再会
「おいおい、ほんとにいんのかよ。アップルちゃんはよぉ」
「きっと、姉さんはいるはずだ……」
「とは言ってもよ。こんな広い街で、しかも女の子がこんな夜に歩いているもんかね? シーナくん?」
「そう呼ぶのはやめろ」
シーナの隣を歩いているのは黒い長髪、長身の男だった。尖ったナイフのような鋭い目をしている。
二人が並んで歩くと、身長さが際立つ。シーナはまだ少年と言った感じで、背は高くはない。
「おお、怖いな。悪かったよ」
シーナは答えない。
「ったく、いつまで続けるんだか……」
「聞こえてるぞ、エドガー」
「へいへーい」
全く反省のない様子で、エドガーは応じた。
二人は暗い夜道を歩く。途中で風俗店や居酒屋にエドガーが入ろうとするのを、シーナは止めた。
「それにしても、明日の作戦大丈夫かね? シーナ殿?」
「二人だけだと厳しいものがあるな……」
「日程をずらすことはできるのか?」
「できないな。ソルデ王国から影縫いを送り込む都合もある。それに、日程をずらすのにも、連絡取ることはできない」
「そうだな、傍受されるだろうな。魔法を介しての連絡は無理、かと言って手紙では遅すぎるか」
「明日、やるしかないんだ」
エドガーは仕方ないな、と言う表情をして頷いた。
「でもさ、問題っつーかなんつーかだけどよ」
「なんだ?」
「相手は預言者様、だろ? 俺らの作戦、丸わかりなんじゃないか?」
「かも知れない……。しかし、それを考慮した上での作戦なんだろう。だから、俺達が遣わされたわけだ」
「そうだな……。いやぁ、楽しみだ。暴れていいんだろ? 戦いの時はよ」
「……ああ」
苦渋の表情をしながら、シーナは頷いた。シーナはエドガーの魔法を知っている。それが、同数の兵士や魔法使い達が戦う、まっとうな戦争であるなら、暴れてもいいなんて言えない。
しかし、今回の作戦の場合は違う。多勢に無勢、だ。エドガーの魔法は、そういう条件下で際立つものだからだ。
「あ」
突然、視界の端をよぎったのは女性の姿だった。エドガーが最初に気づき、それとほぼ同時にシーナも気づいた。
「姉さん!!」
それは、アップルだった。
すぐにシーナはアップルのもとへと駆け寄る。エドガーはそれを眺めながら、ゆっくりと歩いている。
「シーナ……」
アップルはシーナの姿を見た途端、安心したのか、意識をなくして体のバランスを失う。シーナは倒れかかった彼女を抱きかかえる。
「姉さん! 大丈夫!? 姉さん!!」
――体調不良なのか!? それとも、怪我でもしたのか!?
「姉さん!!」
「おいおい、寝息立てて寝てるだけだろ。心配しすぎだって」
そう言われてみると、確かにアップルはシーナの腕の中で寝息を立てていた。
「さ、宿に戻ろうぜ」
エドガーは振り返り、歩きだす。
「お、おいちょっと待て!」
「あー? どうせ、俺にアップルを触らせる気ないだろ?」
そう言われて、シーナは答えることができなかった。
「ま、おいてかねーよ。いくか」
シーナはアップルを抱え、とりあえず自分達の宿に戻ることにした。