夜のラティで
「あーどっかにいないものか……。絶好の勝負相手がさ」
ぶらぶらとライは街を歩いていた。魔力の高い魔法使いを探しながら。
彼の場合、魔力が視覚的に見える。言い換えれば、視界に入らなければ、その魔力の強さなどは知ることはできない。
だから、探し回るしかないのだった。
「ナシンってやつ、戦ったら面白そうではあるけど、魔法使いじゃないからなー。純粋に力量を比べられないんじゃだめだな」
その時だった。ぞくり、と背筋が震えるほどの魔力を持つ何かが歩いていたのだった。彼は今まで見た事のないほどの魔力。まるで、抑えきれない魔力が体の外まで吹き出しているかのようだった。
彼は、先ほどまで持っていた「魔法使いと勝負したい」という気持ちは吹っ飛んだ。ただただ、恐怖を感じるだけだった。
見た瞬間、彼には、まるで魔人が歩いているかのように見えた。
今はそうではない。そこにはゆっくりと夜の街を歩いていく、桃色の髪の女の姿が見えている。
その女は突然、歩いていく方向を変えてライの方に向かってきた。彼の恐怖感を煽るかのように、ゆっくりとこちらに歩いてくるのだった。
――あの魔力、殺される!
彼が逃げなければ、と思う前に、彼の体は動きだしていた。さっ、と走り出すライ。
――くそ、なんで逃げちまうんだよ、俺!
そんな悪態をつくものの、体は止まることがなく、夜の闇へと消えるのだった。
その後、彼は部屋に戻って、敵前逃亡した自分をひどく罵った。そこで立ち向かってこそだろうが、と自分を叱咤した。もっと、強くならなければいけない、そう誓うのだった。
女はというと、ライが立ち去ったのを見て、悲しい表情をして俯いた。
「ただ……この街でシーナを見ていないか、尋ねたかっただけなのに……。私、何か変なことしたのかな……」
と、寂しそうに呟いた。
「明日までに見つけなきゃ……。夜の街は怖いけど……きっと、シーナも私を探してくれてるはず……だから……」
女はくるっと振り返って、彼女もまた夜の闇へと消えたのだった。