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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
第二章 林間学校と災厄
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31話『森へ 5』

 作戦会議室にいる三人のエルフ。

 一人はガッシリとした身体つきに長身で寡黙、落ち着いた男性。二人目は枯れた木を思い浮かべるほっそりとした老齢の男。

 そして三人目は中性的で性別がどちらとも分からず、いつもならこじんまりとした家屋で暮らしているエルフの纏め役である長がいた。

 

 長は、部屋中央の長机の奥にある椅子に腰を下ろし、長机を挟むように二人のエルフが立っている。

 そして、新たに二人と二匹の魔物の来客が現れた。灰とリベレッサ、スラ参とヤークトの事だ。

 リベレッサが扉を開けた事で、二人の男のエルフから視線を集める。今までの注目された視線とは違った威圧感のある眼力に、灰の足が固まる。

 

 その灰の背を押したのは、ヤークトだ。静かに、元気出すように励ましてくれて灰は密かに感謝した。

 

「灰を連れて来ました」


 そんな事露知らず、リベレッサは灰を部屋に入れる。

 進むリベレッサに灰がいつまでも立ち止まっている訳にはいかず、一緒に進む。

 

「わざわざ来てもらってすまない」


 寡黙なエルフ、グライが喋り出す。低く、カッコいい大人の声だ。あまり聞いたことない声だな、と灰は思う。

 

「本来ならこちらが案内しないといけない所だが、こちらも色々とあってね。理解して欲しい」


「ええ。リベレッサから聞いているので、十分に理解しているつもりです」


「そうか、なら良かった」


 グライと会話しながら、灰は言葉にできぬ違和感を覚えた。それがなんなのか、喉にまででかかっているのだが上手く言葉にすることが出来なかった。

 

「彼が長のお願いした応援、ですか?」


 品定めするように、灰をジロジロと観察するのはもう一人のエルフの老齢の男性、アガルタである。

 その視線に灰は少しばかり顔を歪ませた。誰も品定めする視線を好んだりはなしない。

 

「ふーん、そうですか」


 観察が終わり、興味が失せたのかそっぽを向いた。

 アガルタの視線で、喉まで出かかっていた言葉を理解する。

 グライが灰に向ける視線が他と違う。他のエルフは興味や観察するような視線をぶつけてくるが、グライは一人の人間として認めている。

 エルフは人よりも種として優れている、という自負があるため見下している。それが灰の感じた違いである。

 

 グライはリベレッサと同じく、最初に灰と長が会った時同席していた。そのため、灰を認めていた。

 

「灰、あなたが来てくれた事感謝します。お蔭で戦う準備が出来ました」


「いえ、俺はそんな」


 そこまで頼りにされることに慣れておらず、灰はおろおろとしながら引き下がる。

 

「それでは全員が集まったので、作戦会議を始めましょう」


 途中でリベレッサが離れた事で、作戦会議は終わってしまっていたのだ。また集まった事で、作戦会議は再開する。

 

「灰が来たので、初めから説明するとしよう」


 進行係はグライだ。

 低い大人の声が部屋の中に響く。

 

「今朝、封印が破れるかもしれないという報告が入った。状況確認の為に先遣隊を向かわせたが、魔物の襲撃を受けた。重傷者が数人と軽症者が大勢でた。魔物がいつもの数なら対処できるが、かなりの数の魔物に襲われたらしい。それが今の状況だ」


 話を聞く限りでは、まだそこまで進行した後ではないと知り、灰は少しホッとした。

 もし終盤に参加したらと思うと、申し訳なくなってしまう。最後の最後で参加すると、もう少し早く来れなかったのかと自責の念に苛まれる。

 

「現状では、封印されている地点までたどり着けないという状況だが、それを打破するために隊を二つに分けようと思う。最初の部隊が魔物と戦闘、道を開く。その後、本丸が敵を討つ。この作戦に異論は?」


「ないですな」


「ありません」


 アガルタ、そしてリベレッサは同意する。長は何も答えず、ただ微笑んでいるだけだ。

 

「異論がない、という事で先に進めようと思う。部隊の編制だが――」


「少しよろしいですか?」

 

 グライの会話に割り込んできたのは、枯れた木のような老齢のエルフ、アガルタだった。

 小さく右手を上げて割り込むと、一瞬だけ視線を灰の方に向ける。それがなんだか不気味で、灰は身構えた。


「部隊を分けるという話ですが、彼を最初の部隊に編制しませんか?」


 アガルタの言葉に、グライはピクリと眉を僅かに動かす。リベレッサは予想だにしない言葉に突っかかった。

 

「何故です!? 彼はあの化け物と戦う上で必要不可欠な存在なんですよ」


「それは本当ですか?」


 アガルタの言葉は、この村に住む全てのエルフの総括した言葉だった。


「確かに、長の言ったことです。そうなのかもしれない。しかし、人に何ができるのですか? 昔からそうです、人なんて私達エルフには敵わなかった。なのに、その彼が必要不可欠な存在? 私にはそれが理解できないのです」


 リベレッサはすぐさまに言い返そうとするが、アガルタの言葉にも一理ある。だからこそ言い返すことができず、ぐぐぐと静かな歯ぎしりをしながら、どうするべきかと考えていると、肩に手を置かれた。

 

 そちらに目を向けると、灰と目が合う。

 頷くと小さな声で「大丈夫だから」と言って前に出た。

 

「やりますよ。そうすれば、納得してくれるんでしょ?」

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