう言った。

「よかったら魔法、教えてあげたいです!!」

 彼女の熱意にくらりと来て、教えてもらうことになった。

 どうやら彼女はとても魔法が好きなようだ。きっと好きなものをわかってほしい、ということなのだろう。魔法には興味があったから良いことではあったけれども。


 俺は三十分魔法を教えられた。最初十分間ほどに魔法に関する基礎的なことや詠唱文だった。

 基本の魔法は簡単らしい。

「魔法は理論的なものです。詠唱や魔方陣というのは、自分の魔力を魔法に変換するためのものなんです。そして、魔法は四つの属性があります」

 とミズは言った。

「魔法は絵の具と同じなんです。風、火、水、地の四つの属性があるんですが、この四つを合わせることで、いろいろな魔法ができるんです。絵の具って色を合わせて、違う色を作りますよね。それと同じです。色がたくさんの種類があるように、その薄さ濃さでもまた違いが出るように、魔法も人によって違うんです。私、魔法のそういうとこが好きなんですよ」

 そう言った彼女は微笑んでいた。そして簡単な魔法の詠唱文を教わった。

「余談ですが、大魔法をする場合には詠唱と魔方陣を書くのを同時に行った方がいいですね」

 ふむふむ、と俺とサキは頷いた。

「ではナシンさん、魔法をやってみてください!」

 と言われたので先ほど教えられた初級魔法の詠唱をしてみた。けれど、二十分ほど試行錯誤を繰り返したのだが全くうまくいかなかった。

「うーん、魔法が小さすぎるとかじゃなくてそもそも発動してなさそうだね」

 とサキが言った。

 詠唱文が間違えているわけでもない。

「属性に得手不得手はありますが、発動できないってことはないですし……」

 最初は火の魔法を試していたのだが、だめだったので次は風にしてみた。けれどそれでもだめだった。結局、水、地も試してたがどれもだめだった。

「なんでだろ……。ナシンには全く素質がないのかな?」

 サキの言葉に少し傷ついた。

「そんなことはありません! 魔法は誰でも使えるはずなんです!

「うーんでも、これだけやってもだめだからなぁ……」

 そして、三人で悩んでいた。魔法が使えない理由……。

「あ」

 最初に声を出したのはサキだった。

「もしかして、もうナシンの魔力は私のように枯れちゃっているのかも……?」

「そうなんですか?」

「いや……」

 聞かれても答えるのが難しかった。記憶がないからだ。

 記憶がないことをここで言うべきじゃないか、とサキに目配せをする。サキはちょっと躊躇ってから頷いた。

「実は、ナシンは昔のこと覚えてないんだ……」

 サキは俺と出会った経緯を話した。ミズはそれを真剣に聞いていた。

「大変でしたね……。早く記憶を取り戻せるといいですね。できたら私達と同じ国の人だといいです。そうであれば戦わなくていいですから」

 確かにそうだな、と思った。そう考えると、記憶を取り戻すということが少し怖くもなった。

「あまり、記憶喪失のことは言わない方がいいと思いますよ。スパイと思われる可能性もありますから」

 と言ってミズは微笑んだ。直球すぎて逆に疑われないかも知れませんけどね、と彼女は付け足した。

「やっぱり、魔弾隊に入っていて、魔力枯れちゃったのかな……?」

「あの、よかったら見ていいですか?」

 ミズは俺にそう聞いてきた。何を見るというのだ?

「魔力の流れを見ることができるんです。その人の魔力の量とか、体に流れてる魔力とかをです。ただ、長い時間触れてないとだめなんですけど……」

「へー! 珍しいね、そんなのできるって」

 とサキは言った。

 それにしても、魔力を見る、ということが失礼に当たるのだろうか。ミズの言い方からはそんな感じが見受けられたが、わからないものだ。魔力ぐらい見てもいいだろうとは思うのだけれど。

