厄介な蛮族の正体
「私はジル・ド・ラヴル! この地を豊かにする為私はここへ来た!」
熱風吹き荒れる中俺は叫び続ける。どうにか話を進めなければここで俺の命は終わる。
乾ききった空気が喉奥を灼き尽くそうと流れ込む。
俺は簡易防壁を大地から無数に発現させ、少しでも熱気を遮る。
灼熱の嵐が過ぎ去り、十分に時間をおく。ここからが交渉の本番だ。
ここからは騙し合い、気合を入れて防壁から身を乗り出した。
「私はジル・ド・ラヴル! 農耕神クロノスの眷、!」
名乗りを上げながら簡易防壁を背に進んでいく。
そしてそれを狙いしましたかのように氷塊が俺の身体を撃ち抜いた。
俺の身体は全身凍り付き砕け散った。
そして氷塊を囲むように簡易防壁がせりあがる。
「もう一度名乗ろう! 私はジル・ド・ラヴル! 農耕神クロノスの眷属である!」
防壁の内側から先ほどと同じように現れた俺を見た蛮族は恐らく躊躇ったのだろう。
先ほどのように間髪入れずに氷塊が俺の身体を砕くことは無かった。
「この地を豊かにする為、私はここへ来た!」
この言葉が良くなかったのか今度は炎弾が飛んできて俺の身体を焼き尽くす。
俺の体が完全に倒れる前にもう一度簡易防壁ががせりあがる。
「どうか私に話す機会を与えてもらえないだろうか?」
燃え尽きたはずの俺の体は傷一つない状態で防壁の陰から現れた。
「私はジル・ド・ラヴル! 農耕神クロノスの眷属である!」
もう一度名乗りを上げた所で蛮族が木陰から姿を現した。
短弓を構えたままの姿勢でゆっくりと近づいてくる蛮族。動きやすい軽装で腰上まで隠れる緑色のポンチョのようなローブを着こみ、フードで隠れているはずの視線は殺気と共に俺を射貫いているようだ。
三度現れた俺を見て、相手もようやく話に応じてくれるようだ。
「神の名を騙る不届き者め! 神代の王の名を騙るは重罪ぞ!」
武器を突きつけられたまま脅迫されている俺はこれが話し合いなのだろうかと一瞬思ってしまったが考えを改めた。
俺だって殺しても殺しても向かってくるような奴が神の眷属だと言っていたら悪魔の手先の間違いじゃないかと言い返したくなるだろう。
俺は両手を上げ敵意がないことを示し、どうにか殺されないようにと祈りながら言葉を探す。
いい案が無いかと思案している間に次々に蛮族は現れ、あっという間に蛮族に囲まれてしまった。
皆同じような服装で短弓や杖、短剣と各々が武装して俺一人を包囲している。
蛮族の中には明らかに体つきが女性らしい者もいて、フードから綺麗な金髪を覗かせているものも居た。
「信じてもらうためにも神より賜りし短剣を検めては貰えないだろうか?」
一か八か短剣を渡せば何とかなるかと思って声に出してみた。
「ティア! 止めなさい!」
杖を構えていた女が声を上げて制止するも、一番初めに姿を見せた短弓の女が俺に向けて弓矢を放った。
弓矢は俺の心臓に吸い込まれるように突き刺さる。
直前、ハルが弓矢を掴みへし折った。
「ちょっと調子に乗り過ぎ。エルフが神の使徒に弓を引くなんてまずいでしょ?」
いやいやいや。
ハルさん、ちょっとの間でいいから蛮族は蛮族って呼んでおこうよ。打ち合わせしたでしょ? それに今矢面に立ってるのって俺のダミーだからとりあえず大丈夫だったんじゃないの? 俺この後ここから出ていくのちょっと気まずいじゃん。
ハルの行動に対する疑問やら不安が俺の胸中に渦巻きながらとりあえず一番最初に隠れた簡易防壁から様子を伺う俺。
「貴方様は短剣の精霊様?!」
ティアと呼ばれた短弓の女が弓を地面に落とし、明らかに動揺して声を上擦らせ驚いている。
「ど、どうして精霊様が現世に居られるのですか?!」
