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影縫いの功績

 影縫いと呼ばれた女はたった一人で何百という軍勢に挑んだのだ。それは一月前のことだった。

 一人の味方すらなく、己だけを信じて。四面楚歌。彼女は周りを何人で囲まれようと、顔色一つ変えない。優雅な笑みを浮かべるばかりだった。彼女の自信はどこから来るのか――その時、彼女を囲んでいたメイディの兵はわからなかった。

「降服しろ! もはや勝ち目はない!」

 彼女の周りを槍を持った兵士が囲む。その兵士の周りにもうじゃうじゃと兵士がいた。彼女は八方を塞がれていた。完全なる包囲。

 最初は彼女一人ではなかった。彼女は小隊として戦争に参加していたのだが、もはや彼女のいた小隊の全員が死んでいる。今、彼女の小隊の仲間達は彼女の足元で動くことなく横たわっている。

「抵抗しなければ殺しはしない。さぁ、すみやかに投降するんだ」

 そう言って、一人の兵士が影縫いに手を差し伸べる。彼女は近寄ってその手をつかんだ――と思われた瞬間だった。

 兵士は後ろを振り向きながら、持っていた槍で横に薙いだ。後ろに立っていた兵士の脇腹を切り裂く槍。

「え……」

 驚いている時間ないのだ。味方に向かって武器を振り上げようとするものはその者だけではなかったのだから。

 影縫いの近くにいたものが次々に自分の味方に襲いかかっているのだから。

「おい、やめろ!!」

 そんなことを言っても止まる様子の見せない者ども。次の瞬間には剣が頭に振り下ろされていた。

「お、おれはこんなことをしたくはないんだ!!」

 そう叫んでいるのは、味方に攻撃しようとする兵士だった。涙を流してそう叫んでも、彼が槍を同胞に向けて突き刺すことは止まらなかった。

 くく、と影縫いは笑う。彼女はピアノの鍵盤を叩くかのように、指を動かしている。彼女はレクイエムでも奏でているつもりなのだろうか?

「さて、そろそろ頃合か」

 と、影縫いは呟く。影縫いの周りでは、内部分裂をしたかのようにメイディの兵士達がお互いに戦っている。それはひどい有様だった。祖国の勝利を誓って、酒を酌み交わした者同士が殺し合っている。

生死を共にした者達が殺し合っている。

 そこに正義も、憎しみもない。あるのはただの混沌。殺し合いたくもないのに、殺さないと自分が殺されてしまう。

「貫け」

 そう影縫いが呟いたかと思うと、影縫いを中心にして黒い何かが何本も兵士達を駆け巡った。次の瞬間には何十人と倒れこむ兵士達。倒れた兵士すべてが、何かに貫かれたように風穴が空いていた。

 ここに来て、やっとこの事態を招いたのは自分達が囲んでいた黒い髪の女だったと気づく。しかし、気付くのがあまりにも遅すぎた。気づくのであれば、彼女を囲む前であるべきだったのだ。

 影縫いに向けて、詠唱を唱える魔法使い。けれども、影縫いがそんなに甘いわけがないのだ。詠唱を終え、彼女に向けて魔法を放とうとした瞬間。手は意志に反して自分の方に向いた。その行為に違和感を抱いたのだが、その違和感の正体に気づくにはあまりに遅すぎた。自らの魔法で、腹には大きな風穴が空いていたのだから。

「あーめんどくせ。仕上げ仕上げ」

 そう言って、彼女は屈んで地面に手をついた。その瞬間、彼女の視界に映る影という影から、黒い何かが突き出た。それは容赦なく、影の持ち主を突き刺した。

 もうこれだけで、軍隊は八割以上の戦力を失っていた。あとはただの残党狩りである。

 逃げ惑おうとする者を狩るだけだ。もちろん、逃げられるわけがない。逃げようと思っても体が動かないからだ。何かに縛られたように体が動かない。

 影縫いは動けない者をためらうことなく殺した。そうして、何百という骸の山を気付いたのだ。これが彼女の功績のすべてである。

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