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敵襲


「思い出した……! 『世界が破滅する』という言葉……。俺は――」

 自分の存在自体はわからないことだらけだけど。

「世界の破滅を止めなければいけない」

 自分の存在意義だけは思い出せた。

「自分の名前より先にも自分の使命を思い出すなんて、ほんとにその使命が大切なんだね」

 とサキは言った。

「よかったら、その爆弾のことを詳しく聞かせてくれないか?」

「いいよー。正確に言えば、爆弾じゃなくて魔法使いなんだけどね」

「魔法使い?」

「どの国も魔法使いはいるの。ま、この国が比率では一番多いかな。各国お抱えの有能な魔法使い」

「魔法使いは世界を滅ぼすほどの力があるのか!?」

「んー、最近見出されたって感じだね。さっき魔弾、つまり魔力砲のこと話したでしょ?」

 魔力を変換して魔法の弾にするという大砲のことだったか。

「ああ」

「国一番の魔法使いが、そのすべての魔力を注ぎ込んで一発の魔力弾にすれば――あるいは」

「でもそれをやったら魔力は枯渇してしまうんだろ?」

「うん、だから最終手段じゃないかな……。その最高峰の魔法使いの説得、あるいは強制させるかはわからないけど、どちらにしても難しいことだろうから」

「でも可能性はある、と?」

「うん。降伏させるために撃つかも知れない。でも、それで戦争が終結しなかった場合」

「その場合は?」

「報復が始まる。きっと撃たれた方が撃ち返す。そして世界は――」

「破滅する」

 と俺は言った。

「そう、だね。あ、お皿頂戴」

 サキは立ち上がり、自分の皿と俺の皿を台所に下げた。シンクに貯めた水で皿を洗う音が聞こえた。なんだかこれと似た光景を体験したことがあるような気がした。俺には家族がいたのだろうか。

「なぁ、戦争はどっちが優勢なんだ?」

 台所に立つサキに向かって話しかけてみる。

「んー、ここ数ヶ月はこっちが劣勢らしい。ただ政府はそんなこと言わないから、実際のとこはわからないけどね。一歩進んでは一歩後退してるって感じだね。そのたびに戦争の規模が大きくなってる」

「確か連合国がいるんだったか」

「この国、メイディ共和国は三つの国と連合を結んでいて、ソルデ王国は五つの国と連合を結んでいる。あっちは五つと連合しているけど、小さな国って感じでね。戦力はだいたい同じくらいかな」

 四年も戦争をやっていて、戦力は未だに均衡状態。時間が経てば経つほど物資はなくなっていくし、戦死者も増える。このタイミングで戦争終結のために、大きく手を打ってくる可能性はある……。ただ、それで戦争が終わらなかったら。終わらなかったら、戦争ではなく虐殺――いやそれ以上か。世界の破滅さえをも招いてしまうかも知れない。

「おーーーーい!! やつらが攻めてきたぞォーーー!!!!」

 家の外からの男の大声が聞こえてきた。その声で反射的に俺は立ち上がる。

「ナシン! 準備して!」

 サキは皿を洗うのをやめ、ダイニングに戻ってきた。

「準備?」

「うん、戦いの準備!」

 そう言って彼女は隣の部屋――彼女の部屋なのだろう――に急いで入っていった。

 俺はダイニングにある窓に近くに行って、その窓から外をよく見てみる。兵の姿は見えないが、逃げまどう人々、そして武器を持って走る人々が見えた。ここはどうやら村のようだった。規模はそれなりに大きいようだ。

 火の手は上がっていない。兵の姿も見えない。おそらく、物見やぐらから軍隊が来るのが見えたのだろう。

 隣の部屋からごそごそと物をあさる音が聞こえる。

「あった!!」

 振り返ると、サキは斧とレイピアを持ってダイニングの入り口に立っていた。

「はい、ナシンにはこれ」

 と言って俺に斧を手渡した。

「ああ」

 斧の重さは悪くない。重すぎず軽すぎず。なんとか戦えそうだ。

「そのレイピアはサキが使うのか?」

「うん。まずは外に出よう」

 サキは早足で家の外に出て行った。俺はそれを追いかける。

「サキも戦うのか!?」

「そうだよ。このレイピアでね」

 左を見ると金色の小麦が揺れる畑があった。そして、畑と道を区切るように膝の高さまで積み重ねられた四角い石。視線を先に移すと村の広場が見えた。逃げる人々はこっちに向かって走ってきている。俺達は逃げる人々をかき分けてるように走っていく。

「サキはその武器一つで戦うのか!?」

「そうだよ」

 あまりに無謀に思えた。力もそれほどないだろう。しかも鎧などもない。彼女の体は細く、折れてしまいそうなほど華奢だった。彼女は触れたら散ってしまう花びらのようだった。そんな彼女は前線で戦えるのだろうか……?

「ふふ、戦えないだろうって思ってんでしょ」

「……ああ、そう思う」

「確かに兵士相手じゃ厳しいけどね。でも戦える相手がいる」

「いるのか!?」

「魔法使い相手なら戦える。魔法に過信しきっている魔法使い相手なら。あたしは『針士』。魔法使いキラーなんだ」

 魔法使い相手にレイピア一本で太刀打ちできるのだろうか……?

「あ、クラークさん!」

 前から剣を持って走ってくる中年の男がいた。俺達と男は立ち止まった。

「おお、サキちゃんか。隣のは例の打ち上げられてたって男か」

「はい」

 と俺は肯定した。

「この子はナシン。記憶喪失なんだけど悪い人じゃないよ。それより今の状況は?」

「敵と交戦中。敵の数は百近くか。なんとか戦えてるって感じだ。魔法使いは五人。そいつらはいるのは前線ではなく、後ろから高見からの見物と言った感じだ。恐らく、そのうちの誰かがリーダーだろう」

「わかった。魔法使いがリーダーね。全員倒せば多分退却するな。あたし魔法使いを倒しにいく」

「サキちゃん、頼んだぞ」

「うん!」

 俺達と彼はそこで分かれた。

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