表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/24

謁見の間

 ソルデ王国の首都には悠然とそびえたつ城がある。それは権力の証だ。王の力を見るには、その城を見ればいい。

 首都にそびえたつ城は、それ単体で町になりえるほどの大きさだった。ソルデ王国の王が棲むのだから、当然と言えば当然なのかも知れないが。

「確かおまえは――\\"影縫い"と言ったな」

 王座に座る王は厳かに言い放った。

「はい」

 そう答えるのは、王の前に跪く女。黒い服、そして腰まで伸びる黒いストレートの髪が印象的だった。

「おまえの活躍は耳にしている。おまえはつい一月ほど前に軍に入ったばかりだというのに、めざましい功績を残したと。一人でメイディの軍隊と渡り合ったそうだな?」

 実際のところは渡り合った、という程度ではない。あれは虐殺だった。彼女は恐れをなして逃げるものも容赦なく殺した。

 メイディ兵の数はというと、軽く百は超えていただろう。それを彼女は一人でいなした。彼女の力で。

「残念ながら首の数が多すぎて、すべてを国王陛下に持ち帰ることができなかったのが最大の悔みでございます」

 女は演技過剰気味に、唇をかみしめた。

「私は身分や軍の滞在期間など気にせぬ。必要なのは実力だけだ。そこで、おまえには大役を任せたい。現在、メイディの預言者"ビュワ"という女を奪取を試みている。魔法兵団の選りすぐりを少数送り込んだのだ。もし、その奪取が成功した場合、奪取した者達はメイディの兵に追われることになるだろう。おまえはそれの手助けをして貰いたいのだ」

「ありがたきお言葉。国王陛下のお役に立てるのであれば、わたくしめは至上の幸福でございます」

 彼女は跪いたまま、恭しく頭を深く下げた。

「下がってよい。詳細は追って知らせる」

 彼女は立ち上がり、踵を返した。かつかつと靴の音を響かせながら、彼女は部屋から出て行った。

 謁見の間には彼女のことを快く思っていない者も多かった。嫉妬だけではない。突然この国に現れ、たった一月でめざましい活躍をしてのし上がる。なんとも、いかがわしいものだった。

 しかし、諫言するものはいなかった。いや、できなかった。

 彼女が跪いている間、王以外は誰も動けなくなっていた。身体を何か紐のようなもので絞めつけられているようだった。口を動かすこともできない。息をすることはできた。

 恐怖でそうなったのではない。まさしく、あれは魔法などの類だった。しかし、その場に魔法使いがいたがその力に逆らうことは全くできなかった。解呪の魔法を試みたが、その力が緩むことはなかった。

 その場にいる王以外の全員が、彼女の力を認めざるを得なかったのだ。魔法の類のものではあるが、魔法ではない何かの力。王以外の全員がその力の前に屈した。

 一人で何百人と渡り合う力が偽りでないものを確信したと同時に、彼らは恐怖した。彼女の気まぐれ次第では、彼ら全員が死んでいたかも知れないということを理解したからだ。

 何の力だったのだ。彼らは皆見当さえつかなかった。詠唱をした様子もない。ただ彼女は跪いただけだと言うのに。

 しかし、王だけは気付いていた。彼女の影が薄く伸び、この部屋全体を覆っていたことに。

 王は彼女が去った後、薄い笑みを浮かべた。部屋の誰もが、恐怖に怯えていたというのに彼は笑っていたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