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発展

 俺がひたすら土いじりをしている間、一ヶ月前に指示していた事をしっかりとやってくれていたみたいだ。


 指示を出していた俺は誰とも喋らずひたすら土を耕していただけなのだから、情けないったらない。


 朝早く目が覚めたので、ドンレムの街の中はまだまだ静かだ。俺の住む屋敷を出ると左右に住宅街が広がる。まだそれなりに空地もあるが、かなりの数住居が立ち並ぶようになった。一年前はほんの数軒しか無かった家屋が集合住宅、アパート、一軒家と種類も数もかなり増えた。最近では家屋の1階部分を小さなお店にして商売を始める者も出始めている。


 そんな住宅街を横目に北門へと向かう。俺の屋敷と北門の間には研究施設と軍関連の施設がある。研究施設はともかく、蛮族対策の為に北に軍関連の施設を纏めたが、今となっては南側でも良かったかと思う。まぁ、これは結果論で、エルフといまだに争い続けているならこの布陣でないと持たないのだから仕方がない。


 研究施設の半分は食料倉庫のようなものだ。ハルにお願いして地下の方へかなり拡張したので見た目以上に貯蔵量がある。そして品種改良などの食物の研究と保存食や俺の記憶を頼りに作った機密扱いのものがここに保管されている。


 人に見られたくないものは全部地下だ。ハルの力が無かったらここまで大胆に行動できていなかったなとつくづく実感する。


 研究施設もまだ職員達が来る時間ではない。静かな空気が流れている。


 そしてだんだんと人の声が聞こえてくる。


 朝の教練だ。ミシェルが作るスパルタメニューは誰も起きていないこんな早朝から始まっているみたいだ。


 確かここは総合演習場だったか、ハルと一緒に作った記憶がある。起伏をつけたグラウンドのような地形が高さ八メートルの塀で囲われている。大体1キロ四方だったかな、入口は2か所しかなく、ドンレムの兵士達は地獄の釜とか呼んでいるらしいが……


 塀の向こう側からはミシェルの罵声と野太い男たちの叫びとも悲鳴とも判断付かない声が微かに聞こえてきた。


 俺はここに入るのを断念して北門へ向かう。


 北門にたどり着く前に後ろから声をかけられた。ハルだ。


 昨日の今日で中々に気まずい。


 こんな感じになるのを避けるために一人で屋敷を抜け出したのに、見つかってしまった。


「ジル、おはよう。朝の散歩?」


「おはよう、ハル。そうだね。最近ずっと畑に居たから、みんなの様子を見て回ろうかと思ってさ」


 ふーんと考え事をするように相槌を打つハル。俺は何も悪いことをして居ないはずなのになぜか申し訳ない気持ちになりながらハルが横に来るのを待つ。


「一緒に居てもいい?」


 なんだコレ? まるでシュミレーションゲームみたいなシュチュエーションに俺はビビってしまっている。


 動きやすいシンプルなワンピースが歩くたびにふわりと揺れる。肩までかかるオレンジ色の髪が朝日を浴びてキラキラと輝いてまぶしすぎる。


 魔法人形ゴーレムとは言えこんな美少女に誘われて断る訳にはいかない。


「もちろん」


 声が上擦りそうになるのを抑えてロレーヌの森に向けて歩きはじめる。


「ジル坊ちゃん」


 不意に声を掛けられ背筋に虫が這うようなイヤな感触が全身に広がる。このタイミングで悲鳴を我慢しただけでも褒めて欲しい。


「お、おぅ、ミシェル……どこから出てきたんだ?」


「こちらから坊ちゃんの気配がしましたので……」


 ナチュラルに怖いやつだ。怖くて恐いやつだ!


