9話『ゴブリン』掃討戦
初めての地下三階。そこまで行くのに一週間ほどかかったが、何というかかなり気が楽だ。
もう少し苦戦する、そう思っていた灰であったがヤークトの遊撃能力が高い。
一撃離脱のヒットアンドアウェイで翻弄し、狙おうとしても灰とスラ参がそれを許すわけがなく。
ゴブリンも初めて地下三階に行った冒険者なら苦戦するのかもしれないが、今の灰は敵なしである。
それもこれも、スラ参とヤークトが優秀なお蔭だ。
灰は調子に乗って、どんどん奥へ奥へと進んでいく。
ダンジョンには限界がないのか、行き止まりはあるがどこまでも進める。そのため戻る時は苦労するのだが、灰がマッピングしているため帰る時に迷うということはなかった。
そんな迷いやすいダンジョンのため、奥に行く冒険者は少ないのか魔物達も大勢いてある意味無法地帯になっている。
「うわー……」
ゴブリンの群れに、灰はもう言葉を無くす。
流石に見つかれば危ないので、灰達は息を潜めて隠れている。隣のヤークトはやっていい? やっていい? と目を輝かせて尻尾を大きく振り、お預け状態で指示待ちである。
数にしてざっと二十近くいるだろう。ゴブリンに敵なしのヤークトではあるが、流石にあの数を一人で任せるのは無理だ。させることはできない。
ここはいつも通り囮になって……だけど数が流石に多いな。どうやってあの数を倒すか、灰が考えているとヤークトが服の裾を咥えて引っ張る。
「ん? どうした?」
ヤークトの頭を撫でながら聞くと、真っすぐな強い目で何かを訴えてくる。
「いけるか?」
こくりと静かに頷く。ここでヤークトを信じなくては、テイムの意味がない。
「分かった。やるぞ」
灰が飛び出すと、一緒にヤークトも前に出た。
ゴブリン達も敵二人を認識し、慌ただしくなる。今まで敵が来なかった事で油断しており、先に仕掛けたのはヤークトだ。
前に出たヤークトが灰よりも前に出ると、大きく咆哮した。
その咆哮は空気が衝撃を生じるほどであり、聞けば相手を怯ませる。
これは、威嚇か?
ヤークトのスキル欄にあるスキル、威嚇はその名の通り咆哮することで相手をビビらせる。自分よりも弱い相手にしか効かないという欠点があるが、複数の相手にも有効だ。
ゴブリン達がヤークトの威嚇で怯んでいる間に、灰は一緒に殲滅する。遅れて気づくゴブリンであったが、もう遅い。ヤークトの牙が目の前に迫っていた。
二十弱いたはずのゴブリンが、ものの一分足らずで殲滅できた。これは、凄い事なのでは? と灰も今更ながら実感する。
ヤークトという火力が増えた事で、戦いも守るだけではなく攻めの姿勢もかなり重要だ。
それに、ヤークトのスキルの威嚇がゴブリンにはかなり重宝した。
ゴブリンは特性なのか、群れる事が多い。ハロンドも時折群れを作るらしいが、その数は比ではない。
下層では、ゴブリンが拠点を作って他の魔物を隷属させていたなんて話も聞く。それから起きたのが冒険者の集まりとゴブリンの戦いだ。
それほどまでにゴブリンも集まるため、ヤークトの威嚇は強い。正直に言って、効率が良い。
さらに地下三階から依頼も受ける事ができ、ゴブリンを討伐するだけで金になる。
ゴブリンは集まる習性があるため、狩らないと気づけば群れが出来ているレベルになるらしい。
集まったゴブリンが、ダンジョンから出るレベルになるかもしれない。その危険性も鑑みて、WLMO≪世界ダンジョン管理機関≫はゴブリンの討伐依頼を出している。
討伐し、魔石を集めるだけでプラスでお金が入ってくるのだ。
金欠の灰からしてみれば、正に金の生る木。ゴブリンを常に狩り続けた。
ダンジョンには一つの噂がある。それは、魔物を倒す度に成長するというものだ。外見に変化はないが、隠しパラメーターがあってそれが増えていくのではないか、という話だ。
下層の魔物と戦う冒険者が、強い魔物から攻撃を喰らってもあまり怪我をしないという事があったらしい。ただ、ダンジョン以外では通用しないらしいが。
灰も最初は隠しパラメーターがあったらいいな、というレベルであったがテイムをした事で魔物にもパラメーターがあることを知った。
現に、スラ参がゴブリンを拘束していると離さないのだ。スラ参は元はスライム。最弱の魔物でゴブリンには勝てないはず。
しかし、現にゴブリンが必死に剥がそうとしているが、離さない所かジリジリと距離を詰めている。
魔物を倒す度に強くなる、というのは強ち間違いではないのかもしれない。
その日はゴブリンの殲滅を終え、換金すると五千円近いお金を貰た事で久々の外食でファミレスに行く。
次は四階だが、二階三階と攻略できたのだからいけるだろうと、その日は楽観していた。
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