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王との契約と大義名分

「猟師より本部へ、3日後に狼が到着予定。通信終了」


 本部の通信官より通信が入ったことを知らされた。


 そろそろこちらに到着か。思っていたより遅かった。


 おかげで間に合うか分からなかった王都への伝令も間に合った。


 エルフ達に依頼した焼き上げた麦畑への仕掛けも隠蔽までしっかり終わっている。


 細工は流々、こちらの迎撃態勢は万全だ。




 赤ずきんを被ったカトリーナは、か弱いエルフを演じながらこちらに逃げてくる。ただのか弱いエルフが結界なんてものを使う事はないんだが、敵にはそれは分からないようだ。


 弓矢を受け流し、騎馬の突撃を躱し、ついにカトリーナは西門の側まで逃げ切った。


 そしてそのまま空堀の中へと飛び込んだ。


 カトリーナは空堀の底に用意していた隠し通路に身を隠したはずだ。追跡していた者達からしたら忽然と消えたように見えただろう。


 ここまでは完璧だ。


 後でカトリーナも褒めてあげないとな。


 予想通り、ドンレムの焼き払われた畑の近くで逃げ出したカトリーナを追いかける為に騎兵が飛び出し、歩兵はその後を駆け足で追っている。最後の戦略物資を運んでいる部隊はギュレル山の麓に置き去りになっている。


 縦に伸びた戦線、背後すら警戒していない状況、殴ってくださいと言わんばかりの陣形だ。


 本来の戦ならば崩れた側面を叩き、敵兵を分断しながら戦うのだろうが、そんな事はしない。


 さて、ここからが本番だ。


 ここにいる兵が生き残ればその足はいずれ王都に向く。


 そして王都で凄惨な略奪が行われ、フラン王国内の地方領主、大貴族がこぞって王座を狙い動き出す。


 ここでギュレル軍をくじけばその戦禍は始まる事すらないかもしれない。


 負けられない大一番だ。


 蟻一匹逃がさぬよう、気合を入れてギュレル軍を料理していこう。


 俺は通信室より西門への指示を飛ばし、門番は事前に俺が用意していた台本を大声で読み上げて対応する。


「その騎馬止まれ! ここはラヴル領、領都ドンレムである! 背後の騎馬は戦の為か?!宣戦布告のない侵略はフラン王に背く背信行為だ! 即刻立ち去るがよい!」


 カトリーナを逃がしてしまった騎兵隊は伝令代わりだと言わんばかりに名乗りを上げた。


「我ら、ノエ・ド・ギュレルの騎兵なり! 我らの民が拉致されているこの都市を開門せよ!」


 どこかで聞いたことのある声色と思いながら西門でのやりとりを通信室から西門へと指示を出していく。


「事実無根の要求は受け入れられない! 貴殿らの行動はフラン王へとすでに報告を走らせた! 追って下る王命を待つがよい!」


 門番は俺の指示で台本を読み進めていく。


 それにしても、我らの民が拉致されている! なんて敵軍はまた無茶苦茶な事を言っている。これじゃまるで前回攻めてきたジャド達と同じ大義名分じゃないか。そんな理由でこんな大量の兵士を連れまわしてますなんて馬鹿も休み休み言って欲しいものだ。


「我らは王命によりラヴル領の調査に来たのだ。即刻門を開けるがよい」


 敵の伝令は王の名を出してきた。門番からの報告ではスクロールのような物を掲げているという。そんなものでゆさぶられる俺ではない。伝言ゲームはまだ続く。


「そのような王命は存在しない。なぜなら王都よりラヴル領の調査に外交官を迎えている! なぜそのような嘘をついてまで出兵したのだ! フラン王に対する完全な背信行為だぞ!」


 西門の門番も驚いていたが、門番のセリフ通り、王都より来た外交官も念のため通信管理室に来て貰っている。


 今は俺の隣で頭を抱えて首を横に振っている。


「ということですけど」


 俺は同じ通信を聞いていた外交官に感想を聞いてみた。


「我らが王はいくらご子息であられるノエ様にであってもそのような指示を出されるはずもありません。ましてや、ラヴル家の調査を王より直接命ぜられた私が派遣されたのに同じ内容をギュレル家に依頼するはずがありません」


「ですよねー」


 俺は外交官殿を労わるように苦笑いを返した。


「よろしければ、この通信機で現状を王都に報告していただけませんか?」


 俺は以前、王都にラヴル家再興の報告と叙勲式についてお願いをしに行った際に通信機を一台王にお渡ししていた。その通信機と対になっている物を外交官に手渡した。


 そこから、外交官は王都にいる別の文官に報告をして、王に報告を依頼した。これで、大義名分はこちらが手に入れたも同然だ。


 適当にギュレル軍を蹴散らして、ごくわずかのギュレル兵を敗走させれば後は王都でうまくやってくれるだろう。


 作戦上蟻は通さないといけなくなったか、残念。


 そして当事者であるラヴル家は伝令をすでに走らせており、その事はギュレルにも伝えたがギュレルが伝令を走らせた様子はない。


 大義名分も、戦後の言い訳も出来ない状況、ギュレルはすでに逃げ道のない袋小路にハマってしまっている。


 そして門番とギュレル軍の押し問答は徐々に戦の色を濃くしていった。


「門番よ! お主ごときではこの判断が出来ぬのであろう! 領主をここへ呼んで来い! 話にもならぬわ!」


「申し訳ないがそんな武装した集団の前に尊き我が主をお連れすることは出来ない。私と話が出来ぬのなら疾く去り、武装を解いて頭を垂れて挨拶に来るのだな!」


 お、おう、門番さんよ。俺ってそんなに尊くないから、弱小領主なんですから。


 そんなに煽らんでも……


 すでに台本はなく、門番さんはアドリブと勢いだけで熱くなっている。


「そんなことより、我が主の素晴らしい活躍を聞かせてやる! 覚悟しろ!」


 いやー、止めてー!


 覚悟出来てないから!


 そして門番さんの俺アゲはことごとく続き、次第にギュレル軍は布陣を整えていくのであった。

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