レオンVSエドガー
レオンがビュワから軍へ伝言を頼まれて、小一時間経った時だ。彼は軍の駐在所まであと十分も走ればつくという位置にいた。駐在所は街外れであり、ここにはほとんど人家なども見当たらない。
彼が一心不乱に駆けているところに現れたのは、黒髪の長髪、そして長身の男だった。腰には剣を携えている。
「おまえ、レオンだな?」
「ああ、そうだが」
レオンは足を止めた。彼は嫌な雰囲気を感じ取った。雰囲気というよりも、感覚的な予感だ。この男は邪悪だ――と思った。レオンは剣を持ってきていることを確かめる。
「いやぁ、実はおまえの足止めを頼まれててね。見たところ、軍に助けを求めているらしい。この街にいる程度の数なら問題はないんだが、それでも憂いは取り除いておきたい。ということで、今ここで殺す」
「足止めなのか殺すのか、まぁそれはどっちでもいい。お前達の目的はなんだ!」
「あーどうせお前は死ぬからな。教えといてやるよ。ビュワの奪取だよ」
ビュワ様に危険が迫っている――。ビュワ様はそれをわかっていたはずだ。きっと、ビュワ様ならそれを予知したはず――。
そうして彼は考え直す。予知したから故に、自分をここまで走らせたのではないか、と。軍に助けを求めるため? いや、それならば一緒にビュワ様を連れていくのが得策のはずだ。それに、危険が迫っていると隠す必要はない。
とにかく、ビュワ様に危険が迫っていることは確かだ。一刻も早く、この男を倒す。
レオンと対峙している男は、ビュワが予知した三人の魔法使いの一人、エドガーだった。レオンはそのことを知らない。
レオンは剣を抜いた。刃が太陽の光を受けて煌く。それに呼応して、長髪の男も剣を抜いた。お互いに間合いをはかっている。
「ほんとは一対一は苦手なんだがな……。ま、やるしかねーか」
最初に攻撃を仕掛けたのはエドガーだった。激しい斬撃をレオンに浴びせる。一撃、二撃、三撃。しかし、レオンはすべてそれを剣で受け止める。きぃん、と金属音が響いた。
攻守が入れ替わった。レオンは攻め入る機会を逃さず、エドガーに斬りかかっていった。エドガーはそれをなんとか受けるものの、ぎりぎりの防御だった。
――ちっ。本業のやつは違うな。
とエドガーは思った。
エドガーはついに防ぎ切れなくなり、剣をはじかれる。その衝撃で剣が彼の手を離れ、何回転かしたあとに地面に刺さった。
「終わりだ」
そう言って、レオンは剣を高く振り上げる。
――だが、こっちも終わったんだぜ。
とエドガーは心の中でつぶやく。
「焔蛇」
エドガーが呟いた。その間、レオンは剣を振り下ろそうとしていた。エドガーが呟いた瞬間、彼の飛ばされた剣から五本の細長い紐のような炎が噴き出した。炎は目にもとまらぬ速さで、レオンの向かってくる。途中でぐねりと曲線を描きながら。それは炎というよりも蛇だった。炎の蛇、と形容すべきだろう。
振り下ろそうという一瞬で、レオンはそれに気づいた。振り下ろそうとするのをやめて、彼は横に飛ぶ。炎の蛇は外れたかと思いきや、それはすぐに方向を変えてレオンに向かうのだった。
最早、彼に避けられる時間はなかった。炎の蛇は彼に向かって伸びる。
炎の蛇が彼の体を貫く刹那、彼は炎の蛇に向けて剣を振るった。その速さはかまいたちを起こすほどだった。ごう、と音を立て小さなたつまきができたかと思うと、炎の蛇はかき消されていた。
一瞬の判断ミスをしていれば、俺はもう死んでいたな、とレオンは思った。
「ちっ、奇襲失敗か」
エドガーがぼやく。既に彼は自分の剣を回収していた。
「もう、その手は通用しない」
レオンは毅然として言い放った。
「わかってるよ。ま、正々堂々いくしかねーようだな」
と言ってエドガーは笑う。いや、笑うというより嘲ると言ったような笑みだった。
「焔柱」
エドガーは剣を地面に突き刺す。そうするとすぐに、彼の周りに炎の柱が立ち上がる。それも何十本もだ。レオンの周囲にもそれは立ち上がった。それは囲むようにではなく、ただ無秩序に炎の柱はたち上がったのだった。
――こいつ、魔法と剣術両方使うのか。やっかいだな。
とレオンは思った。
「さぁ、第二ラウンドと行こうじゃないか」