五つの石
神は円卓の世界を五分割する位置に、石を五つ作り出しました。
「五つの石よ。草を繁栄させよ。地を木に覆わせよ。世界を緑の地にするのだ。そして、生き物を生み出せ。四足歩行の獣、魚、虫、人間を作り出せ」
五つの石は神の御言葉に従い、そのとおりにしました。ぱぁっと石が光を放つと、世界には植物が覆い、生き物に満ちていきました。
こうして、この円卓の世界は完成しました。それから五つの石は神の手により、封印が施されて深い地中に眠りました。
引用 神の書 第一章――『世界創造』 第三十三節から第三十四節
*
ラティにつき、アップルと別れた。四時間ほどの道のりだった。獣に襲われることもなくてよかった。
「ええと……この街で待ち合わせしているので……もう大丈夫です……たぶん」
「ほんとに大丈夫ー?」
とサキが聞いて、アップルはこくんと頷いた。
「ありがとうございました……。なんだか……また会える気がします……では……」
最後に彼女は微笑んだ。そして、別れ際、彼女は小走りをしていて何もないところで一度こけた。
ラティはサルヴォナに比べると都会ではないが、栄えていた。この街は武器や防具、魔法関連のものが充実していた。
国境に近い街だからなのだろう。戦いに備えているのだ。兵士、魔法使い、傭兵などもたくさん見かけた。雰囲気も若干ぴりぴりしていた。
志願兵の募集を呼び掛ける人も見かけた。
「ここ、なるべく早く出た方がいいね」
とサキは言った。
「なんでだ?」
「意外に治安悪かったりするんだよ。傭兵志望の柄の悪い人がいるから。早めに宿を探して、明日の朝早くに出発しよう」
わかった、と言って俺は頷いた。
「ところで、五つの石ってなんなんだ? アップルが話していたじゃないか」
「ああ……。この世界を創造した石――ちょっと違うか。神がこの世界を創造する際に、力の仲介をしたと言われている石」
「実在するのか?」
「うーん、どうなんだろう。でも、メイディが魔法発達している理由に、その五つの石の一つがあったからだって言われてる」
「ってことは、この国のどこかに眠っているってことか?」
「なんか、昔、発掘されたらしいんだけどね。ま、あくまで『それっぽい』ものがね」
と、サキは平然と言った。
「発掘!? もし、その石に力が眠っているとしたら――」
「んー、なんかだめだったらしいよ。魔力を引き出すことができなかったらしい。」
「魔力はあったのか?」
「わかんない。魔力は秘めていても引き出せなかっただけかも知れないし、そもそも魔力がなかったのかも」
「そうなのか……」
戦争とは無関係なのだろうか。いや、疑問がある。何故アップルは、そんな突飛な考えを持ちだしたのだろう?
「戦争に関わってくる可能性はあるんだろうか?」
「どうなんだろ……。前に、魔弾隊のこと話したじゃない?」
「ああ」
魔力砲と呼ばれる、人の魔力を弾薬とする砲台。魔法と違って、引き出せる量に制限がない。持ちえる魔力すべてをも消費することが可能な兵器。
「魔力砲……。その石に魔力があるとしたら、きっと膨大な魔力。その魔力を込められるとしたら……」
その続きは言わず、サキは首を振った。
「そんなことできるわけないわ。神の物に人が手出しなんてできない」
神の物……。しかし、手を出せるのだとしたら――。それは強大な力となるだろう。
「あ、日が暮れちゃう。さ、今日の宿を探そう!」
と言って、サキは微笑んだ。五つの石のことはおいてといて、俺達は宿を探すことにした。