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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
第二章 林間学校と災厄
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17話 『二日目の朝』

 朝は鳥の鳴く声で目を覚ました。微睡で意識が覚醒しない中、灰はぼんやりとながらエルフの事について考えていた。

 彼女達が化け物を封印をする中、何が出来るだろうかと。

 正直に言えば、そんな事を考えてもパッと思いつく訳ではない。意識が覚醒するまでの間、答えの出ない問題についてずっと考えていた。

 

 

 

 床から出て顔を洗った灰は気持ちを切り替えるが、肉体の疲労は消えず、ああ゛~と呻き声に近い声をだす。

 

「何かおじさん臭いぞ」


 隣で一緒に顔を洗う直人から指摘を受けるが、知った事ではない。

 

「うっせ」


 軽く一蹴し、調理場へ向かう。朝食は自分達で作らないといけないのだ。食材は先生方が朝から準備してもらった卵とベーコン、あとは食パンがある。

 簡単に作れるものといっても、ベーコンエッグぐらいだ。オリジナリティーを出そうとする有島、つまみ食いをする管を追い出してどうするべきか考える。

 

 自分で作るのはいいが、どれくらいの調味料を入れればいいか分からない。スマホを使って調べようにも、何故か繋がらない。昨日まではアンテナが五本立っていたというのに。

 電波に関しては、赤石達のグループが騒いでいるのが調理場の外からでも聞こえた。

 

 赤石蔵行。灰のクラスにあるスクールカーストの中でトップの位置に君臨している。

 爽やかな顔立ちで運動神経抜群。サッカー部に所属していて、次期エースと言われるほど上手いらしく、女子からも人気だ。

 ただ、噂では灰のクラスのマドンナである東雲真冬の事が好いているらしい。それで女子の誰かと付き合ったという話は聞いて来ない。

 

 そして、その赤石に好かれている東雲はというと、ちょっと離れた所で同じ女子グループと一緒にキャッキャと笑いながら調理している。

 

「朝食はどうする?」


 弧村に声をかけられ、灰は現実逃避を辞めた。

 現在、灰のグループの役割分担は調理班が灰と弧村、そして森田。調理以外の仕事を直人、有島、管の三人二つのグループで分かれている。

 

「どうするって言われてもな。どうしようも出来ないぞ。俺は調理できるけど、スマホか本がないと出来ないし」


 灰は調理ができるが、レシピがないと作れないレベルであり、弧村に至っては有島よりマシだからという理由。森田はあまり仕事をしたくない雰囲気を察して、灰が無理矢理に同じグループに入れた。

 

「一先ず適当にやってみよう」


 食材と調味料を持って森田が戻って来た事で、灰の班は朝食準備を取りかかった。

 

 

 

「味がしねえ」


 直人がベーコンエッグを口に入れた開口一番、味の感想を漏らした。

 

「うるせえ! しょっぱくないよりマシだろ!」


 塩を入れ過ぎて不味くなるよりは、と安牌を踏んで調理をした結果、塩分少な目の身体に健康的な料理に仕上がった。

 それもこれも、スマホの電波が繋がらないのが悪い。その電波も、調理が終わった後に繋がった事で灰は苦言を漏らしている。

 

 何故いま、と。

 食材本来の味を楽しんだ朝食の後に待っているのは、登山であった。調理班の三人は作った段階で仕事が終わり、今は準備班の三人が食器を洗っている。

 

 その手伝いをしながら、灰は登山のことについて考えていた。詳しい話はあとで担任から説明があるだろう。問題があるとすれば、と灰の視線は食器を洗っている管に向いていた。

 その太ましい身体。悪く言えばデブなのだが、登山に向いた身体とはいえないだろう。

 途中でリタイアしなければ良いが、と最悪な状況を想定していた。

 

 体育で着るジャージに着替え、灰達は登山をする。先生からの説明で、登山するのは近くの小さな山。昼には登頂して昼食を食べ、そして夕方までにはここに戻る予定らしい。

 その登頂する山までは、バスや車までの乗り物は一切使わず徒歩で行くことになった。それを聞いだ管は、まるで地獄の始まりだというべき顔をし、その横顔を見た灰はきっと一生忘れない思い出になった。

 

 登山する山に向かって出発して十分、既に管の顔は汗だくで息切れを始めているほどだ。

 やばい、と悟った灰は即座に同じグループの四名を集めて緊急招集した。

 

「分かっていると思うが、管がヤバいです」


「陸に揚げられた魚だよな」


「魚というより、セイウチでは?」


 有島の例えに、セイウチの名を上げた弧村が鳴き真似をする。それが少し面白く、くすりと笑って場が和んだ。

 

「一先ず、交代で管のフォローに入ろう。最初は俺が行く」


 言い出しっぺである灰が管の隣に着く。

 

「大丈夫か?」


「うん、なんとか」


 空元気で笑う管だが、汗を流して息切れをする様は大丈夫には見えない。問題なのは、まだ歩いているだけということなのだ。

 登山のとすら始まっていない。交代で管のフォローに入り、有島が担当の時にようやく登山する山に辿り着いた。

 

 出発してから三十分ぐらい経っての事だ。

 

「ここに登るぞ」


 教師がそう言って山の前に立ち、灰はその山を見上げる。生徒が登る都合上、急勾配な山を選んでいないと思うが、それでも大きい山だ。

 見上げる灰の隣で、管の声がポツリと耳に入る。

 

「……さっき、リタイアしておけば良かった」


 その声は絶望に染まっていたが、登山をする気力、ガッツはあるようだ。そのガッツがある限り、灰はフォローしようと決めた。

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