36話『災厄の竜 前哨戦 4』
エルフ達は弓以外にも、武器を使う。それは、剣や槍だったりする。
ただ、弓の方が得意という者が多いため、弓を使っての戦闘を好んでいる。
魔物達との戦いで、遠くから狙撃して倒すことができればよかった。だが今は、接近戦、乱戦になっていた。
こうなったか。
灰は一人心の中で呟く。
口にするほど、暇はない。
魔物、魔物、魔物、魔物。視界の全てが魔物に覆い隠され、魔物同士の隙間から、時折エルフの姿が見える程度。
それほどまでの混戦状態となっていた。
剣を払い、ゴブリンの喉を掻っ切る。さらに手首を斬り飛ばす。
喉を斬れば死ぬが、死ぬまでの僅かな時間で魔物は全力を尽くす。死ぬという恐怖はない。ただ、相手を殺すためだけの機械となっていた。
そのために、手首を斬り落とす必要があったのだ。
リベレッサに気を配りたい灰だが、そんな余裕がなく戦いに没頭するしかなかった。
ただ、リベレッサが死んだような感覚はない。遠くからでも場所が大体分かった。今もその感覚あるため、生きていると信じている。
逆に言えば、それしか信じるものがない。
「多い。多い! 多いッ!!」
鬱憤を晴らすように、灰は魔物を蹴って距離を離す。間合いが離れた事で、別の魔物を斬ってエルフ達の負担を減らそうとする。
それが本当に減っているか、今の灰には分からない。しかし、減っていると思わないとやっていけない。
魔物の波に巻き込まれた今、前線は地獄。味方と敵が入り混じり、戦っている。後衛にまでは魔物が流れ込んでいないが、それも時間の問題だ。
幸い、弱い魔物ばかりのお蔭で今は戦えている。
もし、この中に強い魔物が入っていたら、敗色濃厚だった。
今までの戦いの経験、そしてダンジョンによる身体能力の上昇。
この二つが今の灰を強くしている。多くの魔物と戦い、生き残らせている。それでも弱点は存在する。
灰の能力は他人頼り。自分を強化しても、テイムしている魔物を弱くしてしまう。
この状況で使うべきではない。もし使えば、不利になる可能性がある。
今の灰には、この状況を変えるほどの力、必殺技を持っていなかった。
ただ、頼みの綱が一つある。それは、
「精霊魔法はどう使えばいいんだ?」
魔物を斬り伏せながら、思い出すのは長の言葉。精霊魔法を使うには詠唱をする必要があるらしいが、その詠唱の文は契約した精霊が教えてくれるらしい。
今、精霊は教えてくれない。それは、精霊魔法が使えないという事。使いたい時に使えない魔法は欠点でしかない。
「精霊ぇ! いいから魔法を使わせろ!」
物量で飲み込まんとする魔物に、灰は必至に抵抗する。だが、如何せん数が多すぎる。
灰は、多くの相手を屠れる技を持っていない。
囲まれ、徐々に縮まりつつあった輪の一部が崩れた。
一筋の光が指した。そちらに目を向けると、リベレッサが剣を持って魔物の輪を崩していた。
剣を中心に風が渦巻いており、それで崩したと言うのは明白。それを目が吸い込まれるように見ていると、リベレッサが灰に近づき、背中合わせになる。
互いの背後、死角を守るように灰とリベレッサは戦う。
「どうして来た!?」
わざわざ魔物がいる方に近づくのは、死に行くようなものだ。咎めようとする灰だったが、逆に咎められてしまう。
「魔物に囲まれらていたら、来るに決まってるじゃないですか! 周りが見えてないんですか!?」
「うぐっ」
ぐうの音もでない。
事実、灰は戦いで徐々にエルフから切り離されていた。そのため、もう少しすれば助けが入れないほど遠くで魔物に圧殺されていただろう。
精霊魔法に夢中で、灰はエルフの位置を気にしていなかった。
「た、助かる」
周りが見えていなかった事に灰は反省しつつ、目の前から迫る魔物の群れと戦う。それはリベレッサも一緒で、あまり使わないとはいえ精霊魔法が付与された剣で軽く屠る。
「灰!」
「なんだ?」
リベレッサに名を呼ばれ、反応するよりも先にリベレッサの手が灰の身体に触れた。
「短いですが、精霊魔法を付与します。これで戦いは楽になるはずです」
詠唱はなく、風の精霊が力を貸し、灰が持つ銀の剣に風が走る。
エルフと人との、違い。灰は精霊魔法を使う時は詠唱を必要とするが、エルフは詠唱せずとも使える。それが契約、という形に出ているのだろう。
ずるいという言葉が脳裏に浮かぶが、今はそれを頭の隅に追いやる。
大事な事は、魔物を屠れる力を手に入れたという事。
風を纏う剣を振ると、豆腐でも斬るように魔物が倒せる。それが快感で、周りに気を配りつつ戦っていると数十秒ほどで精霊魔法は消える。
もう一度借りようか、と考えリベレッサに目を配ると、魔物と戦っているとそれ所ではない。
彼女を助けて、再び背中合わせになった。
「そういえば一つ言う事がありました」
リベレッサの声がすぐ近くで聞こえる。
息遣いすら聞こえるほどの距離で、少し恥ずかしいという思春期男子の恥じらいが胸の奥底で生まれ、犬の餌にした。
「言う事?」
「こちらの後続がもうすぐ到着します。なので、もう少しの辛抱です」
封印されていた化け物を倒すための主力は、後続にとってある。予定では灰のいる集団で道を作る予定だったが、予想以上に多い魔物にそれ所ではなくなった。
なので、後続も一緒に戦うことになる。彼らを楽にするためにも、今は一体でも多く魔物を屠ろう。
戦いは終盤に迫りつつあった。
ブックマークの登録、よろしくお願いします。
下の方に評価や感想が出来ますのでしてもらえると、励みになりますので何卒よろしくお願いします




