サルヴォナへの道
「じゃ、道なりを確認するね」
俺達はもう旅のしたくを済ませていた。家を出る前、最後に道なりを確認するだけとなっていた。
「ここから――つまりはこのノスティラ村からサルヴォナ、ラティ、そしてネポルに行くの。ネポルが預言者ビュワのいる街ね」
「ああ、わかった。でもほんとに村から出ていいのか?」
「ん、なんで?」
「また敵が攻めてくるかも知れないじゃないか」
「うーん、当分はないと思うし、それに今回の襲撃でこの村の正規軍の配置人数増えるんだ。多分大丈夫」
ならいいか、と思って頷いた。
「じゃ、いこっか−!」
そして家を出た。
「いってきます」
扉を閉めた後、ぽつりとサキは呟いた。俺もそれに習って、いってきますと言った。
歩きながら村を見てみる。井戸で水を汲むもの、農業をするもの、広場で遊ぶ子供達、家の中では二人でチェスをする老人の姿が見れた。
サキと俺はすれ違うたびに挨拶をした。皆快く挨拶を返してくれた。
畑を見る。小麦はすべて無事だった。おそらく、敵軍があの戦いに勝利したならば、ここにある食糧を持っていくつもりだったからだろう。
村のはしには小さな墓地があった。墓に向かって手を合わせている人も何人かいた。あの戦いで少ないながらも死者は出てしまった。
墓地の方を見る俺に気づいたのか、サキも視線をそちらに向ける。
「仕方のないこと、なのかも知れないな」
「そうなんだけどね。わかっているけど、やるせない」
とサキは言った。
村を出てすぐに森の中に入った。
「次の街、サルヴォナは結構遠いんだ。まー半日もすれば絶対につくだろうけど」
半日か、確かに遠いなと思った。
この森は暗くもなく、危険はなさそうだ。先ほど、シカに遭遇したぐらいだ。シカも俺達を見ると、さっと姿をくらましてしまった。
「ここは安全そうだな」
「うーん、オオカミとクマ出る時あるけどね。でもごく稀。普通はここまで来ないから」
出会ったら嫌だな、と思いながら俺達は歩き続ける。
三時間ぐらい歩いただろうか。その間、危険な動物、そして人にさえも会わなかったが、その代わりなのだろうか、大雨を降らす雨雲と出会ってしまった。
小雨程度だったと思っていたのが大粒の雨に変貌し、俺達は走ることを余儀なくされた。
「あ、見て!」
サキが指さした方向を見ると、そこには洞穴があった。小さな洞穴。
「あそこでちょっと雨宿りしていこう!」
洞穴の中に入ると、すぐに俺達は腰をおろした。
「あー疲れた。ひどい雨だねー」
「ついてないな。この雲模様だと、きっと数時間はこんな雨だな」
「えー……」
とサキは不満げな声を漏らした。
洞穴の奥を見ると、人影があった。暗くてよく見えない。
「あ、すみません。ここに入ってよかったですか?」
俺は人影に向かって尋ねた。
「どうぞ。こんな雨ですからね」
女性のようだった。
「そちらに行っても構いませんか?」
と彼女は言った。
「もちろんです!」
サキは笑みを浮かべながら、力強く頷いた。
人影が近づいてくる。ある地点からそれは人影から人へと移り変わる。
彼女は黒いローブ着ていた。ローブの下から覗く顔には気品が漂っていた。水色の髪、そして青く澄んだ瞳をしていた。どこかのお嬢様、という印象を受けた。
「どちらに行かれるのですか?」
とローブの女性は尋ねた。
「はい、サルヴォナまで!」
「あ、先ほど私サルヴォナから来たばかりです」
「ほんとですか!? 今どんな感じなんですかー?」
そうして二人はサルヴォナという街について少し語り合っていた。サキは、サルヴォナには昔はよく行っていたそうだが戦争が始まってから行かなくなり、今どんな様子なのか気になるようだった。話を聞いてみると、なかなか良い街らしいことがわかった。
「あ、そういえば名前をお聞きしていませんでしたね」
「あたし、サキです! よろしく!」
サキはそう言って微笑みかける。
「俺はナシンと言います」
と俺も続ける。
「私はミズと申します。このローブを見てわかっているかも知れませんけれど、魔法使いをやってます」
ミズは上品な笑みを浮かべてそう言った。