「ミシェルさんおはよう!」


 ハルは俺のように驚くわけでもなく自然体で挨拶している。俺もこれくらいハートが強くなりたいものだ。


 ちょっとした劣等感を感じながら、ロレーヌの森へと進んだ。


 そこではまだ朝日も顔を出し始めたばかりだというのに沢山の人間とエルフが働いていた。


「シルバーファーは枝を払って此方に! ウォルナットは向こうです!」


 北門を出たところにはすでに大量の木材が積み上げられそばに居るカトリーナが声を張り上げて指示を出している。


 いつも二言目には非礼をお詫びしてと言いながら自刃しようとする残念王女だと思っていたが、働く姿はなかなかどうして王族のそれだった。


「おはようカトリーナ! 今日も頑張ってるみたいだね」


「ジル様!! こちらに来られるのでしたらお迎えにあがりましたものを! 浅慮な私をどうか一刀の元に!」


 カトリーナは流れる様な所作でショートソードを引き抜き自らの首に当てた。


 こいつ構ってちゃんの究極体だな。


 おれはカトリーナからショートソードを取り上げると投げ捨てた。


「おぉおー」


 良く分からん叫びを上げたカトリーナは放っておこう。


 俺はショートソードを拾いに行ったカトリーナを無視して、近くにいたティアに声をかける。


「朝早くから精が出るな。ティア、元気か?」


「おぅ、ジル様。おはようございます。この通り元気です!」


 長さ20メートルはあるウォルナットの原木を一人で持ち上げ運んでいる事に気付き唖然としてしまった。ちょっとこの森に住むエルフは変わった奴が多いらしい。


「そ、そうか、怪我をしないように気をつけてな!」


 俺の言葉に頬を赤らめてコクリと頷くティア。え? えぇ?! そんな恥じらう乙女みたいな感じ止めとこ?!


「それじゃ、またな!」


 俺は逃げるように森の奥へと進む。


 森の中はエルフが巡回し神虫見つけ次第捕獲して回っている。ショートソードを拾い戻ってきたカトリーナからかなりの数の神虫が広範囲に発生していた事が報告された。


 それだけこの森がユグドラシルの神威に満ちているという事なのだが、本格的に神虫が増殖する前にこうやって捕獲する手を打ててよかったと思う。


 捕獲した神虫はエルフの集落で飼育しているという。神樹ユグドラシルから苗木を取り出し、人工的なユグドラシル畑を作って神虫を育て、神虫が作った繭玉から糸を作って布を作る。ロレーヌのエルフに伝わる伝統工芸、神絹。この神虫から作られた布はどんな攻撃をも跳ね返す不思議な力が宿るのだそうだ。


 それに副産物として凄まじいものが出来上がる。


 それは、霊薬エリクサー。ゲームの中にも登場したこのアイテムは戦闘不能になったものも戦線に復帰させることができる凄まじいアイテムだった。


 作り方は、繭玉を取り出した後の神虫とスライムの消化液と混ぜる。これでエーテルと呼ばれるエリクサーの素、錬金術の素材が出来上がる。このエーテルにユグドラシルの葉を加えたものがエリクサーとなるらしい。


 本来伝説級の消耗品らしいがたくさん出来る分には困らないだろう。ということでこの神絹作りとエリクサー製造はセットで運用していく。


 エリクサー以外にもエーテルの使い道はあるのでエーテルはエーテルの状態でも保管していく。


 ユグドラシルにとっては害虫でしかない神虫だが、エルフにとってはとても貴重な生き物だったのだ。道理で駆除が行われていないわけだ。


 エルフの集落で神虫の飼育場所とエリクサーの生成を見学した俺たちは、働いてくれているエルフたちに感謝を伝えて、朝食を振舞った。



 今回のメニューは川魚と白米のセット。ここに味噌汁があれば完璧だが、味噌が完成するには至っていない。麹が上手く作れていないのだ。


 それでもエルフたちは珍しい食べ物に驚きながらも一緒に食べてくれた。


「ジル様、とても美味しいです。天にも召される気分です!」


「カトリーナ様、逝ってはいけません!」


 カトリーナが口から魂を出そうとしているのをティアが物凄い剛腕で掴みかかり、カトリーナをこの場にとどめようとしている。


 出逢ったときは仲が悪いのかと思ったがカトリーナとティアは意外と良いコンビなのかもしれない。


 そこへドンレムの給仕がティアとカトリーナにお代わりを持ってきて二人とも嬉しそうに感謝を述べてお代わりを受け取っていた。その時も給仕の侍女を巻き込んでエルフの二人は楽しそうに話している。


 まだ人間とエルフには目には見えないわだかまりのようなものはあるだろうが、こうして共に働き、共に食べる事で少しでもそれが良いものへと変わっていけばいいなと思う。


 エルフと人間が同じ場所で朝ご飯を食べる。オルフェウス(ゲーム)の世界では見たことも聞いたこともないその光景を眺めながら俺はこの世界の常識を悉くぶち壊してやろうと心に決めて皆で作った白米をたらふく食べた。

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