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風と水の攻防

「貴方を通すわけには行きません。確か、ソルディ王国のシーナさん、ですよね?」

 とミズは言った。

「ああ、よく知っているな。ここでの戦いは見ていたのか?」

「いえ、今来たのでわかりません。ただ、貴方がここに来るという報告を受けて、組織から貴方を通さぬようにと指令が来ただけです」

「組織、ねぇ。軍じゃなくて?」

「ええと、そうなりますね」

 なんだかよくわからないと言った様子でシーナは頭を掻いた。

 ミズは周りを見回す。何人もの男達が傷を負って気絶しているのが見えた。

 ――お強いようですね。並の魔法使いではない、ようです。

 と彼女は考えた。

「戦いは避けられない、か。だが、女だろうが僕は手加減はしないぞ」

「はい、どうぞ。ではお手合せ、よろしくお願いします」

 と言ってミズはお辞儀をする。

「なんか調子が狂うな……」

 シーナは首をかしげてそう呟いた。

「じゃ、行くぞ! ――かまいたち」

 シーナが腕を振った。風の流れが生まれる。目に見えるほどの風の刃が発生し、ミズへと襲い掛かる。

 けれど、ミズは避ける様子はない。

「ヴェール」

 と彼女は呟いて素早く腕を薙いだ。彼女の前に水の膜が出来上がる。風の刃は水の膜に当たり、そして消えた。水の膜には傷すらつかなかった。

「なにっ!?」

 シーナは手加減をしていた。女だと思ってなめていたというのもあったし、殺したくないと言うのもあった。しかし、完全にかき消されるとは思っていなかった。

 ミズは円を描くように左腕を回し、水の膜を左手に集めた。それは一つの水の塊となる。右腕でその塊を掴み、腕を引いて伸ばす。水の塊は槍の形へと変貌する。そして、さらに腕を引き、さらに槍は細くなった。

 左手をぎゅっと握りしめると、上下に水が伸びる。――それは弓の形となった。右手には水の矢が。

 シーナは両手に風を集める。いつでも攻撃できるように備えているのだった。

 ミズは矢を引き絞る。ぎりりという音は聞こえないが、矢に力が加わっていることは容易にわかった。

「水神の矢」

 彼女は矢を放つ。矢を放つのと同時に周囲の空気が揺れるのがシーナにはわかった。シーナとの距離は20mほどあったが、一瞬で矢はその距離を詰めた。気づいた時には矢は目の前だった。

 ――やばいッ!

 矢は正確にシーナの胸を狙っていた。シーナはとっさに両手で胸の前に構える。


 どんっ!


 矢がシーナにぶつかると共にそんな轟音がした。矢と共にシーナが吹っ飛んでいく。矢が水しぶきを撒き散らしながらシーナをつらぬかんとばかりに進む。

 しかし、水の矢の進路は突如遥か上空にとそれる。すぐに推進力を失い、水となって降り注ぐ。

「っぶねーな」

 上から降り注ぐ水をかぶりながら、シーナは呟いた。

 シーナに矢は当たっていた。けれど、ぎりぎりのところで両手に集めた風を使って方向をそらしたのだった。

 ミズはというと、矢を放ってからずっと詠唱していた。

「やらせるかッ!」

 シーナは風の刃を飛ばす。しかし、ミズに届く寸前で彼女の詠唱は完成してしまった。

「水の世界」

 風の刃は彼女に届く寸前で、地面から伸びた水で防がれた。

「私の周囲1mに存在する水は私の"モノ"です」

 とミズは言った。

「槍の雨」

 そう言ってミズが地面に手を触れると、地面から槍の形をした水が空中に出てきた。その数二十本。

「行きなさいっ!」

 ミズがシーナの方に手を伸ばすと、水の槍はシーナに向かって飛んでいく。

 シーナはそれを見て、ひるまなかった。それどころか、槍に向かって突っ込んでいく。

「風流れ」

 腕を前に翳すと、槍はシーナを避けるかのように広がった。シーナは風の流れを変えて、槍の進行方向を変えたのだった。

 それから数秒の詠唱。

「ウィンドブレード」

 風でできた剣がシーナの右手から発生する。

 ミズとシーナとの距離は3mとなっていた。シーナは右手を振り上げて、ミズに駆け寄る。ミズは咄嗟に自分の1m前に水の壁を張った。壁にシーナの風の剣が当たり、止まった。壁の方が強かったようだ。

