16話『広域階層 3』
挟撃されれば、勝ち目はかなり薄くなる。
その前に動く必要があった。
ヤークトが魔物の接近を感じて吠えたと同時に、灰とリベレッサは前に飛び出した。
正面にいるのは、先程オークを倒して生き残った四体のゴブリン。
後ろから迫る敵より、目の前にいるを片付ける方が早く着く。
逃げるという選択肢もあるだろう。
だが、逃げれば追われる。逃げた先に他の魔物がいれば、それこそ挟み撃ちだ。
それと比べるなら、ここで討った方が良い。
「リベレッサ、二射だ。一射穿ち、二射目牽制!」
「了解」
言葉を短く紡ぎながらも指示をすると、リベレッサを走りながら二本の矢を掴みながら、一本目の矢を番える。
何度も一緒に戦い、連携を行ってきたからこその指示。
もしこの戦闘が初めての共闘だとすれば、灰の指示を聞いても理解できない。
矢筈を番えて引き絞ると、リベレッサは立ち止まった。
勢いを殺しきれず、身体が僅かに前に進む。
そのせいで身体が振動し、上手く狙いを定める事ができない。
しかし、リベレッサには経験則があった。身体が覚えていた。
この距離なら、これで当たると。
狙うゴブリンを正面に捉え、矢を放った。
続いて二射目を構える。二射目は素早さ重視だ。
灰に当たる事だけを避け、狙いを付けずに引き絞って適当に矢を放った。
リベレッサの一射目は、ゴブリンの胴体に突き刺さる。
その一撃でゴブリンはやられ、魔石に変わった。
一撃必殺。
それは残った三体のゴブリン達を警戒させるには十分であり、瞬く間に放たれた二射目に警戒して大きく避ける。
ゴブリンの意識は迫る矢にあり、灰の事を一瞬だけだが忘れていた。
そのせいで、すぐ傍にまで灰がいた事に気づかない。
薙ぐ。
灰による意識外からの一撃は、ゴブリンの命を切り捨てる。
残ったゴブリン二体が灰に気づいたのは、灰にやられたゴブリンが魔石になった後だ。
もう一体の仲間がやられた事で激情に駆られ、残ったゴブリン達がすぐ傍にいる灰に襲い掛かろうとする。
「スラ参、伸びろ!」
左手をだらり、と地面に力なく垂らす。左腕にあるのは盾であり、スラ参がいる。
丸みを帯びた身体が細長い糸のような形状に変わると、灰は鞭のように振り回す。
遠心力が込められた横薙ぎの一撃は、近づくゴブリン達
を追い払う。
吹き飛ばされたゴブリンは、身体の痛みに耐えながらも起き上がろうとすると、影に覆われた。
ドスッ!!
鋭利な何かが肉体に突き刺さったと同時に、その音が聞こえた時にはもう、ゴブリンという存在はなくなり、魔石に変わった。
「スラ参、鉄球!」
三体目を倒し、灰はすぐさま指示を出す。
右手の剣は逆手に変て、突き刺した。
このまま四体目もやれるが、予想外に遠くへ吹き飛んでしまった。
距離にして五歩ほど。
その五歩の間に、ゴブリンが起き上がってしまう。
なら、遠くから倒してしまえばいい。
灰にはその武器があった。
スラ参は肉体の形状をまた変える。鞭のように伸びていた肉体を、収縮させて先端を球体にする。
鉄球に棘はないが、その分スラ参が肉体を圧縮しているため、見た目よりも一撃が重い。
それを灰は振り上げたと思うと、一瞬にして振り下ろした。
スラ参も動きを補正し、四体目のゴブリンに直撃する。
ゴブリンの身体が地面に陥没するほどの一撃で、直撃した胴体が沈む。
そして気づけば魔石となり、オークとの戦いで生き残った四体のゴブリンは瞬く間に殲滅された。
時間にすれば、一分も満たないだろう。
リベレッサが手伝ったのは最初の援護だけ。残りは全て灰が壊滅させた。
灰はゴブリンと戦って魔石を回収している間、ヤークトとリベレッサは迫る魔物を警戒する。
ヤークトは唸り声を上げて警戒して、リベレッサも矢を番えていつでも放てるように準備していた。
最初は気づかなかったリベレッサだが、少しすれば魔物が近づいてくる気配を感じ取っていた。
数は多くない。しかし、速い。さらに索敵範囲もヤークトほどではないが広い。
これは、まさか……。
リベレッサの視線が僅かながら、正面から目線を離して隣で唸り声を上げているヤークトを見つめた。
その時だ。灰達が隠れていた人と同じくらい長い草むらが、動いたと思うと何かが飛び出す。
リベレッサは飛び出した魔物に、矢を放とうとするが遅い。
もし、視線を離してなければ射えただろうが、それは結果論に過ぎない。全ては戦闘中に目線を離していた、リベレッサが悪い。
飛び出した魔物を追うように、ヤークトの視線とリベレッサの矢は追従する。
魔物が地に着いた時、ようやくその正体をリベレッサは理解した。
やっぱり、と彼女は心の中で納得する。
草むらが出て来たのは、三体のハロンドであった。
ヤークトの進化前の魔物。それだけで、索敵範囲が広いのもリベレッサは納得していたが、一つだけ問題がある。
ハロンドの上に、別の魔物が乗っているのだ。
それは、ゴブリンであった。
騎兵のように、ゴブリンはハロンドの上に乗って巧みに動かしている。
ハロンドが自分勝手に動いている訳ではない。ゴブリンの指示で動いている、これが何よりも大事なのだ。
それは、ゴブリンに従っているという事。ゴブリンに手なずけられているという事。
今まではゴブリンと戦えばいい、そう思っていた。だが、機動力で勝るハロンドも一緒に戦うとなれば、少しばかり話が変わってくる。
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