表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
第二章 林間学校と災厄
41/111

15話『ハイオーク』

 灰が距離を詰めると、ハイオークも同じように距離を詰めてくる。ハイオークは獰猛な笑みを浮かべ、その笑みには自信が満ち溢れている。

 敗北という味を知らない、もしくはする事がないという絶対的なる自信があるからだ。

 

 灰は『ONE FOR ALL』を敢えて解除した。使用したまま戦っても良かったが、灰自身がハイオークの猛攻に耐えられる自信がないためだ。

 こんな状況であるにも関わらず、灰はハイオークと一対一のタイマン勝負をしたいという欲求が心の奥底にあった。

 

 もしそんな事をすれば、勝てないのは灰でも分かっている。だが、男として生まれた以上は少なからずそういう欲求が灰にもある。

 その気持ちがあるがため、『ONE FOR ALL』を解除する時の一押しになった。

 

 ハイオークと灰の戦い、初撃は灰でもハイオークでもなかった。リベレッサの矢だ。

 リベレッサの矢が灰の隣を通り過ぎた時、髪が触れるほど接近していた。灰で矢の姿を隠されていため発射された事に気づかず、気づいたのは灰の隣を通り過ぎた時。

 

 そのときにはもう互いの距離は、駆ければ間合いに入るほどに接近していた。それ故に気づいてすぐ迎撃するが、少しでも遅れればハイオークの命が危なかった。

 灰は髪が矢で揺らされた事に、そこまで気にしていなかった。ただ、ハイオークとの戦いに集中しようと心を落ち着かせていたからだ。

 

 そのため、矢を迎撃しようと動くハイオークの姿を見て、灰は本能的に駆け出した。

 矢を囮に使い、一撃を与えようと動くが、動いた先で灰とハイオークの視線が重なる。

 

 矢を迎撃したのは右手だけ。それは迎撃、と呼べるものではない。ただ飛んでた矢を掴んだ、と児戯でもするかのように簡単に行う。

 右手を握りしめて矢を折ると、左腕が動く。

 

 ハイオークから見て左側、回り込もうとしていた灰目掛けてこん棒で薙ぎ払う。

 ハイオークの木のこん棒は、オークのと違って幹が太く、それだけで当たれば致命傷となりえる。最低でも腕の骨が一本か二本、折れるほどだろう。

 

 灰の上半身を狙って振り払われたこん棒だが、灰は敢えて逃げず、正面から避ける。上体を反らすことで。

 続けざま、左手の盾を手放して地面に触れる。片手でブリッジした状態になり、地面を蹴った。

 宙がえりするように、灰の身体は一回転する。上体を反らした状態から、そのまま身体を戻すと、身体がその場で止まったまま狙われてしまう。

 

 そのため、灰は敢えてブリッジをした。ただ、欠点が一つあった。それは持っていた防具、盾を手放してしまったことだ。

 現状、盾役は灰だけ。その盾役が盾を手放すというのは致命的だが、灰の盾は生きている。

 

「スラ参ッ!!」


 名を呼ぶと、盾に貼り付くスライムが触手を伸ばして灰の左腕に触れ、引き寄せられる。

 左手で盾を握る灰に、ハイオークは嬉しそうに笑う。歯ごたえのある相手だと。だが、敵は灰だけではない。

 死角から、ヤークトがハイオークを強襲する。背後から襲い掛かったヤークトに、ハイオークは振り向きざまにこん棒を振り下ろした。

 

 だが、ヤークトが興味を失ったとばかりに一瞬にして距離を離す。その理由が分からなかったのは一瞬だけ、今ハイオークは灰に背を向けている。

 それが狙いか、と気づいた時には既に遅い。

 灰に背を向けたまま、距離を離そうとするが、何かがしっかりと胴体を掴んでいる。

 

 掴んでいる物を辿れば左腕の盾に繋がり、触れた部分からハイオークの身を溶かし、それと同時に刺激臭を漂わせていた。

 溶解液だと気づいたハイオークは、逃げようとせずに灰に襲いかかる。するとスラ参はあっさりと掴むのをやめる。そこに灰が距離を詰めていく。

 殲滅せんとばかりにこん棒を振り回すハイオークだが、真由との特訓をした灰にはその動きが見えていた。

 

 避け、盾で受け止め、受け流し、スラ参と協力して致命傷を避け続ける灰に、苛立ちを募るはハイオークである。先程のオークの戦いと、全く一緒の光景だ。

 ただ違うのは、数が一体という事。

 

 灰が引き付けている間、ヤークトが、リベレッサが攻め続けた。そちらに意識を向けようにも、灰の姿が目障りで意識を割くことが出来ずにいる。

 身体に傷が増え、血を流し、息を荒げるハイオークの動きは乱れに乱れており、こん棒が振り下ろされた際にハイオークの腕に飛び乗って上に跳んだ灰は顎を左足でハイオークを蹴り上げた。

 

 顎を蹴られ、軽い脳震盪を起こすハイオークに灰はさらに右足で顔を蹴ると、地面に倒れてしまった。それほどまでにハイオークは負傷し、戦闘継続が困難であった。

 地面に横になりながら負ける、と認識したハイオークはせめて一矢報いたいと思い、そこで目に入ったのは遠くにるリベレッサだ。

 

 あれならやれる、と何度も倒してきたエルフの姿が脳裏に思い浮かぶ。ハイオークが血を吹き出しながら立ち上がると、決死の覚悟で捨て身の突撃を敢行する。

 その先にいるのはリベレッサで、彼女は目を見開いて驚いた表情をするが、弓を射る手は止めない。

 

 何本も矢がハイオークの身体に突き刺さるが、その身体の動きが止まらない。逆に加速している。命の灯が消えようとしている事を、ハイオークは知っていた。

 そのため、この程度で立ち止まる事は許されない。

 

 止まらないハイオークに、リベレッサは矢を射るのを辞めて回避行動を取ろうとする。だが、遅すぎた。

 ハイオークの巨躯で突撃されれば、触れただけで車に轢かれたように吹き飛ぶ恐れがある。

 

 足の速いヤークトでも、ハイオークの巨躯を止めることは不可能に近い。灰が全力で走ったとしても、追いつくことは不可能だ。

 しかしそれは、スキルを使わないのならの話だ。

 

 ハイオークがリベレッサの目前にまで近づくと、こん棒を振り上げる。こん棒がエルフの軽い身体に当たれば、簡単に潰されてしまう。後方で弓を使うことに長けたリベレッサは、目の前まで近づかれれば一巻の終わりだ。

 

 精霊魔法を使う余裕すら与えてくれない。痛みに耐えるように、逃れるように目を瞑った。だが、リベレッサが予想していたような痛みは全くといっていいほど訪れない。

 目を開けると、目の前には灰の後ろ姿。ハイオークの手首を斬り落とした灰は、そのまま首を刎ねた。

 

 宙を舞った首が地面に落ちたと同時に、ハイオークの身体は塵のようになって消えた。

 

ブックマークの登録、よろしくお願いします。

下の方に評価や感想が出来ますのでしてもらえると、励みになりますので何卒よろしくお願いします

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