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ダンジョンの魔物使い  作者: 佐藤龍
第二章 林間学校と災厄
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8話『帰還』

 灰はエルフに協力することになった。明らかに戦力不足なのは否めないが、カーテンの向こう側にいる人は何か策があるのだろう。でなければ、灰に協力を求める筈がない。

 助けてくれるという言葉を聞いて、カーテンの向こう側にいる人の声は柔らかくなる。

 

「そう、助けてくれるのね。良かったわ、安心した。今後の事はリベレッサ、あなたに頼むわ。いいわね?」


「かしこまりました」


 座ったままの姿勢で、リベレッサは恭しく一礼する。

 協力する、そういった灰だが忘れてはいけない事を思い出した。

 

「あの、私学校があるんで協力できるのには時間が決まっているんですが。あと帰る方法も教えてもらえると」


 ここに来たのも、元は帰るための方法を探しての事だ。本来の目的を忘れる訳にはいかない。そして、カーテンの向こう側にいる人は知っている可能性が一番に高い。

 

「帰る方法を教える前に、今後も付き合う以上は今のあなたの現状を教えたほうが良いでしょう」


「現状ですか?」


「ええ。まず、どうしてあなたがここに来たか、それは私でも分かりません。ただ、分かっているのは私よりも高位の存在が呼んだかもしれないという事です」


「「それは……」」


 カーテンの向こう側にいる人の言葉に、グライとリベレッサが口を半開きして驚いている。二人が何故驚いているのか、灰は分からず置いてけぼり感を覚えた。

 

「あなたはまだ知らなくて良いことです。それで帰る方法ですが、今はこの世界とあなたの住む世界の境界線が今、曖昧になっているのです。それがあなたをこちら側に呼んだ要因の一つでもあります」


「ん? 呼んだのは高位な存在なのでは?」


 カーテンの向こう側にいる人の言葉に少し疑問を持ち、灰は質問する。先程の言葉では、高位な存在が呼んだと言った。だが、今はまた違う要因を言ったため灰は少しばかり混乱した。

 そもそも、別の世界に飛ばされたというだけでもお腹が一杯なのに、その理由を聞くだけでも頭が爆発寸前だ。

 

「ええ、呼んだのは高位な存在です。ただ、呼べば誰でも来るわけではないのです。もし来るのなら、あなたの世界で行方不明者が大勢出ることでしょう。私が言っているのは要因の一つ、あなたがこの世界に来るための可能性を大きく増やした、その理由を言っているのです。これで分かりましたか?」


「はい、なんとか」


「では、話の続きです。現在、世界の境界線が曖昧になっています。その理由はこの森の奥で封印されている化け物が目を覚ます他ありません」


「それを封印すれば帰れると?」


「まさか。そんな訳ないでしょう」


 ええ、と灰は心の中で言葉を漏らす。今の会話の流れだと、そう思ってもおかしくはない。

 

「なら、どうやって帰れるんですか?」


「時が経てばいずれ戻れます。こちら側に来たのも、世界の境界線も曖昧になっているから。時が経てば、境界線も安定する時もあるでしょう。その時にあなたは帰ることが出来ます。だから……」


 途中、灰の身体が仄かに輝く。うっすらと透明になりつつあり、消えそうな自分の身体を灰は静かに眺めていた。

 

「これは……」


 目の前で透明になる灰に、リベレッサは思わず呟く。透明になる事など今まで見た事がないため、不思議な光景を目にしていた。

 完全に消えるには少し時間がかかる。消えるまでの間に、カーテンの向こう側にいる人が最後の言葉を言う。

 

「またここに来ることがあるでしょう。その時は、リベレッサを送りします。なので、その場でジッと待っていてい下さい。いいですね?」


 はい、と言おうとしたが口は動くが言葉がでず、灰の身体は完全に透明になって消え去った。

 

 

 

 気づけば、入浴施設に向かう道のりに立っていた。

 

「帰って、来れたんだよな?」


 本当に戻って来たのか、灰は少しばかり不安で半信半疑になっていた。だが、外は真っ暗だ。

 さっきまでいた場所は明るく、昼間のような感じだった。いきなり夜になったりすることはないだろう。

 入浴に行こうとした時も夜だった。帰って来れた、そう理解した時にはホッと心が安堵する。

 

 良かった、と悩みの一つが晴れた時また別の問題に気づく。

 

「やばい、風呂ォ!」


 エルフのいた場所には、体感で一時間以上はいた。まさか、風呂の時間を過ぎているのではないか、その恐怖が灰に襲い掛かる。

 汗臭い身体で二日目を過ごす、それは周りにどう思われるか考えただけで拒絶反応が起こるほど。

 

 それに、周りから風呂に入らない奴。不衛生な奴だと思われなくない。灰が急いで走ると、入浴施設の明かりが外からでも見えた。

 間に合った、と安堵しつつ灰は速度を落とさず何か入ると男子教師が仁王立ちしている。

 

「遅いぞ。もうそろそろで入浴時間が終わる所だぞ」


「すみません!!」

 

 灰は脱兎のように男湯に向かう。脱衣所で服を脱いでいると、安心してか考える余裕が生まれる。

 考えていたのは、時間だ。あちらにいたのは、一時間以上。そして入浴時間は三十分で交代だったはず。

 考えられる答えは一つ。時間の経過が違うという事。

 

 思えば、カーテンの向こう側にいる人は境界線が曖昧と言っていた。もしかしたら、時間の流れも曖昧なのかもしれない。

 短い入浴時間を灰は考え事をしつつ、手早く髪と身体の汚れを落とした。

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