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数奇な出会い 

『斑鳩亭』俺が作った日本料理風の飲食店だ。


 一年以上も白米を食べているとどうしても皆に日本食の素晴らしさを知って欲しくて。


 作ってしまった飲食店だ。自重はしてないし反省もしていない。


 きっかけは醤油だった。


 前世の俺はインターネットをフル活用してゼロから作る醤油の作り方を実践したことがある。


 結果は惨敗。種麹を購入してようやく醤油を作ったのも今ではいい思い出だ。


 もしこの世界で、醤油、味噌、酒が作れれば、ここにしかない有用な調味料としてそして貿易の要となる事は間違いない。


 絶対売れる、絶対作るという強い思いを持ち、米の栽培をはじめた時から狙っていた。そして生まれた可能性をみつけてしまったのだ、それは稲麹(いねこうじ)


 稲麹(いねこうじ)とは稲穂が伸びて収穫時期に籾殻もみがらに出来る黒いカビ。稲作にとっては病害だが、これを種麹とすれば、醤油も清酒も味噌も出来るはずだ。


 まずは稲麹を使って米麹を作り出す。


 杵と臼で籾だけ取り除いた玄米を二日間浸水して炊き上げ、炊いた米を白い布巾の上に広げて冷ます。


 温度計もないが、それでもやるしかない。炊いた米を広げきった所で藁や木を燃やして作った草木灰(そうもくばい)をまんべんなく振りかける。俺も実際にここまで大掛かりにやったことなんてないから試行錯誤するつもりでいろんな割合を試していく。材料は売るほどあるんだ。ここで諦めたら他国の力をそぐことは叶わない。


 そう、これは経済戦争を仕掛けるための武器を作っているんだ。


 人肌くらいになったところで稲麹を入れて撹拌。麹がつけば発酵して温度があがるので、今度はあがり過ぎないように混ぜては布巾に包んで保温の工程を繰り返す。


 温度計があったならと何度も思いながらも撹拌すること4回、良い感じに麹が増えて玄米を包むようにびっしりと胞子が覆った。


 草木灰の割合と温度の兼ね合いで八つに分けて種麹をつくってみたが、八つ中三つが麹の香りがする物が出来上がり、あとの三つは麹が付かなかったり明らかに黒いカビがまばらについていたりと、半数以上が失敗した。


 出来たものを比べると、緑っぽい色の物、黄色実の強い黄緑色、緑色が薄い黄緑色と3種類の物が出来上がった。


 確か、同じ麹にも種類があって、お酒に向いている麹が緑っぽい色。黄色味が強いものが醤油や味噌に向いていると聞いたことがある。


 今回出来た麹菌を使って醤油や酒、味噌を作る。そして麹の種類や、麹自体を選別しながら製品化していこう。


 一度出来てしまえばこのの経験を生かして、ネズミ算式に作る人を増やして、より質の高い麹と製品を作っていった。何だか実験を繰り返しているみたいだったけど。


 そしてようやく醤油も酒も、前世の頃の物とまでは行かないもののそれなりの物が出来上がり、出荷できるとことまでこぎつけた。


 これと同時に作ったのがこのお店、『斑鳩亭』だ。


 俺の前世の時の記憶を総動員して和食を作った。


 葉物野菜のお浸し、根菜の煮物、味噌汁、焼き魚、白米の純和風メニューとキノコの和風パスタ、フレッシュチーズのピザ、具だくさん野菜スープとかなり偏ったファミレスのようなメニューが並ぶ。そこに定番の堅パンとクリームスープと干し肉の野菜炒めなどこの世界の馴染みの料理を混ぜこんだ。


 物が集まり、珍しい食材も手に入るこの町(ドンレム)はいつの間にか理想郷と呼ばれるようになっていた。


 因みに、この『斑鳩亭(いかるがてい)』はフランドールにも出店予定だ。


 そんな自慢話を頼んだ料理が届くまでにミシェルとホラント相手に熱く語る俺はどっからどう見ても16歳の成人したての若者には見えなかっただろう。


「いやぁ、何時聞いても信じられませんな。この透明な『清酒』が米と水から出来ているなど」


 ホラントはまだ日が高い内から清酒を煽って頬を赤く染めている。


「ジル坊ちゃんはまさしく神童と呼ぶにふさわしいお方なのですよ、ホラント」


 俺が熱く語っているのを聞いているふりをしてホラントとミシェルが話をしていた様だ。


「この『清酒』は無色透明なのに、香も味もまるで違ってくる。これをフランドールで売り出せばたちまち貴族は飛びつきますよ」


「なぁ、俺の説明聞いてたか?」


「「もちろんですとも」」


 俺が大人二人を詰めても仕方がない。俺は溜息を吐きながらも、テーブルに並ぶ料理にワクワクしながら箸を進めた。


 今日も「斑鳩亭」の料理は最高に美味い。それを証明するように店内は賑やかで、活気に満ちている。


「ホラントの兄貴!!」


 店のドアを蹴破るように入ってきた大男はホラントの名を叫びながら店内を見渡している。


 俺たちの座るテーブルを見つけた大男は此方にドシンドシンと歩いてくる。


「ディディエ! 周りに迷惑をかけるなといつも言っているだろう!」


 ホラントが強面の大男、ディディエを一喝する。こういう時は本当に頼もしく感じるんだが、いつもはふにゃふにゃしているオッサンなのはどうにかならないんだろうか。


「がはは、すまねぇ兄貴! ちょっと紹介してぇ奴がいてな。おぃ、寝坊助! こっちだ!」


 店の入口に向かって声を掛けるディディエ。そして入口に視線を向けるとどこかで見たことがある隻腕の男が立っていた。


「ジル坊ちゃん、あの男は……」


 どうやらミシェルはあの男の事を思い出したようだ。そして隻腕の男も俺たちを覚えていたのか口を大きく開けたまま入口で固まったままだ。


「寝坊助! さっさとこっちにこい!」


 ディディエはその大きな体に似合わず俊敏な動きで、隻腕の男の首根っこを掴みこっちに引っ張り連れてきた。


「お久しぶりですね。その腕の節はどうも」


 ミシェルが隻腕の男に腕の話を振る。思い出した。ドンレムに向かう途中に襲ってきた盗賊の一人だ。


 かなり線が細くなっている。ほとんど食事を取っていないのだろう。


 以前会ったときはギラギラした目をしていたが今はもう見る影もなく、ミシェルの言葉がなければ思い出せないまま見過ごしていただろう。


 突然の再会に隻腕の男はアワアワと口を動かすばかりで声は出てこない。


 三者三様な面持ちで不思議な食事会が始まった。

※稲麹の表記および説明がありますが、実際に稲麹から米麹を取り出すことは非常に難しいとされております。また麹はカビの一種です。自然界にあるもので安全性が確約されたものは存在しません。もし興味がわいて、醤油作ってみたいと思われた方は素直に販売されている米麹を購入してチャレンジしてみてください。(当たり前ですがこの物語は剣と魔法の世界のフィクションです。ご了承ください)

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