今度はティアを止めようとした杖の女だ、ハルの事を精霊様と呼んで更には膝をついてかしこまっている。
「ジルに言われてたから我慢していたけど、神の使徒を害するなど重罪です。死を以て償いなさい」
アレ? なんだこの状況。
当初の作戦ではどうにかエルフと対話する所まで持ち込んで、弱り始めたユグドラシルを俺が治して仲間になってもらう作戦だった。それがハルの行動で一瞬にして崩れ去り、新たな可能性が目の前に転がっている。
もうこうなってしまええば、アドリブでハルの動きに合わせるしかない。
「ハルってエルフの方々と知り合いだったりするの?」
恐る恐るハルに聞いてみるとさっきまでの殺伐とした雰囲気から一転「てへっ」なんて副音声が聞こえてきそうな愛らしい仕草で誤魔化しにかかってきた。
「ジルが一生懸命考えた作戦だったから邪魔しないようにと思ってたんだけど……」
途中まで愛らしいままのハルが声色だけ切り替えて同一人物とは思えない底冷えするような声でティアと呼ばれたエルフに告げる。
「あのエルフがジルの邪魔をするからちょっとイラっとしてね」
はい、もうお腹いっぱいです。可愛らしい元気っ娘のハルしか見ていなかった俺はハルのダークサイドに触れて胃が痛いです。
気付けば俺を包囲していたエルフ全員が武器を捨て、跪いている。
あのー、やっぱりここから出ていかなきゃダメだよね。ダミーに話を続けさせるのも誠意に欠けると思った俺は意を決して簡易防壁から悠然と現れたように振舞いつつ、エルフ達の横をすり抜けてハルの横へ並んだ。
もう攻撃してこなさそうなのでネタバラしをしよう。俺は俺のダミーに触れてハルの魔法を解除する。ゴーレム《ダミー》は砂になりさらさらと崩れるように大地に戻っていった。
2度も死に至るような攻撃を食らった俺だが、俺自身には回復魔法も分身魔法も使えない。ハルのゴーレム作成魔法でダミーを作ってそれらの魔法が使えるかのように振舞うしかないのだ。俺は弱いただの人間なのだから。
「それじゃ、改めまして。農耕神クロノスの眷属、ジル・ド・ラヴルだ。エルフの皆さん以後お見知り置きを。」
ハルが持つ短剣を返してもらい腰に差した。うん。やっぱりこっちの方がしっくりくる。
「ジル様、まずは一族の非礼をお詫びいたします。我が名はカトリーヌ、一族の罪は族長の子である私が贖います!」
俺はカトリーヌの名乗りが始まったのを確認してすぐにカトリーヌの自刃を止められるように距離を詰めていた。
オルフェウス《ゲーム》のイベントで罪を贖うというものがあって今みたいに罪を犯したと自らで判断して、自ら命を断つなんて事がゲームの中では良く起きていた。せっかく強キャラであるエルフを引き込んでも勝手に自害されてしまうフラグが大量にバラまかれているので注意していたのが功を奏した。ゲームの知識がなければ貴重な戦力が失われていたところだ。
本当に厄介な一族だと確認が取れた所で、俺は溜息をついた。
「俺は君たちの行動を罪だと思っていないし、君たちがそう判断するのであれば俺はそれを許そう」
カトリーヌは自刃を止められたことにも、その後の言葉にも驚いたままフリーズしてしまったのだった。
おーい、カトリーヌさんやぁー。帰ってこーい。
今更だけど、これすっごくリアルなゲームの中に入り込んだ夢って事はないよな。
そんな希望を抱いてみたが、15年間どんな事をしても目覚める感覚の無かった事を思い出し俺は落ち込んだ。さらにエルフを仲間にしたときのイベントの一幕を実際に味わった俺はこれからこの一族に散々振り回される未来を思い描いて、もう一度深いため息を着いたのだった。




