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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
第二章 林間学校と災厄
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18話『登山』

 登山と聞けば、何を思い出すだろうか。勾配な坂を上り、不安定な足場を通って山を上がり、終わった後の爽快感。山頂はいつもとは違う景色が広がり、空気は美味しく、良い事一杯なのかもしれない。

 そんなもの、糞喰らえだ。

 

 

 

 管を登頂させるために、灰のグループは頑張った。ある時は泣き言を言う菅を励まし、叱咤し、背中を支え、さながら介護をしているような気分に陥っていた。

 こんなものは、灰の知っている登山ではない。

 山頂に辿り着いた時には、管以外の五人は疲れ果てていた。

 

「死ぬかと思った……」


「だな……」


「俺の知っている登山じゃない」


「これっきりで御免だぞ」


「……疲れた」

 

 灰、直人、有島、弧村、森田。五名の戦士は疲労困憊という顔をしているが、管はそうではなかった。

 

「ごめんな、俺のために」


 皆に謝り、申し訳なさそうにしていた。

 もしここで、そんな疲れなかったなという空気、態度を取った瞬間、五名の戦士は即座に寝返るだろう。

 謝るのも、管の心が善良という証なのだ。

 

 灰の班が一番最後であり、先に辿り着いていた担任が昼飯の弁当を配っていた。

 管が皆の為に、と全員の弁当を取りに向かった。五人は、もう歩く気力すら残っていないからだ。

 お言葉に甘えて、と手頃な腰を落ち着かせるベンチを見つけ。そこで休憩を取ることにした。

 

 座ると、今まで足に蓄積していた疲労が重りになるような感覚が足に広がり、立ちたくないと思わせるほどだ。

 弁当を持ってきている管を見ると、六人分の弁当、そしてお茶のペットボトルも持って来ようとしている。

 六本のペットボトルに弁当は、流石に一人では持てないようで、なんとか落ちないように両手一杯になって運んでいた。

 

 その姿を見て、灰はすかさず駆け寄る。

 

「手伝うよ」


「俺も」


 灰の他に直人も一緒に駆け寄り、三人が手分けして運ぶ。弁当とお茶のペットボトルを配り、ようやくの昼食を頂く。

 弁当はハンバーグがメインで少し冷めているが、労働の後の昼飯は非常に美味しかった。

 登山に介助に、といつも以上に動いたこともあってすぐに食べてしまう。

 

「はあ、美味しかった」


 昼食の時間は一時間ちょっとあり、それから下山する予定だ。その間の休憩時間、昼食を食べ終わった後は自由行動だ。

 近くの展望台に行って景色を見に行くのもいいし、食事が終わって遊ぶも良い。

 

 ただ、灰達のグループは疲労困憊。食事をしてある程度回復したといっても、どこか見に行ったり、遊んだりする気力は残っていない。

 休憩時間はもっぱら、ベンチに座ったままスマホを弄る。

 

 灰は一日目の夜に、ゲームオタクの弧村から教えてもらったアプリゲームをしようとするが、ダウンロードに時間がかかり、そっとアプリを閉じた。

 このまま続けていれば、休憩時間が潰れてしまうと考えたからだ。それなら、他の事をしたほうが良い。

 

 スマホから顔を上げると、有島と弧村が一緒のアプリゲームをしていて、森田はスマホをジッと見ている。直人と管はトイレに行って、ここにはいない。

 何をしようか、と考えていると森田のスマホの中が目に入る。

 誰にも見せまいと、隠すように顔に近づけているが完全に隠せるわけがなく、長い前髪が目に入ろうとしたのを手で触れた時に偶然目に入ってしまったのだ。

 

「森田は何をしてるんだ?」


 ここは黙ったほうがいいかと考えたが、暇故に話しかけてしまう。

 突然名を呼ばれ、森田はスマホから顔を上げて動揺している。何をしたらいいか、分からない顔だ。

 

「いや、すまん。スマホの中が見えてさ」


 灰が事情を説明すると、ああと理解した顔をする。

 

「小説、見てた」


 たどたどしくぶつ切りで単語だけ言う森田。ここで会話が終われ、と願う森田であるがそうはいかない。

 暇で会話をしたい灰は、当然ながら質問をする。

 

「どんな小説を読んでるんだ?」


「……えっと、アニメの」


 悩みに悩んだ末、灰にジャンルで教える。あまり踏み込んでほしくない、という雰囲気が森田が漂わせているのが分かったため、話しやすい有島に声をかける。

 

「有島はさ、最近の小説でアニメのやつって、何か面白いのあるの?」


 アニメオタクである有島なら分かるだろう、と質問すると弧村と一緒にゲームをしていた有島が、ん? と顔を上げて少しばかり考える。

 

「あるっちゃあるけど、人の感性によるからな。最近だと、最初から強い主人公が敵と戦ったりするのが多いかな」


「それ、面白いのか?」


 少しずつ強くなっていくのが楽しいのに、という考えが灰の中に浮かぶ。ゲームでも、最初から強い事はない。少しずつ、着実に強くなっていく過程があるからこそ面白いのに、と灰は思う。

 

「だから言ったろ? 人の感性によると。中には少しずつ強くなる過程がいらない人もいるんだよ」


「そういうもんか」


 人の気持ちは人それぞれ。時代の流れによって、楽しみ方も変わって来るのか考えていると直人と管が戻って来る。

 

「ふう、ようやく戻った」


 洗った手をハンカチで拭く直人は、疲れた~と漏らしながら灰の隣に座る。

 

「遅かったな」


「人が並んでたんだよ。灰も行っといたほうがいいぞ。行列になる前に」


「マジか……」


 休憩時間終わりにトイレに行って、行列で待つ事を想像した灰は立ち上がる。

 

「ちょっと行って来る」


 行列で待たされ漏れる、なんてことは絶対に避けたい。

 早足で少し離れた所にあるトイレに行くと、偶然ながら人は誰もいない。

 行列がまだない事に喜んだ灰が一歩、トイレに入ると景色は一変、森の中にいた。

 

「え?」


 トイレという言葉すら見つからないほどの一面森模様で、まるで魔法のようだ。

 そして、灰にはこの景色が見覚えあった。

 

「またここか」


 エルフの住む森に、灰はまた迷い込んでしまった。

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