 しかし、シーナは魔法を解除することはなかった。ぐるりと剣を握る右手首を回転させた。

「風よ、巻き起これ!」

 剣先から風が巻き起こる。切り裂く力はないが、強い風だった。風は壁を貫通し、ミズを吹き飛ばす。

「きゃっ」

 ミズは尻もちをついた。そこにシーナはすかさず剣先を向ける。風の剣がミズの喉の近くに充てられている。

「チェックメイトだな。詠唱や魔方陣を書こうとしたら刺す」

 シーナはミズを見下ろしながらそう言った。詠唱もできず、魔方陣も書くことができない。ミズにとっては絶体絶命に思えた。

「抵抗しないなら見逃し――」

「忘れてませんか?」

「あ?」

「私の周囲1mの水は私のモノなんです」

 と言うと同時にシーナの足元から水の柱が斜めに突き上げられる。シーナは避けることもできずにそれを食らった。シーナは何mも転がることとなった。

 ミズはすぐに立ち上がり、

「水鏡」

 と呟いた。そして、右手の人指し指と左手の親指を、右手の親指と左手の人指し指を重ねて、手で箱を作った。その箱には水の膜が張っている。

 ミズは箱を目のところまで持ってきて、その箱からシーナの姿を見る。

「もう逃げられません」

 シーナはというと数秒前から詠唱をしている。

 ミズは指を離すと、地面に手を触れ、地面の中に存在する水を引き上げる。

 とても大きな水の柱が地面の中から出てきた。まるで丸太だ。

「死にはしませんけれど、きっと半日は動けないでしょうね。行きなさい!」

 ミズは水の柱をシーナに向かって飛ばす。

 シーナは詠唱は完了しており、ミズの攻撃に対して待機していた。

「こんなの方向変えちまえば終わりだろ」

 と言って、シーナは周囲の風の流れを操作する。風向きを変え、柱の進む方向を変えた。

 完全に逸れた――と思ったら、柱はシーナのいる方向に向きを変えた。

「なにッ!?」

 そうか、とシーナは思い出した。先ほどのミズの不可思議な行動を。あれはホーミングするための魔法なのだ。

「くそッ!」

 ホーミングされては風の流れなど全く意味がなかった。

 今度は当たる直前で方向を変えてみた。けれども、すぐにまた方向を変えて襲い掛かってくるのだった。

 確実に当たるまでのホーミングだ。避けるという選択肢はない。ぶつかるしかないのだ。

 ――あの女、強い!

 シーナはそう考えた。力量ではあの女の方が上だ、と。悔しいがここは逃げるしかない。

「ウィンドブレード」

 わずかな詠唱で風の剣を作り上げる。負担がかかるとか言っている場合ではないのだ。

 柱が迫ってくる。既に一メートルも距離はなかった。避けることなんてできない距離。

「うわぁああああぁぁぁぁ」

 シーナは右手首を回しながら、柱に向かって突きを繰り出す。

 水の柱と風の剣が触れた瞬間、強い衝撃が起こった。

 周りの木々の葉が揺れる。

「わっ」

 あまりに衝撃の強さにミズは目を瞑ってしまった。

 それから強い風が起こり、続けざまに水が飛んできた。

 シーナがいたかと思われた場所には、彼の姿はなかった。周りの木々はなぎ倒され、ひどい有様となっていた。

 ミズは、シーナがどうなったかわからなかった。わかったことは水の柱が何かとぶつかったということだけだ。

 ミズは周りを見回してみるが、やはりシーナの姿は見当たらなかった。食らっていればきっと気絶するだろう。だから、姿が見当たらないというのには逃げられたということだ。

「逃げられてしまいました、か」

 と彼女は呟いた。けれど、それと同時に安堵も感じていた。

 しかし、彼女にとっても僥倖だった。既に彼女は水を使い果たしてしまった。魔力はあるのだが、水が存在しない限り、彼女には勝ち目はないだろう。

 彼女は短期決戦型だ。雨の時以外では、消費がとても激しい魔法使い。

 あの水の柱は言わば見せかけだった。自分の力を大きく見せるための。

 本当はあれが最後の力だったのだ。あれを凌いで攻撃してくることがあれば、ミズは確実に負けてしまっていただろう。

「シーナさん、か。まだまだ上はいるんですね……」

 と呟いて空を見上げた。雨は降りそうにない澄み渡る空で、ミズは少しだけがっかりした。

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