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オオカミによる冷酷なる包囲

「魔法使いってことはメイディ軍の所属ですか?」

 とサキは尋ねた。

「ええと」

 ミズは少し悩んでいる様子を見せた。

「軍に入ってはいませんが、私は人助けをしてます」

「何故軍に入らないのですか?」

 ふと疑問に思い、俺は聞いてみた。

「この国は元から魔法使いが多いですからね。私程度の魔法使いなんてありふれています。それに、私は例え戦争という大義を与えられていても、人を殺すのは嫌なんですよ」

 確かに、そう言う理由で戦争に行かない人はいるだろう。その考えはわかるし、否定するつもりはない。物事において向き不向き、というのは存在するのだ。

「私は恵まれているのかも知れませんね。あちらの国の人が殺してやりたいほど憎くはないのですから」

 と自嘲気味に彼女は言った。

「仕方のないことだと思う。殺したくないって気持ち、わかるから」

 サキはレイピアを抜き、刀身をじっと眺めている。サキは言葉を発することはしなかったが、言おうとしたことはなんとなくわかった。

 サキはきっとこう思っているのだ。「けれど、あたしは何人も殺してしまった」と。「もう後戻りはできない」と。

「ところで人助けって何をしてるの?」

 レイピアを鞘に戻し、刀身を眺めていた時の陰鬱そうな表情から一変して、サキは明るい声色でそう聞いた。

「そうですね……私は敵を殺すための戦いじゃなくて、人を守るための戦いをしてるんです」

「守りの戦い?」

 俺はミズに聞き返す。

「はい。敵襲があったら、人々を敵から守る戦いです。敵を殺さない程度に攻撃はしますが、軍ではっきっと魔法を加減することなんて許されないでしょうからね。だから、軍には入らない方が私には性にあっているのです」

「そういうのいい、と思う」

 サキは微笑みながら言った。

「ありがとうございます」

 ミズはサキに微笑み返した。

「ぐるるる……」

 それは唸り声だった。洞穴の外を見ると、そこにはオオカミがいた。一頭ではない。十頭以上ものオオカミが洞穴を囲んでいた。距離は十メートルもない。オオカミは群れで狩りをする。今まさに俺達は標的にされてしまったようだ。

 強い雨のせいで気付けなかったようだ。それでここまで接近を許してしまったのだ。

「やばッ!」

 サキはすぐに立ちあがり、レイピアを構える。俺も彼女が立ち上がると同時に立ちあがり、斧を鞄の中から出す。

「どうだ? いけると思うか?」

 と俺はサキに聞く。

 オオカミ達は洞穴の周りをうろうろと歩き回っている。攻撃するタイミングを伺っているのだ。数えてみたら十三頭もいた。

 みな、とても大きなオオカミだった。まともにやりあったら勝ち目はないだろう。それが何頭もいるのだった。

「どうだろう……。一斉に襲われたら逃げられないし、対処しきれない……。まずいね」

 サキは焦っているようだ。俺も彼女と同様に冷や汗が出た。

 ミズの方を見ると、彼女は毅然として座っていた。

「ミズ!!」

 と俺は叫んだが、彼女は動かなかった。

「オオカミは臆病だから群れで行動するんです」

 彼女は落ち着き払った声でそう言った。

「それがなんだって――」

「私にお任せください。なんせ、雨ですから」

 彼女は俺達に向かって微笑んだ。けれど、彼女は詠唱すら始めていない。

「ぐるるる、ぐわぅ!」

 それに反応して、俺は洞穴の外に視線を向ける。今、オオカミの一頭が飛んだところだった。。それに続いて、他のオオカミ達も大地を蹴る。

「突き上げる水の怒り」

 と呟く声が聞こえたと思ったら、十三頭のオオカミの下から突如出現する水の柱。その柱はオオカミ達を何メートルも上に運びあげる。

 そして、一瞬にしてその水の柱は形を崩す。オオカミ達は身動きが取れないままに地面に叩きつけられた。

 きゃんきゃんと鳴きながら、オオカミ達は森の方に帰っていった。

「言ったでしょう? 本来、オオカミは臆病なんですよ」

 ミズは座ったままだった。彼女の近くの地面を見ると、小さな六芒星が書かれていた。

「こんな強い雨です。オオカミなんか恐れるに足りません」

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