出会い
サルヴォナ観光をひとしきり楽しみ、お昼がちょっと過ぎる頃には、もう街を出ようと次の街であるラティの方向に歩きだしていた。
一番近いルートだと言うので裏通りを通った。この街の裏通りは入り組んでいる。そして、建物などの関係で道が若干薄暗い。なんだかよくわからない店や生活が貧しいだろう人の家などがあった。どこもかしこも賑わっているわけではないからね、とサキは言った。
そして、案の定迷った時のことだった。その時のことだった。3、4人の若い男とそいつらにからまれている女の子がいた。
「なぁ、ねーちゃん、俺らと遊ばない? いいだろ?」
女の子は、なんだかぼぉっとしているような感じだった。そういうのに狙われやすいタイプ、なのだろう。
「はぁ……」
と言って、彼女は首を傾げた。この状況を理解してできていないのかも知れない。あるいは、理解するまでにまだ時間がかかっているか、だ。
「ね、助けようよ」
「ああ」
俺はサキの言葉に頷いた。
「おい、あんた達! 嫌がってんだからそういうことやめなさいよ!」
「あー? 嫌がってはいなさそうだけどな。なぁ、ねーちゃん?」
「はぁ……」
女の子はさっきとは違う方向に首を傾げた。
「と、とにかく、やめなさい! ねぇ、貴女は迷惑しているんでしょ!?」
皆の注目を集めていても、彼女は全く動じていないようだった。違って言えよ、と言いたげな男達のことも全く気にかけていない。数秒を考えた後、彼女はこくんと頷いた。
男達の一人が舌打ちをした。
「ま、黙らせてやるよ。お前ら二人に何ができ――」
言い終える前に、サキは距離を詰めていた。いつのまにかにレイピアを抜いていた。リーダー格だろう男の首元にはレイピアがつきたてられていた。
悲しいことに俺の出番はなかった。
「これでも?」
「わ、悪かった」
男は両手を挙げている。どうやら観念したようだ。他の男達に牽制するため、俺も剣を抜いている。
「今度会ったら見てろよ!」
そんな台詞を残して男達は去っていった。
「会ったら、ねぇ。私達もうここから出るんだけどね」
と言ってサキは笑った。
「大丈夫だったか?」
俺は女の子に声をかけた。
「はい。ありがとうございます。もう少しで……」
と言いかけて、結局言わなかった。そして、数秒遅れて彼女はおじぎをした。なんだか、ゆっくりしている子だな、と思った。
「気にしないで。あたし達は当然のことをしたまでだから」
サキは微笑んだ。女の子もそれを見て微笑み返した。
「女の子一人でこういうとこは危ないよ。次は気をつけるんだよ」
「あ……。はい。でも、はぐれちゃって……」
「一緒に探してやろうか?」
「いえ……。この街ではぐれたようじゃないので……」
「どこではぐれたの?」
「ええと……わかんないです。私、なんかよくぼぉっとするらしいのと、方向音痴らしいんです」
確かに、彼女はぼぉっとしている……。
「ラティというところを目指していたのですけど、いつのまにか、はぐれてて……」
「ラティ? あたし達も今からそこ行くんだ。よかったら一緒にどう?」
「本当ですか? 多分私だけじゃたどり着けないかもなので、お願いします……」
そうして、彼女と俺達はラティまで行くことになった。
「あ、そういえば名前、聞いてなかったな」
「名前……ですか……。アップルと言います」
「アップルちゃんか。よろしくね!」
「よろしく」
「よろしくお願いします」
裏通りも数十分迷ったが、なんとか抜けられた。ラティまでの道なりは森なんかじゃなく、普通の道路なので安心した。
「あ、そういえば、誰と一緒にいたんだっけ?」
サキは彼女に訊いた。
「ええと……。弟なんです。弟の名前はシーナって言います」
と、アップルはゆっくりとした口調で言った。