シーナ
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これは、ナシンとサキ達がミズと出会ってから翌日の出来事である。
「僕はビュワという奴に会いたいだけだ。戦いをする気なんてない」
一人の少年が二十人の男達に囲まれている。二十人の男達は全員法衣を纏っている。どうやらメイディ共和国の魔法使いのようだった。
ここはメイディ共和国のラティという町の近くの森の中だった。ラティはソルデ王国とメイディ共和国の国境に一番近い町だ。
時刻は昼。森の中にも光が差し込んでいる。
「おまえはソルデ王国の者だろう!? わかっているぞ!」
少年は、ふぅと溜息をついて、やれやれと首を横に振った。
「そうさ。だからなんだ?」
ラティは国境に近い町とは言え、距離はかなりある。ソルデの者の侵入してくることは稀だ。メイディも警備を固めているからだ。
「これ以上踏み入ることは許されない! すみやかに投降するか――」
「ふん」
少年は力強く一歩踏み出した。
「投降する気なんてさらさらないね。てっとり早く済ませよう。僕だって急いでいるんだ」
「な、なんだと! なら、お前を殺すまでだ!!」
魔法使い達は少年に向けて手を構え、詠唱を始める。
「見せてやるよ。力量の違いってやつを」
と少年は言った。
「ほざけ!! よし、今――」
「Darkness」
少年が呟く。辺りが一瞬にして闇に包まれる。
「な、なんだ!」
すぐに少年は三歩先に移動した。
魔法使い達は少年のいた場所をめがけて魔法を飛ばすが、少年に当たるわけがなかった。
闇は消え去り周囲は元に戻る。その間、たったの一秒。
そして、少年は両手を左右に伸ばし呟く。
「かまいたち」
その言葉と共に巻き起こる一陣の風。その風は二十人の魔法使い達を切り裂いた。魔法使い達の胸に走る何本もの傷痕。そして、魔法使い達は吹き飛んでいった。周りの木に思いきりぶつかり、大半が気を失った。
「魔法は当たらなきゃ意味がない。当たり前のことだけどな」
少年はそう呟き、立ち去ろうとする。
「ま、待て! おまえ、何者だ!!」
比較的傷の浅い男が叫んだ。けれど、戦える気力は残っていないようだ。
少年は振り返り、立ち止まった。
「僕はソルデ魔法兵団第三隊所属――『シーナ』だ。僕はこの戦争でのし上がる。この名を覚えておくといい」
「だ、第三隊……」
ソルデ魔法兵団。ソルデ王国にある魔法使い達の軍隊だ。
男は知っていた。一つの隊には二十人ほどいて、第一隊から第三十隊まであり、数字が早いほど強い。
第三隊……。流石に強いな、と呟いて男は気を失った。
「早く姉様を探さなきゃ! ビュワを捕まえに行く前には合流しないと。ああ一体どこに行ってしまったんだ……。姉様は一人じゃ危なすぎる……!」
シーナは足早にその場を立ち去ろうとする。
「待ってください!」
「なんだ?」
シーナが振り向くと黒いローブの青い髪の女が走ってきている。ローブから覗く、彼女の青い瞳がシーナを捉えていた。そう、それはミズだった。