「ああ、別に構わないよ」

「わかりました。じゃ、やりますね」

 ミズは俺の手を握りしめた。ちょうど握手するような感じだ。それから目をつぶった。

 三十秒ほどそうしていただろうか。彼女はやっと目を開けた。その三十秒はとても長く感じられた。手を握られたことで緊張もしてしまった。

「魔力はあります。確実に」

 ミズは俺の目を見ながら、力強く言った。

「じゃ、なんでだめなんだ?」

「他のことに使われているようなんです。それで魔法にまで回せる魔力がないのです」

「他のこと? ミズはそれわかる?」

「いえ、そこまではわからないのですが……」

 ミズは続ける。

「けれど、魔法に回せないほどの魔力を使っているのです。ナシンさんは何か、強い力を持っているはずです」

 強い力――。そうなのだろうか。俺に何か特別な力があるというのか。

「あの時――あたしを助けてくれたあの時のじゃない?」

 サキが炎の槍に囲まれたあの時。俺は何かをしたのだろうか。ただ、助けたいと思っていただけだ。

「あの時は無我夢中だったから、何も覚えていない……」

「ナシンさんは何をなさったのですか?」

 俺があの時に起こったことをミズに説明した。突然魔法が消えたことだ。

「相殺したのではなく、消したんですか……」

「消したかはわからないけどな。魔法使いが死んで魔法が解除されただけかも知れないし」

「魔法が解除というのはあるかも知れませんね。でも、ナシンさんが魔法を消したのであればすごいことです!」

「すごいのか?」

「ええ、他の魔法で相殺ならばできるでしょうが、無の状態から消せるなんて聞いたことはありません」

「もしかしたら、ナシンにはすごい力があるのかもね!」

 実感は湧かなかった。その力を使ったという確かな証拠がなかったからだ。わからない。俺は何か特別な力があるのだろうか――?

 それから俺達は二時間ほど雑談をした。ミズは自分の故郷の話をした。故郷は首都レーメだと言う。

「もちろん、レーメには大統領がいますよ」。

 メイディは共和国なので大統領が国のトップなのだ。共和国というシステムはよくわからなかった。

俺が住んでいたところはメイディではなさそうだな、と思った。

「一番魔法が栄えてますねー。魔法で動いている物も多いです。あ、でも最近は魔法に関してはヴェーネに負けているかも知れませんけれど」

「ヴェーネって?」

 と俺は聞いた。

「水の都、ヴェーネです。海に浮かぶ街、と言ってもいいかも知れませんね。口で言っても魅力は伝わらないでしょうから、是非とも言ってみてください。私はあの街が一番好きです」

 海に浮かぶ街。そんな街があるのだろうか。すごく興味が湧いた。あとで、サキに行こうと話すか。

 ミズの故郷の話が終わると、サキが故郷の話をした。そして魔法の話や戦争の話。それで二時間はあっというまにすぎてしまった。

「そろそろあたし達行くね。サルヴォナに着く前に森の中で夜になっちゃうと怖いから」

「そうですかー……」

 ミズは残念そうに俯いた。

 外はまだ大雨だった。しかし、夜になっては森の中は迷うし、オオカミや熊などに出会ってしまうと恐ろしい。もう出発するしかないようだった。

「あ、ちょっとだけ待ってください」

 ミズは立ち上がり、目を瞑り詠唱をしだした。それは、長い詠唱だった。三分以上も彼女は休まずに唱えている。

「雲よ。雨よ。この者達の道を開きたまえ」

 詠唱の最後にそう言ったのだけがわかった。

 外を見ると、雨が降っていた――いや、洞穴のすぐ近くには雨が降っていなかった。

「外に出てみてください」

 俺とサキは外に出てみる。俺達の周りにだけ光が射しているのだった。空を見上げると、黒い雨雲に小さな穴が開いていた。試しに動いてみると、その穴もそれにともなって俺達についてくるようだった。

「ナシンさん達の周りだけ雨が降らないようにしました。天候すべてを変えるのは無理ですが、これくらいならできます。それとサルヴォナまでその魔法が持つようにしておきました。では、お気をつけて。きっとまた会いましょう」

「ミズ! ほんとにありがとう!!」

「ミズさん、魔法について教えてくれてありがとう! またどこかで!」

 はみかみながらミズは微笑んだ。そして俺達は彼女に向かって手を振る。彼女も俺達に向かって手を振ってくれた。

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